フィアとヴァンの出会い
「よし、こうかな」
その日、10歳の少年であるヴァンは一人でブラエイトの森へと来ていた。魔物が溢れる土地に、10歳でありながら来ている時点で色々とおかしい。が、本人としてみれば、図書館司書さんに文字を教わりなんとなく文字を覚えるようになり、本の中身もなんとなく理解できるようになったということで、早速試してみようという結論に至った。
此処に来るまでの間、魔物に襲い掛かられることもあったが、なんとなく覚えた魔法でどうにか対処は出来た。それで、現在ヴァンがやろうとしていることといえば、召喚獣の召喚である。
召喚獣の召喚をたった一人でこなそうとしていることもおかしいし、書き写してきた召喚の魔法陣をなんとなくで書いて、それを行おうとしているのもおかしい。
「よし、完成」
魔法陣を描き、満足そうなヴァンであるが実はその魔法陣微妙に雑で、こんなんで本当に召喚獣が来るのかと疑うぐらいのものであった。
しかし当の、召喚獣を今から召喚しようとしているヴァンはこれでも召喚できるという所存らしかった。普通ならこうやって一人で召喚獣を召喚しようなんてしないし、そもそも平民の子供が召喚獣を従えようなどと思うものではないのだが、それでもヴァンは自身としては普通の平民の子供のつもりでしかないらしい。
「よーし、異界より現れよ! 召喚獣よ」
そして言い放たれた召喚獣を呼び出すための呪文というか、呪文といってもいいのか怪しい言葉は聞いているものが居ればずっこけたくなるほど適当だった。
本人としては真剣である。
本来こんな適当な呪文で召喚獣が呼び出されることなど、ありえないのだが、ヴァンは普通ではなかった。こんな呪文でも、魔法陣に魔力を流し込んでしまえば、魔法陣は光り輝いた。光り輝き、そしてその場に現れたのは巨大な真っ赤な鳥である。
大の大人が二人か、三人ぐらい乗れそうなほどの巨大なその鳥は、
『呼び出しに応じて参上!』
そんな声を上げてその場に現れた。
そしてその存在は――《ファイヤーバード》のフィアは目の前に一人の少年しか存在しないことに首をかしげた。
『ん? 俺を召喚したのって誰だ?』
正直、召喚獣の中でも召喚される際には子供だった場合、付き添いがいるのが当たり前で、何より目の前のどこにでもいそうな少年が自身を呼び出したなんて思えないフィアはそんな声を上げた。
それに反論するかのように声を上げたのはヴァンである。
「俺が召喚した!」
『え、マジ?』
フィアは自信満々に答えるヴァンに驚いたような顔をした。
「本当だ! 俺と契約して」
『えー、こんな子供が俺を呼び出したのか? ちょっと予想外すぎる』
「いいから、契約!」
ヴァン、戸惑うフィアをそっちのけで契約をしろと迫っていた。ヴァンもヴァンではじめて召喚獣を呼び出したということで、契約を成功させたくて仕方がなかったらしい。
『んー、じゃ、俺を認めさせてくれたら契約してやろう』
「認めさせるって何すればいいの?」
『ん、じゃ、とりあえず』
フィアはそう口にして、前触れもなく大きく口を開くとその口から炎を吐き出した。
その場に煙が立ち込める。
『お、生きているのか。というか、その年で魔法使えるとか将来有望だな』
「なにするんだよ!」
感心するフィアに向かって、突然の攻撃に怒ったらしいヴァンはフィアに向かって魔法を放つ。
「氷の刃、いけっ」
『って、おおい、その年で詠唱短縮できんのか』
魔法を放ったヴァンに応戦するフィア。そうしてフィアとヴァンのちょっとした戦いははじまった。結果的に言えば、まだ召喚獣の一人もおらず、僅か10歳で体力もあまりないヴァンが先に体力負けしてへばった。ついでにいえばこのころのヴァンはまだ魔法を覚えてすぐであったのも理由だ。
『んー、実力は問題ないな。つか、この年で魔法バンバン使えるとか、いいな』
「……じゃあ、契約しろ」
寝そべりながらもそんなことを言うヴァンの事を、フィアは面白いと感じていた。第一、恐れもせず召喚獣に向かっていく時点でこの子供は色々とおかしいというのがフィアの思いである。
『じゃあ、最後に一つ聞かせろよ』
「……なにを?」
『なんで、お前みたいな子供が俺と契約したいのか』
フィアは正直不思議だった。この子供がどうして召喚獣と契約をしようという結論に至ったのか。
「―――ナディア様を守りたいから」
『ん? ナディア様って誰だ』
「俺の好きな人! この国の王女様なんだけど、色々と大変そうだから!」
好きな人が大変そうだから、守りたいから召喚獣と契約をしたいらしい。その予想外の答えにフィアは一瞬ぽかんとした。
そして次の瞬間、
『なんだ、それ、面白いな』
フィアは笑った。
『面白いから契約する』
そして、フィアはそう口にするのであった。
―――フィアとヴァンの出会い
(そんなわけでフィアはヴァンと契約したわけです)
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