『冥探偵ダ・ジャレーの再登場』

やましん(テンパー)

『超越体』 その1

 ダ・ジャレーは、ミス・テリーの魔物封じにあって、もはや、風前の灯だった。


 しかし、その、ダ・ジャレーを救ったのは、またまた、ノットソンだったのである。


 ただ、彼は、本来映像にすぎないから、このビルから外には出られない。


 逆に言えば、ビルの中なら、自由自在である。


 そこで、ある晩、ミス・テリーに直談判したのである。



 まあ、簡単な話ではなかった。


 なにせ、彼女にとって、ダ・ジャレーは、親の仇である。


 ギリギリまとまった協定案は、こうだった。


1  ダ・ジャレーは、歴月による、毎月の探偵による収入の70パーセントを、顧問料金として、翌月10日までに、ミス・テリーに無条件に支払う。


 ダ・ジャレーの会計は、ノットソン氏が行い、ミス・テリーが監査する。


2 収入がない月は、直近の、収入があった月の、顧問料金を除いた収入の、50パーセントを同様に、支払う。


 支払うべきものがない場合は、ミス・テリーの同意により、次回収入があった最初の月から、同様に支払うものとする。ただし、ミス・テリーが要求した場合または、同意した場合は、同程度の価値があるもので、実物弁済できる。

 

 (余談であるが、ダ・ジャレーは、あやしい品物を扱う、リサイクル・ショップを、ダウン・ヨーク街に、持っている。)


3 ミス・テリーは、自らの裁量により、自身の担当事件の補助または、全般を、ダ・ジャレーに、指示し、委託することができる。この場合は、交通費などの実費は、ダ・ジャレーが負担し、ミス・テリーは、ダ・ジャレーの実績を、ノットソン氏と協議のうえ、その支払うべき報酬を、自ら決定する。


4 公式な褒章などは、すべて、ミス・テリーの業績とし、ミス・テリ―が認めた場合に、ボーナスを、ノットソン氏を通じて、ダ・ジャレーに支払うことができるものとする。


 細かい細則は、別に定め、どの条項にも適用すべき事項がない場合は、双方が協議するものとする。


              📚 


『あのなあ、こんなもん、受諾できるわけないだろ!』


 ノットソンは、はっきり答えた。


『いやなら、消されるよ。永遠に。』



  ………………………………



 『宇宙とは、いったい、なんなのか?


 我々は、なんのために生きているのか? 


 みなさまは、どう、お考えですか? 


 最近になって、謎がたくさん解けて来たようです。


 そこで、宇宙の歴史に神様の出番は、どんどん少なくなっているようにも見えます。


 もっとも、この、『超越体』というものは、神様ではありません。


 神様の存在があるかどうか、おそらくは、『超越体』にもわかっていません。


 ただ、『超越体』は、たくさんの太陽系を彷徨ってきました。


 その理由は、かんたんです。


 故郷に、帰りたいからです。


 超越体は、自らの正体と、故郷をさがしています。


 太陽は、巨大なエネルギーの塊りです。


 推進装置でもあります。


 ただ、太陽だけではダメなのです。


 長い旅には、たくさんの資源や食糧が必要なのです。


 『超越体』に寿命があるかどうかは、まだ、はっきりとは、わかりません。


 いまのところ、不死だと思われます。


 『超越体』は、自らの仲間に会ったこともありません。


 超越体は、太陽の周囲にある惑星に、ある程度の介入が可能なんだと思います。


 惑星は、さまざまなタイプである必要がありました。


 けれど、お料理と同じように、なかなか、完璧なものは出来なかったのです。


 ちょっとした配置のかげんで、ずいぶんと変わってしまうのです。


 しかも、刻々と、変化もしますから。


 『超越体』は、『生命』が生まれる場所を、さ迷い歩いたはずです。


 ただ、生命の誕生は、むしろ奇跡と言った方がよかったのです。


 しかし、それでも、宇宙は広く、知性体にうまくゆき合う場合もありましたでしょう。


 かなりな、知能を持つ生命に遭遇したことも、あったはずです。


 でも、その目的は、どうしても、果たされませんでした。


 それは、非常に難しい事だったからです。


 また、この宇宙で、同時に、異なる知性体が、お互いに連絡可能な範囲に同居していたことは、まさに、極めて、まれなことでした。


 さて、そこで、おそらく偶然にやってきた、この地球を含む太陽系は、ほんとうに、超奇跡に近い出来具合だったのです。


 惑星の配置、太陽の大きさ、そうして、この地球。


 『超越体』は、この太陽系を使って、大宇宙を渡るつもりなのです。


 自らの故郷を訪ねて。


 太陽系自体が、つまりは、巨大な宇宙船なのです。』



            📺


 

 『なんだ、こいつは?』


 ダ・ジャレーは、テレビを見ながら、ノットソンに尋ねた。


 『最近、ちょっと人気の、美人オカルティストだよ。君も、そう思うだろう。』


 『うそばっかりだ。ぼくは、長く太陽系外にいたから、よく知ってるが、そんな話は、聞いたこともない。だいたい、よく聞いてりゃ、いくらおろかな地球人が聞いたって、筋が通らない話だろ。ちょうえつなんとかの故郷? 宇宙を渡り歩いたやつが、なんで、わざわざ、太陽系ごときを宇宙船に、使うんだ? そいつの住所を教えてくれたら、聞いて見てやるさ。』 



 それは、夜中の、オカルト番組だった。


 多少、筋が通らないことがあっても、あくまで、娯楽番組であり、科学番組ではないから、ある程度は了解すみである。


『あららら。おい、お客さまらしいぞ。この階に来た。ミス・テリーの事務所に向かった。彼女、今夜は、まだいるらしい。』


『ぼくは、営業時間外だ。やらせとけ。』


『いわなくても、彼女なら聴くさ。あ、こりゃあ、びっくり。』


『なにが?』


『ご本人様だよ。この、テレビの中の。』


『はあ????』


 電話が鳴った。


『はい、ダ・ジャレー事務所。おや、ミス・テリー、こんばんは。ごきげんいかが?はい・・・・・はあ? はあ・・・・・ども。』


『なんだと。あの鬼婆は。』


『依頼者をそっちにまわすと。あなたの、専門分野だから、と。』


『あんなあ・・・・』


 直後に、ドアは叩かれた。


 実際、ダ・ジャレーに、断わる術は、ないのである。




   ************   ************ つづく







 

 

 



 



 


 


 

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『冥探偵ダ・ジャレーの再登場』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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