被せられ冤罪

アリシアは確かに言った。自分の罪を被っていただきありがとうと……どういう事だと詰め寄りたいマリアナだったが、数々の拷問のせいで起き上がる事すら億劫になっていた。そんなマリアナを嘲笑うかのようにアリシアは冷笑を浮かべる。


「可哀想なお姉様の為に説明して差し上げますわ。私、グレン王太子に惚れておりましたのよ」


それは、マリアナもなんとなく分かっていた。アリシアのグレン王太子を見つめる熱い視線は何度も感じていた。そして、自分への嫉妬の視線も……


「だから、私は聖王様に気に入られて婚約者に収まったお姉様も、グレン王太子の寵愛を一心に受けたリシテアも邪魔で邪魔で仕方なかったんですの」


だから、まずはリシテアを殺害する為、領民の税金を手に殺し屋を雇い、その殺し屋にリシテアを殺害するように依頼したというのだ。

が、結果は失敗に終わった。グレン王太子だけでなく、数々の有名貴族令息や、騎士団達の寵愛を受けているリシテアを殺害するのは不可能だった。逆に返り討ちにあったらしい。


「流石の私も焦りました。事が露見すれば流石にお父様やお母様も私を見捨てるでしょうからね」


思えば、ガイゼルもクレアナもアリシアを非常に甘やかして育てていた。マリアナにはやれ公爵令嬢としての教養を身につけろだとか、やれ王妃教育をしろだとか、あげく、マリアナに冒険者適正職業「魔導師」の適正が見つかってからは、その魔力を「セイリーン聖王国」の為に使えと、数々の魔法の勉強もさせられた。

しかし、アリシアにはそれがなかった。アリシアだけは両親から甘やかされ、結果このような傲慢なワガママ娘に育ってしまった。マリアナが持ってる物をアリシアが欲しがれば、マリアナから取り上げられ、アリシアに渡されてしまうほどの……

だが、そんなアリシアでも「欲しい」と言っても姉から取り上げられないものがあった。それが、グレン王太子の婚約者のポジションだ。この婚約はヴァルス聖王が頑なに譲らなかった。流石のマリアナの両親もヴァルス聖王に婚約者を変えてくれるように強く言えなかった。が、グレン王太子とマリアナの関係は誰の目から見ても冷めきっていたものだったので、アリシアはそこにつけ込み、自分の姉を追い落としてやればいいと考えていた。


しかし、ここでまたしてもアリシアに予想外の展開が起きる。異界からやって来たという聖女リシテア。彼女がグレン王太子を籠絡させてしまったのである。それ故に、アリシアは嫉妬にかられ愚策をとるのだが、失敗に終わり、焦るアリシアの前に、その問題の聖女リシテアがやって来たのである。


「あの方を皆は聖女と言いますが……うふふふふふ……とんでもない。むしろ最悪の悪女かもしれませんわね。なんせ、私にこんな提案をしてきたのですから……」



『このままだと、あなたは私を殺害しようとした罪で断罪されます。もし、それがお嫌なら……貴女のその罪を全て……マリアナ様に被せるように私が動いて差し上げましょうか?』


と、アリシアにそんな提案をしてきたという。まさか、聖女と呼ばれたリシテアがそんな提案をするとは思わず、最初こそ驚き警戒したアリシアだったが、彼女リシテアの目が自分のソレと重なって見えたとはアリシアは言う。


「リシテア様のあの目……あの目はお姉様に嫉妬する私の目と同じでしたわ。うふふ……本当にお姉様はつくづく誰かに怨まれやすい方ですわね」


リシテアの目は自分が姉に嫉妬する目と同じだった。何故グレン王太子の寵愛を受けているリシテアがマリアナに嫉妬するのか分からなかったが、自分ときっと同じではないかとアリシアは推測した。

マリアナは本当に美しい少女だ。長い銀色の髪も、その銀色に負けない白い肌も、おまけに女性が羨む見事なプロポーション。いくら、グレン王太子がマリアナを嫌っているとは言え、その絶世の美にクラっとくるのでは?という焦りがアリシアにはあった。現に、あれだけの拷問を受けたにも関わらず、マリアナの美は損なうどころか、こんな若干小汚くなっても抱いてみたいという男性がいてもおかしくはない程の美を残していた。

そんな自分と同じ目をしたリシテアだからこそ、アリシアは信じる事にした。別にいつかはマリアナを追い落とそうとしていたのだ。マリアナを追い落とした後に、リシテアも同じようにすればよいのだと……


「だから、安心してくださいませね。お姉様。お姉様の仇であるリシテアを何年後かにお姉様の元に送って差し上げますから」


アリシアはそう言って冷笑を浮かべたまま去って行った。マリアナは……牢の柵を掴んでアリシアを激昂する事が出来ず、ただただ、牢の冷たい床に横たわるしか出来なかった。


が、そのマリアナの瞳には涙が一粒溢れた。自分が涙を流しているのを、どこか他人事のように不思議に感じるマリアナ。もう……あれだけの拷問のせいで、涙も枯れ果てたと思っていたのに、まだ涙が出るのだと……




そして……ついに彼女の処刑の日が訪れる……

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