60.第二王女様の暴露について 1

「ナディア、ヴァン、少しお話をしないかしら?」



 その日、第二王女であるキリマ・カインズは腹心の侍女たちだけを連れてナディアとヴァンの元を訪れた。



 その日は珍しく第一王女であるフェールはおらず、その場にいるのはキリマ、ナディア、ヴァンだけである。三人はテーブルを囲んでいる。もちろん、悟られないように何匹からの召喚獣たちはひっそりと隠れていたりもするわけだが。

 召喚獣たちは、王女たちが来ている時は出てくるなと強く言われているためこっそりとつまらなそうに見つめているのである。



「キリマお姉様、お話とは?」



 警戒したように、ナディアが切り出す。



(フェールお姉様はヴァン様を傍に置きたくて仕方がないみたいですけれども、キリマお姉様はよくわかりませんわ。でも、よくわからないからこそ、何を考えているかわからなくて怖いですわ)



 ナディアはそんなことを考えていた。ナディアにとって二人の姉は半分だけ血はつながっているものの、ほとんど交流のない存在であった。


 二人の姉の母親に狙われる日々を送っているのもあって、どうしても二人の姉に対する警戒心というものをなくせなかった。

 二人がヴァンに関心を持っているのも、ナディアが二人を恐れる原因であろう。

 自分のモノなどでは決してない。けれども、ナディアは自分で思っているよりもヴァンの事を大切に思っている事を、二人の姉の行動により自覚していた。



(ヴァン様が、お姉様たちの元へ行くのは嫌だ。お姉様方は、私よりも魅力的だけれどもそれでもとられたくなんてない)



 ぎゅっと拳を握って、キリマからの返答を待つ。



「私が何を思ってこの場にやってきているかですわ。私の目的をかなえるためにそれを貴方たちに話していた方が良いと思いまして」



 美しく気品のある笑みを作ってキリマはそう言ってのけた。しかし外面はそんな風に取り繕っていても、キリマの脳内は残念なものであった。



(ああ、ディグ様に近づくためにはこれが一番良い選択だってわかってますわ。でも、自分の思いを暴露しなければならないっていうのはどうにも緊張しますわ)



 もんもんとしている暴走する恋する少女である。



「目的って、なんですか?」

「私は、別にフェールお姉様のように貴方の事を特別欲しいとか思っているわけではないんですの」



 問いかけたヴァンに、キリマははっきりといった。



「それは、どういう意味ですか。キリマお姉様」

「私、ディグ・マラナラ様に近づきたいのですわ。そのために、ヴァン、貴方と仲良くなりたいと思ってましたの」



 キリマはそう言い切った。


 内心の言っちゃったという恥ずかしそうな乙女心は一切外には出さないのは流石である。



「師匠に近づきたい?」

「キリマお姉様……、ヴァン様目当てではなかったのですか?」




 少し驚いたような顔になる二人である。


 ヴァンは能天気に師匠に近づきたいのならば、俺の方に行かずに師匠の方に行けばよいなどと考えている。正直王国最強の英雄にはそう簡単に近づけるものではない。


 ナディアはキリマもヴァンに近づきたいのではないかと思い込んでいたため驚いた顔だ。




「ええ。私にとってそうですわね、ヴァンに近づくというのは手段でした。ヴァンと仲良くできればディグ様に近づくことが出来るのではないかと、そう思ったからこそ私はここに居るのです。というわけで、ヴァン、ディグ様に会えないでしょうか?」



 自分の目的を告げたキリマは単刀直入にそう告げた。

 キリマはディグに近づきたいという欲望に忠実な少女であった。全く持ってためらいがない。それだけディグの事が大好きで仕方がないらしい。



「師匠に……? じゃあ会いにいけばいいんじゃ」

「ディグ様に、そんな理由もなしに会いにいけるはずがありません! だから貴方に取り次いでいるのではありませんか!」

「えー、そうはいっても、師匠めんどくさがりだからこっちまで来ないと思いますよ?」

「ディグ様がめんどくさがり……? それはともかくとして、私はディグ様にお会いしたいのです」



 外面のディグしか知らない知らないキリマはヴァンの言葉に不思議そうな顔をしながらも必死である。



「キリマお姉様は、そんなにディグ様にお会いしたいのですか?」

「ええ! もちろん」



 思いのほか食いついてきたキリマにナディアは困惑の表情である。正直言ってナディアの知るキリマは王女様らしいおとなしい王女であった。こんな風に誰かに会いたいと食いついてくる姿は、今まで見てきたキリマには正直重ならなかったのである。



「何故ですか?」



 こちらの方が本来のキリマなのだろうとナディアは感じながらも問いかけた。今まで素を隠してこちらと接してきたキリマがこんな風に曝け出してきてまでディグに会いたいらしい理由がわからなかったからである。



「何故って、そ、その」



 問いかけられたキリマは、急に顔を赤くした。


 そして、


「わ、私がディグ様を好きだからっていうそれだけよ!」



 そうぶっちゃけた。






 ―――第二王女様の暴露について 1

 (そうして第二王女様は、素を出してまでディグに会うために奮闘中なのです)

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