新魔国

マリアナは「旧魔王城」を出て、途中で目的地に向かう馬車を運よく見つけ、これもまた運良く御者の人が親切な人だった為、マリアナはその馬車に乗せてもらい目的地に辿り着いた。


マリアナが辿り着いた目的地それは「新魔国」だ。

「新魔国」は、かつての魔王亡き後、魔族の生き残りが村をたて、それがいつしか国にまで発展したと言われている。

マリアナがこの場所を訪れた理由は2つある。1つは、手に入れた魔王の子供であるイービルエルフの双子が暮らしても問題ない環境である必要があったのと、もう1つはこの国も自分の復讐に利用出来ないかと考えたからである。


が、残念ながらその内の一つ、復讐に利用する目論見は上手くいきそうになかった。

そもそも、これはマリアナも知らなかった事実だが、魔族は人間とほぼ変わらない種族だという。魔族は、冒険者適正職業がないのに、強い魔力と魔法が使える人間で、その影響で不老であるという。違いはそれだけで、種族的には人間と変わらず、エルフとダークエルフがちょっとした違いがあれど、同じ種族であるのと同じらしい。


「まぁ、今思い返してみると……魔王レインブラッドも普通の人間のような見た目だったわよね……」


マリアナは映像の魔王レインブラッドの姿を思い出して溜息をつく。

だが、それなら何故同じ種族である魔族を「セイリーン聖王国」は敵視し続けているのか?それに、何故新たに興したこの国を放置しているのか?その辺りについては謎に包まれているが、「新魔国」側の歴史によると、「セイリーン聖王国」側から戦争を仕掛けてきたという。


「まぁ、ろくな理由じゃないんでしょうけど……」


国そのものに恨みがあるマリアナは、アッサリとそう断じた。

だが、それなら余計に恨みに思っていないのか?と尋ねれば、魔族側の答えは皆


「聖王国に思う事はあっても、争い事はもう二度としたくない……」


元々、魔族と呼ばれた人々は、争い事を好まなかった。魔王レインブラッドもその1人だった。ただ、「セイリーン聖王国」側が攻めてくるので、仕方なく迎え撃ったという感じらしい。

その歴史を知る者もいるので、「セイリーン聖王国」に思う事がある人はいれど、その歴史を知るからこそ、争いは何も生み出さない事をよく知る人々が多かった。故に、向こうが争いを起こしてこないなら、こっちも争う気がないといった姿勢を「新魔国」側は貫いていた。


「まぁ、いいわ。この子達を育てあげる環境さえあれば……」


マリアナは微笑を浮かべてそう言った。

現在、マリアナはこの「新魔国」で「リア」と名を改めた。「セイリーン聖王国」がこの国を調べに来る事はまずないと思うが、念には念を入れておく必要がある。

そして、マリアナ改めリアの当初の目的である環境については、この「新魔国」は完璧と言っても良かった。

もし、「セイリーン聖王国」でイービルエルフの双子を連れ歩けば即捕まるだろうが、この「新魔国」は、魔族の人々を中心に、リアのような事情を抱えた訳あり者も多く流れてきていた。そういった者でもアッサリ受け入れてしまう国なので、18の女が1人イービルエルフの双子の赤ん坊を抱えていてもアッサリと受け入れてくれた。


「それにしても……流石にこの子達の名前を決める事になった時は焦ったわね……」


リアは役所で自分の名前と、イービルエルフの双子の赤ん坊を、自分の養子にするよう申請した時の事を思い出して溜息をついた。


申請自体はリアはちょうど18歳で、里親の適正年齢に到達していたので問題なかったのだが、2人の名前を聞かれて、リアは思わず冷や汗を流した。2人を復讐の道具に利用する事までは考えていても、2人の名前まで考えていなかった。というか、2人の性別すら把握していなかった。


リアは慌てて役所の人に、トイレに行ってくると言って待たせ、すぐに2人の性別を確認する為、2人の下半身を確認し、2人に男児の証拠であるアレがないのを確認した。リアもアレを見た事はないが、少なくとも、それらしい物は2人に付いてないので、2人が女の子であるのは間違いない。

そこからまた大変で、2人の名前をどうするかで必死に悩んだ。道具として利用するつもりなんだから、そんなの適当でもいいはずなのだが、リアは必死で頭を働かせ、結局自分の「マリアナ」の名前からマナとマリーと名付けた。この時、本当に自分のセンスのなさにリアは泣きたい気持ちになった。


そして、現在リアは国の外れに誰も使っていないボロの空き家を見つけ、そこで暮らす事にしたのである。


「ふっ、まぁ、色々あったけどこれでようやく復讐計画を……」


『オギャアァ〜!!?オギャアァ〜!!?オギャアァ〜!!?』


「えっ!?」


復讐計画を立てていこうとした矢先、マナとマリーが急に泣き出し、リアは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

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