第三章 王族たちとの交流

43.ヴァンの噂について 上

 一年が終わろうとしている、そんな時期。カインズ王国国内では、一人の少年の噂でもちきりであった。



 それは、『火炎の魔法師』と名高いディグ・マナラナの弟子である元平民の少年、ヴァンについての事である。

 『火炎の魔法師』の弟子というだけで噂される存在であるが、この少年、つい一か月ほど前に《レッドドラゴン》を退治するなどという偉業を成し遂げ、それはもう噂されている。

 十二歳にしてそれだけの戦力を持ち合わせているものに対する興味がカインズ王国の人々にはあった。



 しかし、平民だからという理由で礼儀作法に問題があり、彼は社交界の場にディグ・マナラナに連れられてやってくることは今の所なかった。

 というのもあって、カインズ王国の王族貴族たちも、彼に対する関心を持ち合わせているのだ。

 最も、ヴァンの思い人であり、よくヴァンと会っているナディアはヴァンの事をよく知っているのだが。



「―――ヴァン様の噂が聞こえない日はありませんわ、私ももっとヴァン様に相応しくあれるように頑張らなくてはならないですわ」



 三の宮の、庭園の前の椅子に腰かけ、そんなことをナディアはつぶやく。



(これでも一生懸命、ヴァン様に相応しくあろうと、頑張ろうとしているつもりなのですけれども。流石、ヴァン様ですわ。この前のパーティーは成功しましたが、それでも足りませんもの)



 自分をずっと守ってくれた人に、守られるのに相応しい存在になりたい。それが、ナディアの望みである。

 ヴァンはナディアを守りたいと、本当にたったそれだけの思いで力をつけ、ナディアを隣で守りたいと一生懸命なのだ。



「ナディア様は頑張っておられますわ」

「……ええ、そのつもりよ。でも足りないわ。ヴァン様に守られるに相応しくありたいのに、難しいわ」



 今まで目立とうという努力をしてこなかった。あえて、目立たずに、『美しいだけの王女』という評価を維持していた。それが、自身を守るために必要なことであったから。



「ヴァン様は、《レッドドラゴン》を討伐し、《竜殺し(ドラゴンキラー)》になったんだもの。それに、次代の英雄に相応しいって噂もされているわ。

 ……私も、それには同意するもの。あれだけの力を持った人が、ただの一介の王宮魔法師の弟子で終わるはずなんてないもの。私は、そんなヴァン様に、おいていかれたくない、ってそう思っているの。

 ヴァン様は私を隣で守りたいって、そんな風に思ってくださっているって聞いたわ。そのために、頑張っているんだって。なら、私だって、ヴァン様の隣に立っても相応しくありたいって思うもの。烏滸がましいかもしれないけれど、あれだけの召喚獣を従え、あの年であれだけの魔法を使いこなす、そんなヴァン様の隣に、私は立てるようになりたいもの」



 であってまだそんなには経っていない。でも、ずっと存在だけは知っていた。ずっと守ってくれていたことは知っていた。

 直に会ってみて、おいていかれたくないと、守られるに相応しくありたいとそう願った。



『主も幸せものだな!』

『ナディア様、その言葉をご主人様にいって差し上げて下さい。とてもお喜びになるでしょう』




 突然現れてそう口にするのは《ファイヤーバード》のフィアと、《ブラックスコーピオン》のカレンである。


「ふふ、ヴァン様に守ってもらえて私の方こそ幸せですわ。こんなに心強い貴方たちが味方でいてくれて、だからこそ、私は色々な事に挑戦できるんですもの」



 二人の言葉に、ナディアはそういって微笑んだ。



 美しい笑みを浮かべて、嬉しそうにほほ笑む。この場にヴァンが居たら顔を真っ赤にしたことだろう。



『そういえば、主の噂には俺たちの事もあるんだろ?』

「そうですわね、ヴァン様が活性期の魔物を討伐する際に何匹もの召喚獣と共にいたという情報は出回っていますから」



 そう、活性期の魔物を討伐する際にヴァンは召喚獣を連れていた。というのもあって、召喚獣たちについての噂も王宮内ではささやかれていたりするのである。



「4匹もいたという目撃情報に対し、あの歳で4匹も契約しているわけじゃないとか、それとももっと多く召喚獣を従えているのではないか、とかそういうことが議論されているようですわね。

 ヴァン様は現在注目を浴びているというのもあって、ほとんどマナラナ様の研究室から出してもらえないようですから」



 そう、注目を浴びていて、周りから接触される事は目に見えている。そんな相手に対する対処がヴァンに出来るかわからないし、面倒だということもあってヴァンは基本的にずっとそこに閉じこもっていたりする。最もヴァンがナディアに会いたいという場合は、ディグの付き添いの元、ここまでやってくることはあるのだが。

 ただし、ヴァンが《竜殺し(ドラゴンキラー)》として有名になってしまったのもあって、前よりも会える頻度が少なくなってしまったのだが。



『ご主人様は私共を含めて本当に多くの召喚獣を従えておられますからね』

『はははっ、でも常識的に考えればおかしいからな。流石、俺の主だぜ、面白すぎる』



 ナディアの言葉を聞いて、2匹の召喚獣はそういって楽しげな声を上げるのであった。

 ――そんな風に会話を交わしながらもナディアは、ヴァン様に会いたいなぁと思考を巡らせるのであった。





 ―――ヴァンの噂について 上

 (《レッドドラゴン》を倒したことで色々と騒がれているようです)

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