91.話を聞いた弟子二人の反応について

「だから、お前ら一週間後にポリス砦に向かうぞ」



 シードルから話を持ちかけられたディグは早速決めた事を二人の弟子に告げた。

 反応は二人と違った。



「えー、俺もいかなきゃダメ?」



 ナディアと離れたくないからか、眉を下げてヴァンはそんな事をいう。ディグに見つかるまでナディアと関わることもなく過ごしていたヴァンだが、ナディアの側にいるのが当たり前のようになってしまった今、離れたくないと感じているようだ。



「ポリス砦につれていってくれるのですね。わかりました。ディグ様」




 フロノスはヴァンと正反対に師であるディグについていける事が嬉しいのか笑顔で頷く。



「ヴァン、これは決定事項だ」

「でも、ナディアが...」

「お前のことだから、離れていてもナディア様のまわりに召喚獣をおくことぐらいできるだろ。第一、あの誕生日プレゼントがある限りナディア様がてを出されることはないだろうが」



 ナディアに何かあったらと考えるだけでヴァンは心配らしい。

 だが、普通に考えてみてナディア以上に安全な場所にいる存在はいないだろう。複数の召喚獣に囲まれ、過剰防衛な魔法具を身に付けている時点で手なんか誰も出せないだろう。



「ヴァン、貴方はディグ様の弟子なのよ。ディグ様の決定にそんな風にいってはいけないわ」

「うーん、でも...砦にいってる間ってナディアに会えないんだよね?」

「そりゃそうよ。ポリス砦は王都から離れているわ。簡単に行き来なんてできるはすないでしょ」



 フロノスはあきれたように口にした。



 ポリス砦が存在するのはカインズ王国の北の国境だ。それに比べて王都が存在するのはカインズ王国の南である。かなりの距離がある。



「そんなに離れて召喚獣顕現したままはしたことない」

「お前なら大丈夫だろう」



 ディグは軽くいう。なんせ、常に複数召喚獣を世界に顕現させて、けろりとしているのだ。



「それにな、これもナディア様を守るために必要なことなんだぞ」



 渋るヴァンにディグは口を開く。ナディアを守るために必要だと告げれば、案の定ヴァンは反応をする。相変わらずヴァンはわかりやすい。

 こんなヴァンだからこそ王宮に残した方がややこしくなりそうだとディグは思っている。



「ナディアのために?」

「そう。ヴァン、お前には才能がある。が、圧倒的に足りないものもある。ーーそれが、経験だ」



 まだ子供なのもあって、ヴァンには経験がない。ナディアの、王族という最上級階級の側にいるには、その存在を守りたいなら、あらゆる経験を積むべきだ。

 経験不足は失敗を招く。

 躊躇いは守りたいものを守れない事を招く。

 そういうものである。



「経験?」

「そうだ。いろんな経験積んだ方がいい。召喚獣がいても、魔法具があっても心配だっていうなら、ヒィラセとイニにナディア様のことをたのんでやるから」



 ディグがそんな風にいえばようやくヴァンは「わかった! いくよ、師匠」と告げる。



「...ヒィラセ様とイニ様にそのような迷惑をかけるのはどうなのですか。ヴァン、王宮魔法師お二人がナディア様の側にいても逆に目立つわ。あなたの友人たちに頼んだら?」

「友人?」

「......クアンとギルガランのことよ。あの二人はヒィラセ様とイニ様の弟子だし、貴族だから何かあったら対処してくれるでしょう」



 ヴァン、二人にたいして友人という認識があまりなかったらしい。



「あとはフェール様とキリマ様にも頼んだら? あのお二人なら、ナディア様をうまく守るでしょう」



 ヴァンに出会うまで表に出なかったナディアと違い、フェールとキリマは幼い頃から表に出ている。だから、ナディアよりもまわりに対する影響力は高い。ナディア一人でどうこうするよりも、うまく対処するだろう。



「なら、俺皆に頼む!」

「......まじ、過剰防衛すぎるだろ」



 後ろでディグがあきれたような面白がるような呟きを発しているが、ヴァンは聞いてない。



「ナディアの側にどの召喚獣をおくかも考えなきゃ」

「...何匹おくつもり?」

「おけるだけ! いっそのこと全員...」

「まて!! ヴァン、ポリス砦では戦闘もしてもらう。全員おいてくな!」



 ナディアを守りたくてしかたのないヴァンは、あろうことか二十匹全員おいていこうかなどといいだし、ディグに止められていた。

 ナディア一人にたいして、召喚獣二十匹。想像してみると小型化してたとしてもわらわらしすぎである。



「うーん、じゃあ誰をおいてくか考えなきゃなあ」

「適当に決めればいいだろ」

「いや、なんか最近あいつら皆ナディアの護衛したいって争奪戦してて」

「お前の召喚獣たちはヴァンとおなじでかわってるな」



 ヴァンがナディアに告白する場にいたいという好奇心で召喚獣たちはそんなことをしてるわけだが、ヴァンもディグもそんな心情を知るはずもなかったのだった。





 ーーー話を聞いた弟子二人の反応について

 (砦にいくことを告げられ、ヴァンとフロノスはそれぞれ反応を示すのでした。)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る