第6話 勇者 3
僕達『
道中、みんなの魔術について教えてもらった。キースは足の速さを強化する
他にも、みんなが出会った経緯などを聞いた。元は勇者になる前から知り合いだったキースとオリバがパーティーを立ち上げ、その後にルイナとメイをスカウトしたらしい。
「ルシードはさ、どこから来たの?」
「アロンドっていう田舎の村だよ」
「んー、聞いたことねぇな」
「まあ、そうだよね」
「じゃあさ、勇者になった理由は?私達はお金と名誉のためとかだけど、似たような感じ?」
「そうだね……」
僕の頭の中に、一瞬だけあの平穏な日々が映った。
「成し遂げなきゃいけないことがあるから、かな」
僕がそう告げると、周りのみんなはほえーっと感心したように口を開いていた。
「なんかかっこいいね」
「え、そうかな……?」
「うん、僕もかっこいいと思ったよ」
「目標があるのはいいことだ。な、メイ?」
「はい、素敵だと思います!」
口を揃えて、みんなはそう言ってくれた。正直褒めすぎだとは思うが、それを跳ね除けるような野暮なことはしない。というか多分、僕に早く馴染んで欲しいからそう言ってくれてる部分もあるんだと思う。
そんな心遣いも、深くまで事情に立ち入らない気遣いも、心地よいものだった。
即興で決めてしまったパーティー入りだったけど、この選択は間違っていなかったのかもしれない。
そう考えている内に、パウロブ平原へとたどり着いた。大きく開かれた平原で、見渡す限りの緑が心に安らぎを与える。と言っても、あの生き物がいなければの話しだ。
「うわ、結構いるな」
濁った色をした緑色の肌に、人間の半分ほどの身長。長く伸びた牙と手に持った鈍器で襲いかかってくる低級魔族だ。
そのゴブリンは金属を引っ掻いたような声を出しながら、平原を闊歩している。それも、かなりの数だった。
「どうするよ、あれ」
ゴブリンに気づかれない位置にて、一度みんなで話し合う。
「思ったよりいるね」
「ゴブリンって一体一体はどうってことないんだけど、集団だとすばしっこくて大変なんだよなぁ」
「初心者向けクエストかと思ったけど、そうでもないのかも……」
「ど、どうしましょう。討伐はこれで三回目ですし、まだ連携も上手く取れていませんよね……」
メンバーはうんうん唸りながら腕を組んだり、空を仰いだりしていた。
そんな中、僕は現状出来ることと出来ないことを判断し、一つの案を立てる。
「ゴブリンは少し速い程度で力もそれほどない。統率者がいなければ連携して攻撃してくることも無い。これらを考慮すると、基本的には前衛にキースとオリバ、後衛にルイナとメイっていう陣形をとるのがいいと思う。前衛は守り重視でヘイトを集める。その間に後衛が安全な位置から撃破していく。それでも打ち漏らしがあったり、後衛に目を向けるゴブリンが現れるだろうから、それは僕が対処する。これが出会って間もない自分たちが取れる最善の戦闘スタイルだと思う」
僕はそう進言した。難しいことやお互いの呼吸を知った上でのコンビネーションは現状実行できるものでは無い。
だからこそ、これが一番確実かつ安全にクエストをこなせると思ったのだ。
「どう、かな?」
出しゃばり過ぎかな、と少し不安に思いそう尋ねた。すると、みんなは口元を綻ばせ一つ頷いた。
「うん、それがいいと思う!」
「賛成です」
「よしゃ、アイツらの目を引きつけまくってやるぜ!」
「でも、ルシード君は大丈夫?その、魔術が使えないんでしょ?」
「うん、大丈夫。戦いの心得はあるからね」
そうして方針が決まった僕達は、颯爽とゴブリン達の元へと向かった。
「行くぞ、オリバ!」
「うん!」
先行するのは、前衛組の二人。こちらの存在に気づいたゴブリン達は、金切り声を上げながら武器を振り上げて襲いかかってくる。
