ギルガラン・トルトの思う事
ギルガラン・トルトは、何とも言えない気持ちになって仕方がない。ギルガランは、ヴァンの事を最初見下していた。何故平民でありながら『火炎の魔法師』の弟子になれたのだと、それが分からなかった。
ギルガラン・トルトは貴族である。貴族は平民の上に立つ、平民と貴族では、身分差がある。例外がなければ決して同じ地位に立つ事など出来ない。
ヴァンは、平民でありながら対等な位置にいる。対等な位置に立てるのは、ヴァンがそれだけ普通とは違うから。召喚獣を従えて、圧倒的な強さを持ちあわせているから。
持ち合わせていなければ、決してその位置にはたてなかった。
ギルガラン・トルトは、今はヴァンの事を認めている。というより、認めざるを得なかったというのが正直な話である。
(……召喚獣を二十匹も従えている。そして、俺やクアンと違って、実績を残した。シザス帝国が起こしたという異形の化け物……その話を聞いたけれど、俺では対処ができなかっただろう)
ギルガランは、そう考えて、悔しいと思う。そして、ヴァンに出会うまで王宮魔法師の弟子としていきがっていた自分の事を恥ずかしいとさえ思っていた。
誇っていた。
王宮魔法師の弟子に、若くしてつけることを。
そしてその年で召喚獣を従えて、魔法も使えて優秀だといわれ続けていた。
天才だともてはやされていた。いうなれば、彼は驕っていた。自分は優秀であると。それが覆された。
上には上が居るという事を、理解させられた。
(……あれは、別次元だ。あれと俺は張り合えない)
同年代の中で、クアン以外に同等でいれる存在はいなかった。ギルガランは貴族であるし、王宮魔法師の弟子というステータスを持っていた。同年代の中で、それ以上の存在はいなかった。
(追いつけはしないだろう。俺は召喚獣を二十匹も連れるなんて出鱈目な真似は出来ない。あんな風に自由には生きられない。……ああはなれないという事を、ちゃんと理解しなければ)
ああはなれないと、そう認めている。きちんと現実を受け止め、認めた。
(……あのままヴァンを認めずに突っかかり続けていたら……俺はここにいなかったかもしれない。冷静に考えてみて、俺よりもヴァンに価値がある。だからこそ、陛下もヴァンをナディア様の結婚相手にと考えている。ヴァン自身に面倒だと思われて排除されていたかもしれないし、陛下たちが動いた可能性もある)
それは十分考えられる事であった。あの『火炎の魔法師』と呼ばれるディグ・マラナラが他国にやらない方がいいと断言した存在がヴァンである。繋ぎ止めるべきだといった。
そんな存在と、ただの王宮魔法師の弟子ではどちらを取るかといえば、ヴァンを取る……と、少なくともギルガラン・トルト本人は思っている。だからこそ、きちんと認めてよかったと過去の自分の行動に安堵する。
(でも、追い付けなかったとしてもだ。だからといって、此処で何もしないというのは論外だ。追いつけないとしても、上には上が居る事を知ったからこそ、もっといろいろなものを学んで、イニ様の弟子として恥ずかしくないようにしなければならない)
貴族の子息として、プライドがある。このまま追いつけないからといって立ち止まる選択肢もあるが、それをギルガランは選べない。このまま、自分より上の才能を前にそこで挫折する自分を想像するだけでもそれを許せないと、ギルガランは思う。
そんな自分には決してなりたくない。そんな自分など許せない。そう彼は思っている。思っているからこそ、必死に思案しながらも今を過ごしている。
自分が少しずつしか進めない道。一般的に見れば、この年で王宮魔法師の弟子という、普通よりもずっと先に進んでいるけれども、それでもヴァンの方がずっと先を進んでいるように、ギルガランにはどうしても思ってしまうから。焦りがないわけではないけれども、ギルガランは師であるイニにも、焦りは禁物だといわれている。
その言葉も含めて、ギルガランは焦る自分の心に焦るなと言い聞かせている。
(……これからの事を考えるのならば、もっとヴァンと親しくしているべきだろう。あいつのやり方は正直俺には真似は出来ないけれど、それでも学べるところがあるはずだ。それに、……あいつと親しい立場にあった方が、貴族としてもやりやすい)
ギルガランは、ヴァンに出会ってからヴァンの事をよく考える。少しずつ親しくなってはいるが、これからどんなふうに接していくべきか、そういう点についても考える。
(あいつは案外、そこまで怒りはしない。俺がある程度普通に接してても気にはしない。あれだけ英雄候補みたいになっているのならば、もっと暴走してもおかしくないのに、それがない。そういう点は付き合いやすい。ただ……ナディア様の事に関してはあいつは暴走するだろうから、その辺は俺とクアンでも気を付けておかないと。側妃様たちが暴走していた時は俺も焦った)
ナディアに何かあったらヴァンが暴走するというのは、ヴァンを知るものならば共通の認識である。国王であるシードルがヴァンを取り込む形で考えており、ヴァンが暴走するのをよしとしていない。その国王の意志とヴァンに暴走されると困るという自分の意志もあったため、ヴァンの遠征中に側妃が色々と起こしていた事にはギルガラン達も気が気じゃなかった。
(……とりあえず、ヴァンと仲良くしながら、ナディア様に何かないようにはこちらからも目を光らせておかないと。ヴァンは貴族関係に気を配ったりは難しいだろうから)
ギルガランは、そう考えて息を吐くのだった。
―――ギルガラン・トルトの思う事
(ギルガラン・トルトはヴァンに対して様々な思いを抱えているのでした)
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