108.全てを把握している召喚獣たちについて

 さて、王宮での不穏な動きをナディアの傍に控えている召喚獣たちが気づかないわけもなかった。

 キリマに持ちかけられた話に関しても、フェールがレイアードと会話をしていることも含めて把握済みである。



『ご主人様の大事なナディア様を害そうとするなんてお馬鹿ですわ』

『キリマには僕が言いに行こうか。キリマはとても悩んでいるみたいだから』



 《ブラックスコーピオン》のカレンと《アイスバット》のスイがそう告げる。

 現在、ナディアの傍で彼らは会議をしている。何の会議かってもちろんナディアを守るための会議である。



「キリマお姉様の元に、そんな話が言っているなんて……」



 そして召喚獣たちから話を聞いたナディアは顔色を悪くしている。



『キリマ様は悩んでおられる。主様の愛しいナディア様の姉君に何かあるのは、僕らが主様に怒られてしまう……』

『ナディア様、大丈夫だぜ。俺たちがなんとかするから! ナディア様に悲しそうな顔させたとか、俺らが主に怒られるし!!』



 《サンダーキャット》のトイリと《ファイヤーバード》のフィアがいう。

 強大な力を持っている召喚獣たちであるから、キリマへ持ちかけられた案件に関しても、特に重要視していないようだ。



『ナディア様、キリマ様には知らぬふりを通してくださいね。こちらで第二側妃に関してはどうにかしますから、それまでは…。話を聞いている限り下手に知ってますとなったらキリマ様の周りが大変かもしれないので』

「ええ。わかったわ。でも、本当にキリマお姉様は大丈夫なの?」



 カレンの言葉に頷きながらもナディアは不安そうな顔をしている。



 最近ようやく仲良くなれた姉が大変というのに心を痛めている。キリマ自身がナディアをどうこうしたいとか考えていなかったとしても、その母親がナディアを害そうとしているのだ。キリマも大変である。

 フェールの母親のアンに関しては、キリマの母親であるキッコほど動いていないが、何かしら仕掛けてくる恐れもあるだろう。




『問題はないでしょう。僕らが動いているから、キリマ様やフェール様に何か起こることも防ぐから。主様が怒ると大変だし』

『……つか、主が本気で怒ったとこ見た事ないからな。怒ったらどうなるんだろ、主』



 トイリとフィアが不安そうなナディアにそれぞれいう。



 長い付き合いのフィアもヴァンが本気で怒った所など見たことがないらしい。考えてみるとヴァンが本気で怒れば20匹の召喚獣たち全員が暴れ、ヴァン自身も魔法を連発するとかもできるわけである。

 ナディアは考えて、少し顔色を悪くする。



「ヴァンが怒ったら、大変そうですわ……」

『ナディアに何もなければ大丈夫だよ。ヴァン、ナディアの事以外で本気で怒らないだろうし』

「そうかしら……なら、私自身も気を付けなければならないわね」

『うん。僕らが守るから安心してね』



 ナディアの横をパタパタ飛びながら、スイはそんなことを言う。



 基本的に周りに対する興味がないヴァンなのだ。ナディアに何かある以外で本気で怒る事なんてまずないだろう。



『ナディア様、とりあえずキリマ様の母親に関してはこちらでどうにでもするので』

「それって、どういう?」

『安心してくださいね。殺す事は簡単ですが、それはそれで面倒なのでしっかり証拠を集めますから』



 カレンは安心させるように言う。



 召喚獣は人と違う考え方を持っているが、ヴァンの召喚獣として人の世にそれなりにかかわっている彼らなので邪魔者は殺せばよいという思考はしていないらしい。



『でも対処が難しいとかなら、僕らは殺すから。流石に最終手段にはするけど』

『キリマ様たちだって殺されるよりはきちんと裁かれる方がいいだろうしな』



 しかしまぁ、そこは召喚獣である彼らなので最終手段としては殺す気満々である。というか、殺すだけなら今すぐにでも出来るのだ。



『まぁ、ナディア様は安心して俺らに守られていればいい。俺らが絶対にナディア様に大変な目には合わせないから』



 フィアがそう宣言すれば、その場にいる他の召喚獣たちも同調する。ちなみにこの場にいない召喚獣たちは、情報収集などをしている。情報が大事な事を理解しているため、きちんとそれを行っているのである。



 ちなみにナディアを守る組のリーダーは、一番古株の召喚獣であるフィアである。召喚されてからずっとナディアの傍にいて、人間をずっと見てきたため、こういう人間同士の出来事に対しては色々と知っているフィアである。

 そもそも王宮なんて人間たちの陰謀が溢れている場所であるし。



「本当にいつもありがとう。私は全然、ヴァンにも貴方たちにも守られているばかりで何も返せていないわね」

『返さなくていいですよ。ご主人様はナディア様が「ありがとう」っていうだけで満足でしょうし、私たちもナディア様の傍にいる面白いご主人様が見れて良いですし』

『そうだね。主様は勝手にナディア様を守りたいとやっているだけなんだ。お礼を言えば面白いぐらい喜ぶだろう』


 ナディアの言葉にカレンとトイリは返す。



 ナディアが何も返せていないと思っていようが、ヴァンがナディアが笑っていれば十分なのである。


『そうだぜ、ナディア様は主にお礼を返したいというなら……主と結婚してやればいいんだぜ。それだけで喜ぶと思う』

「そういえば……お父様は私との結婚話を進めているけど本人は知らないのよね?」

『そうだぜ。本当面白い。ナディア様は主と結婚するのは構わないんだろう? 主の事好きか?』

「んー……好きだし、大切には思っているの。改めて口にすると、恥ずかしい。恋愛で好きかは……まだわからないけど。多分、そういう好きなのかなって」

『なら、それを主に言えばいい。そしたら主は喜ぶぞ』



 フィアは面白そうにそう告げるのであった。ナディアは召喚獣たちにそんな思いを語った事を恥ずかしそうにしているのである。



 ――――すべてを把握している召喚獣たちについて

 (召喚獣たちは有能である。沢山の情報を彼らは知っている。そして主の守りたい存在を守るために情報を行使しているのだ)

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