137.わちゃわちゃとした会話について 1
「なぁ、ヴァン!!」
ザウドックはルクシオウスと共に、ヴァンのところへ押しかけた。
そうしたら、そこにはヴァンだけではなく他にも人が居た事にザウドックとルクシオウスは驚く。
「あら、『雷鳴の騎士』様とそのお弟子様ですか。何かごようでしょうか」
「先ほど弟子様にはお会いしましたわよね」
「ディグ様は? え、いないの?」
上から、ナディア、フェール、キリマの言葉である。
そう、その場には三人の王女と、その侍女たちが控えていた。
ナディアはどうしてここにきたのだろうと不思議そうな顔をして、フェールは先ほど会ったことを思い出したようにつぶやき、キリマはディグが居ないことに肩を落としている。
「何?」
そして王女たちに囲まれながら平然としているヴァンは、ザウドックに問いかける。
「え、ええと、その……」
ザウドックはヴァンにフェールと何とか会えないかと頼もうとしていた。そして突撃した先にフェール本人が居たため、正直何と答えていいか分からなくなっていた。視線はフェールの方をちらちら見ている。
ヴァンは用件を言い出さないザウドックになんなんだろうと不思議そうな顔だ。対称的にナディアはそういうことかと納得をする。
(フェールお姉様とキリマお姉様の方を見ている。『雷鳴の騎士』様のお弟子様は気になっている方がいるのかしら)
ナディアはとても察しの良いお姫様であった。
そう、納得をするとザウドックとルクシオウスに声をかけた。
「折角いらしたのですもの、『雷鳴の騎士』様とお弟子様も一緒にお話をいたしませんか?」
にこやかにナディアが声をかける。
そうすれば、用件を言い出せずにいたザウドックと面白そうに笑っているルクシオウスは頷き、椅子に腰かけることになった。
侍女がすぐにザウドックとルクシオウスの分の飲み物を用意する。
「で、ヴァンはお姫様三人と何をしてたんだ?」
「話していただけです」
ルクシオウスに問いかけられて、ディグと同じ立場の人相手だからと敬語でヴァンは答えた。
英雄の弟子であろうと、お姫様三人と仲良く当たり前のように会話を交わすなどということはそうはない。実際にザウドックは『雷鳴の騎士』ルクシオウス・ミッドアイスラの弟子で養子だが、トゥルイヤ王国の王族とそこまで親しくしているわけではない。知人ではあるが、王族相手に気安い態度をとれるわけではない。
「話していただけ、ねぇ……」
そういいながらルクシオウスはちらりと、ナディアの傍に控える数匹の召喚獣に視線を走らせる。
《ファイヤーバード》のフィア、、《グリーンモンキー》のニアトン、《ナインテイルフォックス》のキノノがその場には当たり前のように控えていた。
(ディグに聞いてはいてもやっぱおかしい。三匹の召喚獣を当たり前のように顕現させ続けられるなんて、驚くべきことだ。それでいて王女とこんなに仲良いのも驚きだしな)
ルクシオウスは素直に驚いていた。ヴァンのあまりもな非常識ぶりはディグから少なからず聞いていたが、それでもやはり驚くものは驚く。ヴァンという存在はそれだけおかしい。
「お弟子様は、フェールお姉様とキリマお姉様といつお会いになったのですか?」
「お弟子様って……ザウドックでいいです。俺のことなんて」
「さっき会ったのよ、ナディア。ザウドックはすぐにどっかいっちゃったけど」
ヴァンにルクシオウスが話しかけている一方で、ナディア、ザウドック、キリマが口々に言う。
「そうなのですか。では私とは初対面ですので改めてご挨拶をさせていただきますね。私はナディア・カインズ。この国の第三王女にあたります。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。ところで、その、召喚獣は……」
「それはヴァンの召喚獣よ。ナディアの周りにはいつもいるわ」
ナディアが挨拶を交わし、ザウドックが返事をする。それに口出しをしたのは、フェールである。
「そ、そうなんですか!」
ザウドック、フェールに声をかけられてびくりとする。
その態度にナディアは悟る。
(この方は、フェールお姉様のことを気になっていらっしゃるのね。……フェールお姉様ももしかしたらお気づきになられたのではないか)
などと、考えながらナディアは笑みを浮かべて、フェールとザウドックを見ている。
「どうかなさったの?」
「い、いいいえ! あ、あああの」
ザウドック、フェールに話しかけられてどうしようもないほど挙動不審である。
「……フェ、フェール様の、ご、ご趣味は?」
そして挙動不審のザウドックがようやく聞いたことはそれであった。
ルクシオウスは思わず噴き出した。
キリマは何が起こっているんだろうとわくわくした目で二人を見つめている。
ヴァンは、
「ナディア、これ、美味しい」
机に置かれたお菓子を口に含み、ナディアに話しかけていた。
ザウドックの挙動不審とかには一切興味がないようであった。
ナディアはそれに返事を返しながら、視線はフェールとザウドックに向いていた。
――――わちゃわちゃとした会話について 1
(そこには六人もの人間が揃っている。『雷鳴の騎士』の弟子は、第一王女様を前に挙動不審である)
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