魔王の部屋

重厚そうな扉を開け部屋の中を見れば、そこは先程の貴族部屋とは違い、豪奢な感じではなく、どこかシンプルで素朴な感じがする部屋だった。まぁ、貴族部屋よりは広く、高価そうな物が色々と置いてはいるがそれだけである。マリアナは部屋の中を散策する為に一歩を踏み出した瞬間……


「ッ!!?」


マリアナは何か固いものを踏んでしまい、思わず足を上げるマリアナ。今のマリアナは裸足である為、何かを踏んだらすぐに分かるのだ。


「これは……?」


マリアナは踏んでしまったソレを拾い上げる。ソレは誰がどう見ても石コロだった。普通の人が見たらすぐに捨ててしまっていただろう。だが……


「綺麗……」


マリアナには何故かソレが紫水晶のような輝きを放つ宝石に見えていた。その美しくも怪しげな紫の輝きに惹かれるように、マリアナはソレを服のポケットにしまう。


「ん……?あれは何……?」


マリアナは魔王の部屋の奥に何か気になる物を発見。そこに近づいてみると


「これは……棺……?それにしては少し小さいような……」


それは小さな棺のようや形をした物だった。しかし、その棺は本当に小さく、子供ですら入れるかどうか怪しい。この棺に入れるとしたらそれは、赤ん坊ぐらいかもしれない。

マリアナはなんとなくその棺が気になって、その棺の蓋に手を触れる。と、次の瞬間……


パアァァォァ〜ーーーーーーーーーー!!!!


突然その棺が輝き出し、マリアナは思わず目を閉じた。そして、輝きが収まりマリアナがゆっくりと目を開くと……


「なっ!!?」


棺の上に1人の美青年が突然姿を現したのである。しかも、マリアナはその美青年に見覚えがあった。


「魔王……レインブラッド……」


そう。彼こそが「セイリーン聖王国」と戦った魔族の頂点にして、旧魔国の王、魔王レインブラッドその人だった。マリアナも何度か文献や教科書などで絵姿を見た事があるので間違いない。


とは言え、大昔に死んだはずの人が何故?と疑問に感じたマリアナだったが、その疑問は魔王レインブラッドをよく見れば簡単に解けた。


「これ……映像魔法……?」


映像魔法とは、撮った映像をそのまま映し出す事の出来る魔法である。その魔法の力の魔道具は、何度も犯罪の証拠品として提出されたりもした。思えば、この映像魔法に自分が犯罪をやってないと証明出来る映像が残っていれば、今の状況にはならなかったのにとつい考えてしまうマリアナ。

そして、今目の前にいる魔王レインブラッドは、映像魔法によって映し出された時の特有のブレや乱れがあった。なので、マリアナの考えは間違いではないだろう。

しかし、映像魔法が確立されたのはつい最近の事だ。それなのに、大昔の人物がこの魔法を使えるなんて……魔族は冒険者職業でなくても魔法が使えて、魔法を極めている種族だと聞いてはいたが、それは本当の事だったんだなと実感したマリアナだった。


『ここにどういった経緯でたどり着いたかは分からないが、この映像を見ているという事は、私と同等の力を持っているという事だろう』


突然、映像魔法の魔王レインブラッドが喋り出し驚くマリアナ。映像魔法には、高度な魔法だと声すら再現出来るとは聞いた事はあるが、まさか大昔の人物が声の再現までするなんて……やはり、流石は魔王という事なのだろう……


『そんな君に。いや、君達かもしれないが頼みがある。私達の子供を託したい。どうか……私達の子を……よろしく……頼む……』


魔王レインブラッドの声も映像も乱れ、やがて、その姿はアッサリと消えてしまう。どうやら、あのメッセージだけを映し出したら、すぐに消えてしまう仕組みのようだ。


ゴゴゴゴゴゴ…………!!!!


すると突然、今度は棺の蓋が勝手に開き始めた。マリアナは驚いたものの、好奇心に従って中を覗いてみると……


「これは……イービルエルフの……双子の赤ん坊……?」


棺の中に入っていたのは、魔族とエルフの混血と言われているイービルエルフの双子の赤ん坊だった……

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