第23話 連行
「俺に、会いに来た.......?」
「どういうことですか、アリサさん?」
「なに、少し聞きたいことがあるだけだ」
そう言われ、無意識に警戒色を強めた。しかし、それを見てアリサさんは宥めるように手を振った。
「そう構えなくていい。別に尋問しようとも咎めようともしてるわけじゃない」
言いながら、アリサさんは向かい側の席へと腰掛けた。その一挙手一投足に緊張が走る。殺意も敵意も感じないが、何か探ろうとしていることは確かだ。
俺は警戒は解かずに彼女と向き合う。
「ルイナとメイにお前のことを聞いてな。興味が湧いただけだ」
「ルイナとメイに.......?」
どういうことだ、と疑問に思い、二人に視線を送った。
「あ、まだ言ってなかったわね。私達、今はアリサさんがリーダーを務めるパーティー、『
「アリサさんが私達に声をかけてくれて、その頃からお世話になっているんです」
「世話と言うほど何かしてやれてるわけではないがな」
アリサさんは瞳を閉じながらそう言って、いつの間にか注文していた飲み物に口をつけていた。
「アリサさんには、ルシードさんのことも以前から話してたんです。それで、この前再会して、ここでまた話すことになったことも報告していたんです」
「あー、そういうことね」
そうか。ルイナとメイがランク
本人達も楽しそうだし、同じ
などと考えていると、アリサさんはアザカの方へと視線を向けた。
「そっちは連れか?」
「ああ、そうです」
「…………アザカ・ティルフィードです」
「ティルフィード………?って、まさかミシアの親族か?」
「え、母をご存知なんですか……!」
アザカは瞳を見開き、わずかに身を乗り出した。
「ああ。昔森で怪我をした時世話になったことがあってな。ハーフエルフの娘がいると言っていたが、そうか、お前の事だったのか……」
アリサさんは感慨深げに何度か首を縦に振っていた。
すると、アリサさんの隣に座っていた二人がアザカをまじまじと見つめ始める。
「さっきはルシードの話しがハチャメチャ過ぎてスルーしてたけど、アザカはハーフエルフなんだよね……。もしかして私達、凄い人と今同席してる?」
「はい。エルフ自体希少なのに、更に珍しいハーフエルフの方にお目にかかれる日が来るなんて、思ってもみませんでした」
なんだか二人はアザカにありがたみを感じていた。
「いや、その、別に私は大したものじゃないから」
「大したものだよ!ちょっと色々聞かせて欲しいことがあるんだけど、いい?」
「私も興味があります!」
二人はエルフという物珍しさにアザカへと食いつく勢いだった。しかし、それをアリサさんはバッサリと切り落としにかかる。
「やめておけ。エルフはその希少さ故に、賊に狙われたりと色々と酷な目に合ってるはずだ」
「あ、そっか……」
「ごめんなさい、アザカさん」
二人がしゅんと縮こまる。それに対しアザカはあたふたとしながらも冷静に言葉を紡いだ。
「いや、気を使わなくて大丈夫……!確かに怖い思いもたくさんしたけど、話せないほどのものなんてないわ。むしろ、人間の人とこうして普通に話すことなんて今まで無かったから、嬉しい。だから、聞きたいことがあったら、遠慮なく聞いて」
「アザカ……」
彼女は少し照れながらも、ハッキリとそう告げた。アザカは取り繕ったり無駄な気を使ったりはしないため、今の言葉はありのままの本心なのだろう。
それを聞いた俺を含めた四人は、自然と頬をほころばせた。
「ありがとう、アザカ。じゃあ、私達今日から友達ね!」
「友、達……?」
「はい。これからよろしくお願いします、アザカさん」
「………ええ、よろしく」
アザカは朱に染まった顔を隠しながらそう返した。
「芯の通ったところも、ミシアそっくりだな」
「そうなんですか.......?」
「ああ、そうだぞ。ところで、そのミシアは壮健か?少し具合が悪いと数年前には言っていたが」
「はい。エルフ熱という怪病にかかって、体がずっと悪かったんですけど、ついこないだ元気になりました」
「こないだ……?」
アリサさんの疑問に、アザカは俺と出会った経緯とその最後まで簡潔に説明した。
「────ということです」
「そうか……。なら、ミシアは無事か」
「はい。もう大丈夫です」
アザカの言葉を聞き、アリサさんはほっと胸を撫で下ろした。しかしすぐその後に、こちらに鋭い眼光を向けてきた。
「しかし、やはりシュラムの件は理解しかねる。私がお前に興味が湧いたのもそれが原因だ」
「え?」
「ルイナとメイの報告によると、熱線が空に放たれ、
そう言われ、二人はうんうんと頷いていた。
「それに、まださっきの質問にも答えてもらってないわよ!一年前、ルシードは
「加えて、
「………ほう、また面白いことを聞いたな」
アリサさんは嫌な笑みをさらに深め、こちらを値踏みするような目付きで見やる。
うわ、怖ぇ。四人から懐疑的な視線を注がれ、身が縮こまっていく。
「実際どうなんだ?お前は本当に
アリサさんは次々と問いを投げてくる。どう言えば、どう答えれば誤魔化せるのだろう。いっそルインのことを口にするか?でもそんなこと誰も信じないしな………。
うんうんと悩んでいると、俺の中である一つの逆説的な発想が湧いてでた。俺はそれをそのまま口から解き放つ。
「────ノーコメントで」
沈黙。これが俺の答えだった。まあ、これでアリサさんが引き下がるとも思えないけど.......。
俺が何と返されるのかとドキマギしていると、アリサさんは意外な反応を示した。
「言わない、か。まあいい。別に答える義理もないだろうしな」
そう言って、アリサさんは体から力を抜いて背もたれに寄りかかった。てっきり納得のできる回答を得るまで言及されると思っていたので、少し拍子抜けだった。
しかし、それはアリサさんだけ。他の人間は違うようだ。
「.......でも、私は知りたい!だって、ルシードの話しが本当だとすれば、
「私達が信じたルシードさんはやっぱり凄かったんだという証明になります。そうなれば、もっと色んな人にルシードさんの良さが伝わると思うんです.......!」
「私はあの時の恩を返したい。そのために、あんたのことはできるだけ知っておきたいの。何をすればあんたの役に立つのか、正確に把握したいから」
三人はそう言って綺麗な顔をずいっと寄せてきた。
それぞれから伝わって来るのは、純粋な善意。アリサさんのような好奇心とは毛色が違うものだった。
それだけに、沈黙という答えを選ぶのは憚られる。俺は上半身を逸らしながら、頬をかいて苦笑した。
「まあ別に、能力だけなら隠す必要もないんだけどな」
「───能力だけ、か」
それを静かに聞いていたアリサさんが、何かを思いつき唐突に立ち上がる。
「なら、見せてもらうのが手っ取り早い。ルシード、少し付き合ってもらうぞ」
「え、は、え?」
俺の戸惑いをよそに、アリサさんは俺をどこかへと連行した───。
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