霧散する復讐心と目覚める力
先程まで大人しく寝ていたはずのマナとマリーが急に泣き出して慌てふためくリア。まぁ、赤ん坊が突然泣き出すのは日常茶飯事ではあるが、赤ん坊に接した事がないリアは突然の出来事に動揺していた。
「お腹が空いてるのかしら!?だったらお乳を……って!?私は出ないわよ!!?」
混乱のあまり一人でノリツッコミをしてしまうリア。リアは一旦落ち着く為に軽く深呼吸をし、役所の人に渡されたある物を取り出した。
それは、赤ん坊を育てるのに必須な物一式と、子育ての教本だった。リアが子育て経験がないのを感じ取った役所の人が、リアの為に用意したものである。
リアは早速教本を読み、豊乳瓶を使ってミルクをあげた。が、今度はオムツが汚れた事で泣き出し、教本を読みながら右往左往しながらも、ちゃんとオムツを替えた。が、今度は何もないのに泣き出し、必死で教本にあるあやし方をして、ようやくマナとマリーはスヤスヤと寝息をたてて寝始めた。
「まさか……赤ん坊を育てるのがこんなに大変な事だったなんて……」
子育てをした事がないリアは、2人に散々翻弄されてクタクタになっていた。自分も昔はこんな風に母に手間をかけさせていたのだろうか?
「いえ……ないわね。あの人の事だから絶対メイドに預けっぱなしね」
自分の憎らしい母親の事を思い出し、リアは苦い表情を浮かべ溜息をつく。そして、リアはマナとマリーの寝顔を見つめる。
「………………可愛い」
散々苦労させられて嫌味の一言でもと思ったが、マナとマリーのあまりの可愛らしい寝顔に、リアは思わずそんな一言を呟いていた。
イービルエルフは、悪魔の混血のエルフ。汚らわしい存在だと、「セイリーン聖王国」では散々そう教わってきた。だが、それは間違いだったとリアは改めて実感した。だって、目の前でスヤスヤと眠る赤ん坊はどう考えても天使じゃないか!いや!むしろ!天使よりも可愛らしい!!リアの頭の中はマナとマリーの愛らしさで一杯になっていた。
リアがちょっとしたイタズラ心で2人の頰をつつく。すると、マナはちょっとくすっぐたっそうな表情をし、マリーに至っては、リアの指をミルクと勘違いしたのか、リアの指にしゃぶりついてしまう。そんな2人のそれぞれ違った愛らしい反応に、リアはその場で悶絶しそうになったが、なんとか自重した。
この時になって、リアの復讐心は完全に消え去った。リアが復讐したいと思っていた相手は、リアの脳内でジャガイモのへのへのもへじ顔になり、マナとマリーによってあっさり吹っ飛ばされた。
が、復讐心が消えると同時に襲いかかるのは、自分自身への後悔と嫌悪である。
(こんな可愛い子達をあんなバカ共の血で汚させようとするなんて!私はなんて愚かなの!?私のバカ!バカ!!バカ!!!)
正直柱に額を何度も打ちつけたい気分にかられたが、そんな事したらせっかく眠っている2人を起こしてしまうので、リアはひたすら自重した。が、その代わりリアはある決意を固めた。
「この子達を復讐の道具にするのはやめよ!!この子達は!私が立派なイービルエルフの淑女にしてみせるわ!!!」
『おぎゃあぁ〜!?おぎゃあぁ〜!!?』
「あぁ!?ごめんなさい!?つい大きな声を出しちゃて驚いちゃったわよね〜!よしよし……」
リアの大声での宣言に、驚いて泣き出したマナとマリー。それをすぐにあやして泣き止ませるリア。教本を読んだばかりなのに、最早そのあやし方は2人の母親のように完璧なものになっていた。
こうして、リアはマナとマリーの母親になる事を決意した。
そして、その決意がリアに新たな力を授ける結果になる…………
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