一章:最強の「魔導師」にして最強の「母親」

新米治癒術師、初めての「迷宮」へ……

リアの決意から10年の月日が流れた



ここ、「新魔国」で1人の新米冒険者で「治癒術師」のティリア・アーネストが今日も自分の仕事に精を出していた。


「すまん!すぐに治癒術師はすぐに来てくれ!仲間が相当深手を負ってるんだ!!」


「はい!分かりました!すぐに行きます!」


ティリアが所属している冒険者パーティーは100名以上いると言われている大所帯である。故に、新米であるティリアでも、「治癒術師」は大忙しである。ティリアは今日も「治癒術師」として懸命に励んでいた。


「よう!新入り!今日も頑張ってるな!」


「えっ!?あっ!?グラン様!?あの!お疲れ様です!!」


ティリアに声をかけてきたのは、この冒険者パーティーのサブリーダー的存在の「重戦士」のグランである。ティリアの上司なので、ティリアは深々と頭を下げて挨拶するが、グランは「そういのはいいって」と言って、ティリアの頭を上げさせる。


「お前の事をボスがお呼びでな。一緒に来てくれ」


「ふえぇ!?私!?何かやらかしましたか!!?」


グランがボスと言うからには、この冒険者パーティーのリーダーで「黒の魔導師」の異名を持つクロムの事だ。クロムから直々に呼び出されるなんて、何かしてしまったのではと怯えるティリアだが


「安心しろって。そういう話じゃないからさ。とりあえず俺について来れば分かるから」


「は……はぁ……」


グランにそう言われ、ティリアはグランの後ろについて行くようにクロムの待つ部屋へ向かう。その間、ティリアは何をやらかしたんだろうと色々不安が膨れ上がってくる。そして、グランがクロムの部屋をノックし、クロムに入室するように促され、入室したと同時に……


「申し訳ありません!!!私が何かをしてしまったのなら謝りますから!!?どうか!?お許しください!!!!」


入室して早々に土下座しそうな勢いで謝罪するティリア。それを見た黒髪に長い髪の美青年で、この冒険者パーティーのリーダーであるクロムは、長年の自分の相方であるグランをジト目で睨みつける。


「グラン……あなたはまた説明をせずに連れて来たんですか……」


「俺が説明するより、お前さんが説明した方が分かりやすいだろ」


グランは悪びれもせずにそう答え、クロムはこめかみを抑え溜息をつく。


「ティリア。とりあえずは落ち着いて頭を上げてください。君が何かをした訳ではありませんから」


「えっ?今私の名前……?」


「僕のパーティーに加入した人の名前と顔は全員覚えてますから」


なんでもない風にそう答えるクロムに、ティリアは目を見開いて驚く。先程も述べた通り、クロムのパーティーは100人以上いる。それら全員覚えてるなんて信じられない話である。


「僕の事よりも、君の事です。君もここに所属して3ヶ月以上経ちましたし、そろそろ「迷宮」を体感してみてはと思いましてね」


ティリアはそれを聞いて「ついにきた!?」と思った。クロムのパーティーでは、新米冒険者に「迷宮」を体感するイベントがあるとは聞いていた。これは願ってもないティリアにとっても自分をアピールするチャンスだが


「あの……私は「治癒術師」ですが……大丈夫なんでしょうか……?」


ティリアの冒険者適正職業は「治癒術師」。戦闘に特化した職業でない為、ティリアはそこを不安に感じていた。


「大丈夫です。例え君が「治癒術師」であっても「迷宮」がどんなものか体感出来ますから」


クロムはそう言ってニッコリと笑った。グランもニヤニヤと笑うだけでそれ以上の事は口にはしなかった。


一抹の不安を抱えながらも、ティリアは初の「迷宮」へ足を運ぶ為の準備をしに、自分の部屋に戻って行った。

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