111.王女達の動きについて
カインズ王国の姫。
第一王女、フェール・カインズ。
第二王女、キリマ・カインズ。
第三王女、ナディア・カインズ。
三人の王女達は、問題に直面している。
フェール・カインズは、母親の動きを警戒している。フェールの母親であるアンは、決して甘い性格ではないと知っているから。自分の母親がどのような存在であるかを、きちんと把握しているから。
王の妃は、誰もが夢見るような甘いものでは決していないとフェールは知っている。
キリマ・カインズは、母親から命令を下されている。妹であるナディアを害せ、それをしなければどうなるかわからないと。脅迫と共にされた命令を。
召喚獣たちの動きもあり最悪の事態には陥っていないもののキリマは嘆いている。
そして、ナディア・カインズは命を狙われている。忘れられた王女であった彼女が、表に出てこなくても側妃に疎まれていた彼女が、ヴァンという存在に出会って、表に出てきたため。
彼女の存在を側妃が嫌っているため。それだけの簡単な自由で、殺害を命じる。王宮とは、そんなことがよくある世界だ。
「……キリマお姉様の件はどうなっているのかしら」
『安心していいよ。ナディア様。僕らが絶対に防ぐから。それにキリマのお母さんはまだわかりやすいから全然大丈夫だよ』
《アイスバット》のスイは机に留まったまま、そう告げる。
ナディアは最近キリマとフェールに会っていない。なぜかというのは召喚獣たちに聞いている。
キリマは母親からの命令もあり、色々動いているらしい。そしてフェールは、自身の母親を警戒して色々調べているという。
王妃であるマラサは、自分がおなかを痛めて生んだわけではない王女達に対しても、驚くべきことに嫌う事もなく、寧ろよくしている。が、側妃たちは当然のように自分の生んでいない子を好いているわけがない。寧ろカインズ王国の二人の側妃は自分の娘にさえ愛情はないだろう。
『そうねー。わかりやすい方はどうにでもしやすいけど、そうじゃない方は難しいわねー』
『流石に僕らも心の中までは読めないしなぁ』
そういうのは、《ホワイトドック》のワートと《サンダーキャット》のトイリである。
現状、フェールの母親であるアンは大きな動きを見せていない。いつも通りの日常をただ過ごしているだけで、ナディアを害すような指示は出していない。
だが、そうだからこそ余計に警戒するべきなのだ。
アンがナディアを嫌っている事は事実であり、ナディアに嫌がらせをしてきたのも事実である。そのアンが、ヴァンというナディアを守る存在が傍にいない時に動かない事に対して警戒するのも当然である。
「キリマお姉様にも、フェールお姉様にも……迷惑をかけてしまっていますわね。私の味方をしてくれると言ってくれたばかりに」
妹であるナディアの味方をすると、二人はいった。母親と敵対する事に対して何も感じていない様子だった。だけど、家族と敵対させてしまう事に何も感じないわけはない。
自分の命を狙われている事に対しての恐怖心は、召喚獣たちが居るのもあり、ないというのが正直な話である。
召喚獣たちが居る限り、自分に害が加わる事はないだろうという信頼がある。
ナディアの環境は、ヴァンと出会って、表に出てくるようになった事もあり、目まぐるしく変化している。変化に対する恐怖も対してないのは、絶対に自分の味方でいてくれるという存在が確かにいるからだろう。
「……私がヴァンの傍に居たいと望んで、その結果行動してこうなっていると思うと早急に力をつけようと急ぎ過ぎてしまったのもあるわね」
ナディアはそんなことを考えてはぁと息を吐く。
(キッコ様とアン様が私を気に食わないと動く事は百も承知だったのに。もう少し、ゆっくりと変化していったらお姉様方に迷惑をかける事もなかったかもしれない)
そう考えながらぎゅっと拳を握る。
もう動き出してしまった歯車は止まらない。もう既に、変化は起こっている。それが起こる前の状況に持っていく事は不可能である。
それならば、あの時こうしていたらと後悔するよりもやるべき事がある。
「私はフェールお姉様の事も、キリマお姉様の事も好きですわ。あの二人が傷つくことは嫌ですわ。私は無力だから、貴方たちに力を借りないとその問題は解決できません。私がヴァンと並ぶ未来……。そのために、キッコ様とアン様は不必要ですわ」
仮にも半分血のつながった姉の親。それもあってナディアだって進んで排除しようと思っているわけではない。だけど、放っておけないほどに彼らは身勝手だ。そしてこれから、ヴァンの隣に立っていくためにも無用な甘さはない方が良い。表舞台に立つと決めたのだから、その覚悟は十分に必要だ。
(……私が死なない事。これは彼らが居るから問題はない。フェールお姉様とキリマお姉様の事も、多分大丈夫。ヴァンが居なくても、それでもやっていけるようにならなければ。ヴァンはこれから、こうして遠征に出掛ける事もあるだろうから。私はまだまだだから……)
ようやく表舞台に出てきた。名前も姿も知られるようになってきた。でも足りない。何れ英雄に至るであろう素質がある少年の横に並ぶには。
だからナディアは、そのために動くのだ。
―――王女達の動きについて
(フェールとキリマは互いに母親を警戒し、ナディアは召喚獣たちに囲まれながら改めて動き出す)
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