「
「
二人は身体強化系の魔術を使い、ゴブリンの集団に正面から立ち向かっていく。
「ほらほら、こっちだぜ!」
キースは持ち前の速度を活かし、ゴブリン達を翻弄していく。
「おおおお!」
オリバは巨大な剣を振り回し、一定の距離以上近づかれないように牽制した。
二人ともゴブリンの注意を引くことに専念してくれている。そのおかげで、ゴブリンは完全にこちらから意識を外していた。
「よし、ルイナ、メイ!」
「はい……!」
「任せて!」
メイは手に魔力を集中させ、ルイナは矢を構えた。
「
「
メイが放った氷雪系の魔術は、ゴブリン複数体を氷漬けにして再起不能にする。
また、ルイナが放った矢は五本に分裂し、ゴブリンの頭部や胸部に突き刺さっていく。
「やった……!」
「その調子で頼むぞ、後衛組!」
そこからの動きは、正直即席の
前衛が引き付け、後衛が敵を倒す。この単純な作戦がこうも上手くいくとは思っていなかった。そして、予備として残っていた一人の男も、正しく機能していた。
「あ、ゴブリンが!」
前衛の二人に引き付けられなかったゴブリンが数匹、こちらへと向かってくる。やはりこういう例外はいやでも生まれてくる。そしてそのための、僕だ。
「ルシード君!」
「大丈夫、二人は攻撃に専念して」
二人は近接戦には向いていない。懐に入られれば圧倒的に不利になってしまうし、攻撃の手が止まることで前衛の荷も重くなる。
僕がちゃんとこなすしかない、この役割を。柄を握り、重心を落とす。
「ギシャアアアア!!」
ゴブリン達は不快な声をあげながらこちらへと疾走してくる。
焦るな。いつも通り、丁寧に、確実に。そして、刹那に決めろ……!
ゴブリン達の首が一線に揃った瞬間、力強く一歩踏み込み、居合斬りを打ち込んだ。
振るわれたのは、たった一振り。しかし、ゴブリンの首は複数その場に落ちていった。
「す、すごい……」
背後からは感嘆の声が聞こえてきた。
クレイスとの戦いで無力さを痛感した後、自分なりに色々考えた。僕みたいな
だから、僕はひたすら刀の修練を積んだ。結局僕には、これ以外何も無いから。
「………………」
それにしても、この刀。初めて使ったが、切れ味が凄まじかった。まるで空気でも斬っているかのようにゴブリンの首にすらっと刃が通った。
それも十分に驚きだが、それよりも肝を抜かれたのが刀身の色だった。どこまでも暗く吸い込まれそうな程の漆色。黒い刀など、見たことも聞いたこともなかった。
そう不思議に思い、刀を眺めるのも束の間。
「シャアアアア!」
撃ち漏らしたゴブリン達が、またもこちらへと向かってきていた───。
そうして戦闘が始まって十数分。ゴブリン達の討伐は順調に進んでいき、ついに。
「これで、最後よ……!」
ラストの一匹はルイナの鮮烈な矢によって心臓を穿たれた。
「ふぅ……」
「終わった、のか?」
「うん。お疲れさま、二人とも!」
「いや、そっちもな」
戦闘の終わりに脱力しながら、互いを労う。
美しかった平原の一部は、ゴブリン達の血潮によって赤く染まっている。数で言えば、50匹程度だろうか。血と共に無数の死体が転がっていた。
「これ、全部俺達がやったのか」
「なんか、圧巻だね」
「
「はい!まさかこんなに上手くいくなんて思っていませんでした」
みんな、討伐成功の達成感に打ち震えている。しかし、それと同時に顔には明らかな疲労が見えていた。
「けど、さすがに疲れたな」
「もう魔力もほとんど残ってないよ……」
「それじゃあ、早く帰って報告を────」
「ガアアアアアアア!!!」
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