第22話 二人目の総壱勇者
「何があった、か」
どう説明していいものか、わからなかった。この際だからアザカとのことも含めて、全て話したいところだが。
普通に説明して通じるものなのか?いや、そもそも説明していいものなのか?あいつの事を───。
(おい、ルイン、ルイン!)
俺は刀の中で寛いでいるであろうあいつを呼び出した。
「何だ、騒がしい」
(お前とのこと、他人に言ってもいいのか?)
「好きにせよ。最も、
ルインは嘲笑混じりにそう告げてきた。
(んなお伽噺みたいなこと本気で言ったら、頭のおかしなやつじゃねーか!)
「事実は小説よりも奇なり。それがまことに起こったことなのだから仕方あるまい。なんにせよ、私からは特に制限は設けん。好きにするがいい」
その言葉を最後に、ルインが言葉を返してくることは無くなった。完全に投げたな、こいつ。
俺が複雑な表情でだんまりとしていると、メイが怪訝な顔をして尋ねてきた。
「まさか、本当に盗賊だったんですか.......?」
「いや、全然違うんだけどな.......」
俺は迷った末に、とりあえずルインのことと
キースとオリバに
所々誤魔化しながら、要約して淡々と伝えた。しかし、語るにつれて三人の表情が徐々に歪んでいった。そして、話し終えた頃には困惑に眉を曲げ、頭上には大量の疑問符を浮かべているようだった。
「っていうわけだ」
「っていうわけだ、じゃなくて!アザカとの経緯はわかったけど、それ以前のものやシュラムの件については意味不明よ!」
「そうか?」
「うん。とんでもないこと口走ってたわよ、あんた」
アザカにまでそんなことを言われてしまった。けど、よくよく考えてみればそうか。ルインとのことを省いたら、俺個人でハチャメチャなことをしてることになるのか。
もっと上手く言えばよかった、と後悔している俺を他所に、メイが話しをまとめようとしてくれていた。
「とりあえず、整理しましょう。まず、キースさんとオリバさんが、ルシードさんを
「ああ。そうだ」
俺が首肯すると、二人の瞳に憎悪の炎が宿った。
「あの二人、そんなことしてたのね。やっぱりルシードが盗賊なんて、嘘っぱちじゃない!」
「それどころかルシードさんにそんな仕打ちをするなんて、許せません.......!」
憤怒を滾らせ、二人は拳を握り体を震わしている。ルイナとメイそれぞれの背中に炎が見えた。
その様子に少し恐怖を抱くが、それ以上に嬉しく思う自分がいた。俺なんかのためにここまで怒りを顕にしてくれる。そんな存在が居てくれるというだけで、いくらか救われた気分になった。
「なんでその二人は、ルシードを落としたの?」
ルイナとメイの憤慨とは打って変わって、アザカは冷静に問いてきた。
俺はそれに対し、適切な言葉を選びながら慎重に答えた。
「色んな感情が混ざりあって、拗れた結果だと思う。けど、どうしてそうなったのかは、わからん」
「そう.......」
俺の吐いた言葉は曖昧なものだったが、アザカはそれ以上言及してくることは無かった。おそらく、彼女は俺の惑いを読み取ってくれたのだろう。そう、本当のことは誰にもわからない。キースとオリバを除いて────。
などと思っていると、ルイナから次の話題を飛ばされる。
「そこは何となく理解できた。けど、問題はそのあとのことよ!
「それに、シュラムの件で自爆したとありますが、それにしては街の被害などが無い位置にわざわざ熱線を吐いていますし、二人に被害がないのも些かおかしいかと」
「ええ。あの時、明らかにルシードは何かしていたわ。加えて、
まるで詰問されるように次々と疑問を投げかけられる。
まあ、当然の疑問だよな。けどルインのことを除いたらこれ以外に言いようも無い。
どうしようか、と迷っていた、その時だった────。
ガチャ、とギルドの扉が開いた。刹那、空間が軋むような感覚に襲われる。押し潰されるような異常な力。それを放つ存在の方へと、自然と視線を引っ張られる。それはこのギルドにいる誰しもが同じようで、雑談も食事をしていた手も止めて、ただ呆然とそちらを見やる。
ギルドの出入りなんてさかんに行われており、一々そこに注目するものなどいない。だと言うのに、今入ってきたその女性には、ギルド内全員の視線が注がれていた。
「────久しぶりに来たが、相変わらず賑わっているようだな」
濃紅色の美麗な長髪。鋭く煌めくようでありながら、艶やかな瞳。最低限の鎧に機能性重視の服装。腰には紅色に染まった鞘の剣を携えている。
ただそこにいるだけで、空間を自身の色に塗り替える存在感。肌が刺すようにヒリつき、心臓を直接握られたような圧迫感。
この距離でも容易に理解出来る。あれは、歴戦を潜り抜けた紛れもない強者だということを。
「中々の手練のようだな」
(ルインもわかるか?)
「当然だ。あれほどの存在、何も感じない方がどうかしているであろう」
ルインでさえも認める、強者。一体何者なんだ?と疑問に思っていると、テーブルの各所からボソボソと何やら声が聞こえてきた。
「アリサ・フレイスだ.......」
「雷紅の讃名を持つ、
「なんで、こんなところに.......」
周りの人間達は恐おののき、開いた口も塞がらない様子だった。
しかし、今ので納得したことはある。
アリサと呼ばれた女性は、コツコツと靴を鳴らしながら、ガーベラさんの元へと向かった。ガーベラさんは彼女に笑みを向け、軽い口調で語りかける。
「久しぶりだね、アリサ」
「ああ。壮健か、ガーベラ」
「おかげさまでね」
二人は何やら親しげな様子だった。
「珍しいね、雷紅のアリサ殿がこんなギルドに足を運ぶなんて」
「皮肉はよしてくれ。むしろこういう雰囲気のギルドこそ、私の理想なのだから」
二人はそう言った軽い会話を幾らか交わすと、本題に移った。
「それで、ほんとに何をしに来たんだい?物見遊山をしているほど暇じゃないだろう?」
「ああ。ちょっと気になることがあってな。ルイナとメイはいるか?」
「それなら、あそこにいるよ」
そう言って、ガーベラさんはこちらに視線を向ける。それに習い、彼女も俺達を見やった。
「アリサさーん」
ルイナはおーいと言いながら手を振っていた。ガーベラさんとは何となく理解できるが、ルイナもあの人と見知った仲のようだ。
アリサさんは一つ頷くと、俺達の方へと歩いてきた。未だギルド内に緊張が走る中、彼女がこちらに近づくにつれてそれが強まってくる。独特な圧力。前までの俺なら息苦しさに目眩がしていただろう。
しかし、今はそれに圧倒されるようなタマでは無い。俺は冷静に彼女がやって来る様子を眺めていた。
「たまの休みはどうだ、ルイナ、メイ」
「はい。おかげさまで、満喫させてもらっています」
「それはよかった」
「アリサさんは、どうしてここに?」
「それは、だな」
彼女はルイナ達から視線を外し、俺の方へとその眼光を向けてきた。鋭くも熱いその視線は、まるで全てを見透かすかのようだった。
「少年、名はなんという?」
「.......ルシード・アルティシアです」
俺が毅然とした態度で応えると、彼女は薄く息を吐いた。
「やはりそうか。目を見てわかったぞ、只者ではないことが」
「それはこっちのセリフですね」
俺は口角を上げてそう返した。すると、彼女も緩く笑みを浮かべた。
「.......面白い。自己紹介が遅れたな。私は
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