第103話



久しぶりにこのダンジョンに来たが、珍しく他に人が来てるみたいで、入り口付近に荷車が置いてある。


荷車を引いていただろう魔物はいないから、中に連れて行ったのか?


それにしても荷車だけ置いて行くということは冒険者じゃないのか?それともアイテムボックスの容量的に入らなかったとかか?


まぁ、どうでもいいな。


余計なことを考えるのは中断して、アリアたちの方を向いた。


「これからダンジョンに入るが、3パーティーに別れてレベル上げをする。1つは攻略組でメンバーはリーダーをセリナにしてイーラとカレンとアオイの4人だ。2つ目と3つ目は地道に訓練組で俺がリーダーの方はヒトミと2人でアリアがリーダーの方はサラとソフィアだ。テンコはパーティー編成はできないが俺らと一緒だ。攻略組は無理をするな。セリナのリスタートで地下34階からスタートして、一階ずつ魔物を全滅させて行け。厳しそうなとこまで行ったら無理せず俺らと合流だ。最悪イーラの特製ドリンクを飲んででも生きて帰ってもらうからな。」


セリナとカレンがかなり嫌そうな顔をした。特製ドリンクが飲みたくないなら無理をしなきゃいいだけだ。


セリナにはアリアと対になっている以心伝心のブレスレットを渡した。


「地道に訓練組は効率よくレベルを上げるために2つに分けてるが、一緒に戦闘訓練をする。最初は1人ずつ戦闘をして、敵が強くなってきたら前衛が俺とヒトミで中衛がアリアとサラ、後衛がテンコとソフィアで戦う。慣れてきたら俺とアリアは抜けるから自分のするべきことを意識して覚えろよ。いいか?」


「「「「「「「「はい。」」」」」」」」



既に装備は整っているから、全員の返事を合図としてパーティー編成だけしてダンジョンに入った。



ダンジョンに入ってすぐにセリナ組はリスタートで地下34階に移動した。


俺らは1階からスタートだが、まだ前回全滅させてから20日程度しか経っていないから魔物がいるか心配だったが、数体の魔物が既に生まれているようだ。


このくらいの量ならむしろ都合がいいな。


「相手が雑魚でも攻撃は受けるなよ。それと相手にしている魔物以外にも注意を払え。つまり怖がらずに全てをよく見ておけ。攻撃はそれができてからだ。」


「「「「はい。」」」」


俺らの声に気づいたのか、一番近くにいた魔物がこちらに向かってきた。


まずは生き物を殺す感覚を覚えさせるべきだろう。


「最初はヒトミ1人で相手しろ。攻撃を避けたらモーニングスターでぶん殴れ。」


「…。」


返事こそないが、了承の意が不思議と伝わってきた。


確かここの1階の魔物は体長1メートルくらいのカエルのような魔物で舌を伸ばしたり飛びかかってきたり、粘液を飛ばしてきたりだった気がするが、あの時は怒り任せに暴れたから、どんな攻撃をされたかあんま覚えてねぇんだよな。


