107.会話を交わすフロノスとヴァンについて
ポリス砦において、ヴァンとフロノスの強さは周知の事実となっていた。ポリス砦の周りは魔物が結構な数存在するというのにもかかわらず、まだ子供であるというのに二人は魔物をどんどん狩っている。
ただの無力な子供ではなく、力を持つ子供。
戦闘能力だけで言えば、大人よりも強力であるといえる存在。
砦の騎士たちの中にはそのように圧倒的に強い子供を前に恐怖心を感じているものもいるぐらいである。見た目は何処にでもいるような子供―――騎士たちにとっては守るべき存在である。が、二人とも人を簡単に殺せるだけの力を持っている。
ディグは英雄としての信頼があるからこそ、恐れよりも敬意を向けられる。ヴァンとフロノスの二人も、英雄の弟子としてではなく、英雄として信頼を勝ち取ったのならばそういう目も少なくはなるだろう。
「……ヴァンはよく持つわね」
「ん、何が?」
さて、ヴァンとフロノスは砦の中でのんびりと過ごしていた。フロノスは眠たそうに欠伸をしているヴァンに声をかけた。
フロノスはつい先日召喚獣と契約を結んだ。
今までディグとヴァンの二人が召喚獣と契約をしているのを羨ましく思っていたフロノスは、召喚獣と契約が出来た事が嬉しくてたまらなかった。
そして、召喚獣と契約したからこそ、余計に弟弟子であるヴァンの異常さが理解出来てしまったのである。
「召喚獣を顕現させ続ける事よ。ナディア様の元へ何匹もおいているでしょう?」
そう、召喚獣を常にこちらの世界に顕現させている事に対する異常性を。
なんせ召喚している間は基本的にずっと魔力を提供しているという状態なのだ。普通に考えて魔力量が足りない。七匹もナディアの元へと召喚獣を置いて、なおかつ、こちらで戦闘の際に召喚獣を召喚する。
その事実を思うと、フロノスはやはりヴァンは凄いと思う。
姉弟子として相応しくあろうと努力は怠っていないが、それでもこうはなれないなとも考える。
「んー、そんなに疲れないよ?」
「普通は魔力切れになるの。私は一匹だけでもずっと出し続ける事は正直難しいわ」
「ふーん、そうなのか」
普通の人々にとって異常であることが、ヴァンにとっては普通なのである。天才というのは、そういうものなのだろう。他の人と見ている光景が違う、感じているものが違う。
(……本当、好きな女の子が心配だからって七匹も召喚獣を置いて、なおかつあんな魔法具まで渡していて本当に過剰防衛に思えるわ)
本当に考えれば考えるほど過剰防衛というか、心配しすぎだとフロノスは思ってしまう。
「ナディア……何しているかな」
ヴァンがぽつりと言った言葉にフロノスは言う。
「心配?」
「うん……」
「召喚獣沢山おいてきたなら、国家転覆レベルの魔物とか、そういうのが来ない限り無事だと思うけど」
至極正論である。召喚獣は一匹だけでも色々なことが出来るような戦力である。七匹も揃っていたら寧ろ国家転覆レベルの事でも起こすのではないかと疑われても仕方はない。
一人の少女を守るために、召喚獣を一匹置くというだけでも周りからしてみれば過剰防衛である。それを七匹もおいているのだ、心配するだけ無駄なようにフロノスは思えて仕方がない。
召喚獣を七匹もおいているなんて、ナディアは何に狙われているのだ? という感想を持ちそうになるぐらいだ。
「でも心配。それに、ナディアと会えないの寂しい」
「……本当にナディア様の事大好きよね、ヴァンって」
「なんか師匠の弟子になるまでナディアの事見ているだけで十分だったのに、今はナディアと話せないの寂しい」
「……ディグ様の弟子になる前からお姫様の事を見てられる平民って、本当改めて考えるとおかしいわね。この砦での仕事が終われば王宮に戻れるんだから頑張らなければならないわね」
「魔物の増加と、見た事ない魔物だっけ?」
「そうよ。魔物の数は私とヴァンも結構狩ったし、減ってはいると思うけれど……」
「んー、じゃあ見た事のない魔物の方は?」
「それはまだなんとも言えないわね。実際に見てみない事には……」
「それ見つけて対処してからかな、帰るとしたら」
「そうね。それにしても本当にはやく帰りたいのね」
「うん。ナディアに会いたい」
ヴァンは恥ずかしがりもせず素直にそう告げる。直球というか、素直というか、ヴァンはナディアの事が本当に大好きである。
フロノスはヴァンがこんなのだからナディアもヴァンになんだかんだで惹かれているのだろうなと考える。
ヴァンはナディアがこの国のお姫様であるとかそういう肩書はどうでもよくて、ただナディアの事が大好きでたまらないだけである。そこに打算も何もない。
ディグの弟子であるからと、フロノスもただのフロノスではなく弟子という面ばかり見られる節もあるから、そういうのは心地よいのだろうなとも考える。
(……ナディア様自身は怪我とかもせずに大丈夫だと思うけれど、帰ったら誰かが処罰されているとかはありそうね)
と、フロノスはそんな風にも考えるのであった。
―――会話を交わすフロノスとヴァンについて
(フロノスとヴァンは砦の事や、ナディアの事について会話を交わしている)
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