110.見た事のない魔物について 2
「クスラカン、話と違うんだけど」
『ご主人、俺が見たのあれじゃない!』
「じゃあ、二匹はいるのか。ああいうのが。とりあえず……」
ヴァンはそういって、前を見る。化け物がいた。クスラカンが見たというのは、翼がある犬みたいなもので、尻尾が蠍でといったものだったが、目の前の怪物はまた違う。
顔は……鷹か何かだろうか。翼は生えているが、それもまた鳥の羽というより、虫の羽のようなものだ。尻尾はない。ただ下半身は犬か何かのものだろう。
体長三メートルはあるであろう化け物。
その化け物が、人を噛み砕いている。
そのすぐ前には、腰を抜かして震えているまだ生きている人間もいる。
「フロノス姉、あの人間お願い」
「ええ……」
ヴァンとクスラカン、フロノスは飛び出した。
腰を抜かしている一人の男を、フロノスが回収する。そして、ヴァンとクスラカンはその化け物に向き合った。
「クスラカン、元に戻れ」
『はーい』
クスラカンは軽い調子でそういう。それと同時にクスラカンの体が光り、膨らみ始める。
口に含んでいた人間だったものをごっくんと飲み込んだその化け物は、それに反応をしてクスラカンに襲い掛かってくる。
その時にはもうクスラカンの体の変化は終わっている。
巨大なドラゴン。それは、目の前の異形の化け物以上にでかい。
《イエロードラゴン》---召喚獣の中でも最上位に位置するドラゴンの内の一体。
飛び掛った化け物は、クスラカンによってなぎ払われる。
異形の化け物は、クスラカンになぎ払われ、吹き飛んでいる。
大きな音を立てて木々が倒れていく。
「クスラカン、そいつ、倒せるよな?」
『もちろん。ご主人、俺は最強なんだぜー』
「はいはい。いいから倒せ」
『はーい』
クスラカンはヴァンの言葉に軽い調子で答えて、あの異形の化け物の元へと飛んでいった。
ヴァンはそれを見届けて、フロノスと男の元へと向かう。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……。でもあいつは……」
ヴァンが問いかければ、男は頷いた。その体は先ほど化け物に食べられていた同僚を思い出しているのだろう。
「ヴァン、あれは貴方の召喚獣に任せていいの?」
「問題なし。クスラカンは出来ないならできないっていう。そんなに心配ならもう一匹援護に呼び出すけど」
「そうね。一応そうしたら」
「じゃ、呼ぶ」
ヴァンはそういって、もう一体召喚獣を呼び出す。現れたのは--、
『わたくしをおよびでしょうか』
まっピンクのモモンガである。《ファンシーモモンガ》のモモは呼び出されたのがうれしいのか嬉しそうな声をあげている。
「今音なっているだろ。あれ、クスラカンが戦っている音だ。ちょっとフロノス姉が一匹だけじゃ不安みたいだから援護してもらっていいか。そしたらすぐ終わるだろうし」
『わかりましたわ。ヴァン様と一緒に戦えないのは残念ですが、このわたくし、ヴァン様の召喚獣として精一杯戦ってきますわ』
ヴァンの言葉に恭しく頷いたモモはそのまま、去っていった。
ヴァンはこれで戦闘は問題ないだろうとフロノスと男のほうを見る。
「とりあえず今見た事師匠に報告したほうがいいと思うんだ」
「それはそうね。あとこの人を砦に送り届けなければならないわ。歩けますか?」
フロノスはヴァンの言葉に頷いた後、男を向いて聞いた。男は顔色が悪いままだが、頷いた。
そしてドゴオオンなどと大きな音を立てながら戦っているクスラカン達を置いて、ヴァン達は砦に戻ることになったのだ。
「それにしても……あの魔物なんなのかしら」
「突然変異とか?」
「……それも考えられるけど、突然変異にしても色々なものが混ざりすぎよ。あんな存在に変化するまでに沢山の過程が必要なはずよ。その前身が世界で目撃もされていないなんておかしいじゃない」
フロノスとヴァンは砦に向かいながらもそんな会話を交わす。助けた男は話す気力もないのか、ただフロノスとヴァンに守られる形で歩いている。
時々現れる魔物はヴァンが魔法で葬っていた。
「んー、それもそっか」
「それに少なくともあと一体は似たような存在がいるのでしょう。あんな異形の存在が急に同じ場所に沸いてくるというのも不自然さを感じるわ」
「んー、俺難しいことよくわかんない」
「……とりあえず、不自然だって事よ。魔物の量が多いことにも何かしら関連があるのかもしれないし。思ったよりもややこしいことなんじゃないかって思うわ」
フロノスはそういいながら考え込む。
(国境付近であふれる沢山の魔物……。そしてあの異形の化け物。何かしらの関連はあるはず。ううん、もしかしたら全てがつながっている可能性もあるかもしれない。そうじゃないってのもあるだろうけど、いや、ここは最悪の可能性を考えるべきだわ。そう思うとこの場にディグ様とヴァンがいることはよいことだわ。私は…それなりに戦える自信はあるけれどあの化け物相手に軽く戦えるかっていうと難しいもの)
巨大な異形の化け物。
もしかしたら勝てるかもしれない。でも絶対に勝てるかといえば、勝てるとフロノスは断言出来ない。
「フロノス姉、どうしたの?」
「……これからあの魔物も含めてのことで忙しくなるわよ。ヴァンにはきっとうんと働いてもらうことになるわ」
「うん。王宮に戻れるのってそのあたりを解決してからだよね?」
「ええ。だから、ナディア様に早く会いたいならがんばりなさい」
「うん、俺、がんばる。とりあえず師匠に報告しなきゃ」
そんな会話を交わしながら、砦へと到着するのだった。クスラカン達はまだ戻ってきてはいない。
---見た事のない魔物について 2
(異形の化け物。それを召喚獣に任せ、ヴァンとフロノスは報告のために砦に戻った)
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