近づいてきた魔物は口を開けて舌をヒトミに向かって伸ばしてきた。


それをヒトミは横にかわしながらモーニングスターの柄を振ると、鎖の先の棘のついた鉄球がカエルの横っ面にぶつかり、顔がひしゃげて緑色の液体をぶちまけた。


カエルはひっくり返って痙攣している。たぶん一撃で死んだのだろう。


さすが魔物というべきか、ヒトミはまだレベルが低いのになかなか力があるんだな。

まぁまだ敵が弱いからってのもあるだろうけどさ。


なんとなくヒトミの頭をポンポンと叩くとくすぐったそうに体を揺らした。


「次はサラだ。」


「…はい。」


少し怯えているようだな。


「俺とアリアがフォローはしてやるから怯まずにやれ。覚悟を決めてやらないと痛い思いをするのは自分だからな。」


「はいなのです!」


今度は俺らの方から魔物に向かって行く。


サラが先頭で斜め後ろを俺が速度を合わせて走っている。


魔物が気づいて振り向きざまに粘液を飛ばしてきた。


「避けろ!」


俺の声にビクッと反応したサラが横に飛び退いて、バランスを崩して転がった。

そこにすかさずカエルが飛びかかってきた。


止まったサラはカエルに気づいて、さらに横に転がって避けて、立ち上がりざまに槍でカエルを突いた。


刺さりはしたが、浅いな。


「すぐに抜け!」


「はい!」


槍を抜いた瞬間、カエルが体を振った。抜くのがもう少し遅かったら振り回されていたかもな。


サラは槍の石突きをカエルの横っ面に打ち込みながら一度距離を取り、すぐさま突進するように走りながら槍を突き刺した。


カエルがそこまで硬くないおかげで、軽いサラの体重を乗せた程度の突きでもなんとか貫けたようだ。


まぁ初めてにしては上出来だ。

ただ、まだカエルは死んでないし、突き刺した槍が抜けなくて困っているようだがな。


とりあえず俺が殴ってトドメをさして、槍を引き抜いてサラに渡した。


「上出来だ。あとはレベルアップで力がつけばもっと上手く槍を使いこなせるようになるから、今の感覚を忘れるなよ。」


「はいなのです!」


「次はソフィアだな。」


アイテムボックスから物理麻痺のロッドを取り出してソフィアに放った。

いきなりで驚きながらもソフィアはなんとかキャッチした。


「これは?」


「まずは魔法は使わないで魔物を倒せ。」


「でもワタクシは魔導師なのですが…。」


「詠唱する時間を与えてくれる魔物ばかりじゃないんだ。自分が詠唱する時間くらいは自分で稼げるようになれ。でもまだソフィアは回避に慣れてないだろうから杖で防がれて壊されたらたまったもんじゃねぇからな。ロッドの方が頑丈だろう。だから武器に頼らず回避ができるようになるまではロッドを使え。」


「はい。」


ソフィアは杖を腰紐に刺して、ロッドを握りしめてカエルに向かって走っていった。


カエルはソフィアに気づいて舌を伸ばしてきた。

ソフィアは…反応が遅すぎて避けれないようだ。

咄嗟にロッドで防御するが、舌に絡められてロッドを奪われてしまった。


しょうがないから俺がロッドを奪ったカエルに近づき、ぶん殴って顔面を吹き飛ばしたら、まだ飲み込まれていなかったロッドが床を転がった。

それを拾ってソフィアに放る。


「やり直しといいたいが、それ以前の問題だ。まずはアリアと練習しろ。ということでアリア、頼んだ。」


「「はい。」」


ここの魔物程度ならアリアはソフィアに教えながら相手にできるだろ。


「そしたらテンコも戦っておくか。」


「はい。」


テンコはどうしようかと考えていたら、ヒトミから進化許可申請がきた。

今はヒトミは特に何もしていない。それなのに進化許可申請がきたってことは攻略組が経験値を稼ぎまくってるんだろうな。


もちろん許可だ。


「とりあえずテンコは何ができるかわからねぇから、テンコのやりやすいようにあの魔物を倒してこい。」


「はい。」


テンコがカエルに右手をかざしたら、地面から数本の棘が生えて、カエルが串刺しになった。

ピクピクとカエルが痙攣しているが、もう死んでるだろう。


ちょっとなめていたが、テンコって強いんじゃねぇか?

テンコは魔物を倒すよりも攻撃を受けない練習をさせた方が良さそうだな。


だからテンコは地下5階までは見学にしておこう。


一通り試した感じだとサラとヒトミはこのまま自力で覚えさせるでいいだろうから、もうしばらく一人戦闘をさせて、ソフィアはアリアとの練習である程度避けれるようになってから参加させよう。


予定を決めてから、アリアとソフィアは放置して、残りの魔物を探しにいった。





20日じゃそこまで魔物が生まれていないようだ。

全滅させたら一度全員で下りて、またそれぞれの訓練を行うを繰り返して、現在は地下7階だ。


ソフィアも既に戦闘に参加させ、一応は避けられるようにはなっている。

テンコは避けるのも楽々という感じだったから、見学させている。


地下7階に来るまでの間に2回ほどヒトミの進化許可申請がきたが、攻略組はどんなペースで討伐してるんだろうな。


おかげでサラも槍を振り回せる程度の力はついたみたいだ。

ヒトミはさらに力を増してるしな。


時間的にもこの階で最後にしようかと思ったら、なぜか虫の死体がそこらに転がっていて、生きてるのがほとんどいないようだ。


誰かが先に来たのか?

そういや外に荷車があったな。そいつらが7階から始めたってことか?

これじゃあ練習にならないからこの階はスルーだな。

ただ、次の階に行くほど時間もないだろうし、ちょっと早いが今日はここまでにしておくかな。


夜は町のスラムに行かなきゃならねぇしな。


アリアにセリナと連絡を取るように指示し、リスタートで1階と繋げ、全員を通らせた。


しばらくしてセリナたちが来たから外に出ると、既に荷車はなくなっていた。


穴場と思って来たらほとんど魔物がいなかったから帰っちゃったのか?

でもダンジョンの魔物の討伐は早い者勝ちだからしゃーない。


どんまい。


そんなことを考えながら、イーラに乗って町へと帰った。

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