第99話



驚きのあまり全員が足を止めていた。

こいつは入って早々、仲間に喧嘩売ってんのか?


新人のくせに序列を決めようなんていって負けたら、普通なら今後居場所がなくなるぞ?

そのくらい考える脳もない馬鹿なのか?


「1番強いのはリキ様で次はイーラだよ!」


イーラがくるくると回ってよくわからない決めポーズをとった。


俺もイーラも厳密には奴隷じゃないんだがな。

でもソフィア的には使い魔も含めた、俺に従う者の序列を強さで決めようってことだろう。


仲間同士を戦わせて怪我なんてさせたくねぇから止めようかと思ったら、アリアが一歩前に出た。


「…イーラ。その冗談は面白くありません。セリナさんがいうならまだしもイーラじゃわたしにも勝てませんよ?」


「イーラは最強だもん!アリアにもセリナにも負けないもん!」


俺の方が強いっていってる時点で最強じゃないことには気づけよな。

これが普通の子どものケンカなら好きにやらせるんだが、こいつらの強さじゃ死人が出る可能性も否定できないからシャレにならん。


でもアリアはなんか怒ってるみたいだし、セリナは子どもの喧嘩だと思って楽しんでるっぽいから止める奴がいねぇな。

まぁそういってる俺自身、仲間の強さには興味があるから止める気にはなれねぇ。


でもここじゃ目立つし、被害が出て弁償とかになったら笑えない。


仕方ない。外の草原で好きにやらせるか。




ガンザーラの首都から出て、少し離れた草原でアリアとイーラが対峙している。


審判は俺だ。危なくなったら俺かセリナが止めに入る予定だが、一応条件で殺害禁止とした。


セリナはだいぶ離れたところにいて、その後ろにカレンたちがいる。

俺はアリアとイーラの近くでいつでも止めに入れる位置にいる。セリナと違って一瞬で間合いを詰められないからな。


ソフィアは勝った方と戦うということで、今はカレンたちと一緒にセリナの後ろで観戦している。


それにしてもソフィアはどんだけ自信があるんだよ。

たぶんカレンにも勝てないと思うが、まぁ自分の実力を知るいい機会だろう。


「それじゃあ始めるが、ルールは殺害禁止と俺が止めろといったら即終了だ。ルールを破ったら俺が直々に罰を与える。いいな?」


「「はい。」」


「それでは始め!」


イーラがいきなり火の玉を12個生み出してアリアに飛ばした。


「アリアは詠唱のない魔法は消せないって知ってるんだよ!」


アリアはロッドで火の玉を踊るように全て流した。


「…そもそも消す必要がありません。イーラが得意なのは接近戦でしょう?得意分野で来てください。リキ様と過ごした時間の差を教えてあげます。」


俺と過ごした時間の差イコール強さみたいないい方してるけど、おかしくね?

俺と一緒にいれば強くなるわけじゃねぇぞ。現にアオイは俺と会う前から俺よりもずっと強かったし、セリナは3番目だが俺をもう超えてそうだしな。


それにアリアとイーラの差って3、4日程度だろ。


「怪我しても知らないからね!」


イーラは風の刃を8本アリアに放ちながら、柄の長い鎌を持って走り出した。


風の刃はアリアには見えないだろ。1本目は当たっても身代わりの加護があるからなんとかなるかもしれないが、2本目で死ぬ可能性もある。


早くも止めに入らなければならないか。


「…大丈夫です。わたしの成長を見ていてください。」


戦闘中にもかかわらず、俺の心を読んできやがった。

ずいぶん余裕じゃねえか。


1本目の風の刃がアリアに近づいたが、アリアはそれを余裕を持ってかわした。

2本目、3本目と危なげなくかわしている。もしかしてアリアにも見えているのか?


だが、4本目が来るよりも先にイーラが鎌でアリアに斬りかかった。

これじゃあ全部かわすのは厳しいな。止めるべきか?


そもそもイーラは殺害禁止の意味がわかってないのか?


アリアはイーラの鎌をかわし…違う。ロッドで絡めて、強引に4本目の風の刃にぶつけ、イーラの足を蹴り払ってからロッドで脇腹を殴って5本目の風の刃にイーラ自身をぶつけた。


5本目の風の刃がイーラの体に食い込み吹っ飛ばされたのをアリアは避けて、続く6、7、8本目の風の刃も難なく避けた。


アリアは振り向いて倒れてるイーラを見下す。


「…これで分かったでしょう。イーラは魔法でも物理でもわたしに攻撃を当てられない。だからイーラの負けです。まだわたしより弱いという自分の実力は素直に受け入れてください。」


「ぐぅ…。でもアリアの攻撃なんて効かないもん!だから負けてないもん!支援しかできないアリアになんて絶対負けないもん!」


イーラは立ち上がって鎌を構えた。


「…自信を持つのはいいですが、過信しすぎたら死にます。イーラが死んだら誰が悲しむのかを考えてください。」


『プラレティックミスト』


イーラを包むように霧が発生した。

確か麻痺にさせる霧だったか?でもイーラに麻痺は効かないと思うが…。


アリアはロッドの先を霧の中に入れた。


『中級魔法:電』


「がっ…。」


イーラが無理やり息を吐いたような声を出し、硬直した。


今の流れからして、あの霧に電気を流して感電させてるのか?


「…威力は弱めているのでダメージはほとんどないと思いますが、動けないでしょう?このまま威力を高めればダメージを与えることも殺すことも可能です。これで支援しかできないわたしにすら勝てないということがわかりましたか?」


なんかアリアが物凄く怒っている気がする。


イーラは感電しててしゃべることもできないようだ。

アリアに限って魔法の調整を誤ることはないだろうが、これ以上続けても結果が覆ることはないだろう。


「そこまで。アリアの勝ちだ。」


アリアは魔法を解除した。


イーラは膝から崩れ落ち、顔面を地面に打ち付けた。土下座に近い格好だな。


イーラは肉体的ダメージはそもそもないだろうが、精神的ダメージを受けすぎたせいか動こうとしない。


こういうときはなんて声をかければいいんだ?とりあえず次の戦いの邪魔だから回収するかと近づくと、珍しくイーラが自らスライム形態になった。

そのまま俺に近づいてきて、足からよじ登り、頭の上で落ち着いた。


なんか懐かしいな。


声は聞こえないし涙を流してるわけじゃないけど、なぜだか泣いているのがわかる。

悔しかったんだろうな。

とりあえずは放っておこう。


「次はアリアとソフィアだが、連戦は大丈夫か?」


「…問題ありません。」


たぶんたいしてPPもMPも消費してないのだろう。


ソフィアに声をかけて、最初にイーラがいた位置に立たせた。


「ルールは同じだ。準備はいいか?」


「「はい。」」


「それじゃあ始め!」


ソフィアが右手をアリアに向けて突き出した。


「我の『パラサイティックマジック』理を…あれ?」


何が起きたのかわかっていないようだが、魔法が無力化されたのは気づいたみたいだな。


でも乗っ取っただけでマジックキャンセルはつかわないのか?


「我の『パラサイティックマジック』理を…え?なんで?」


さすがにおかしいと思ったみたいだな。


「…ソフィアさんはわたしに魔法を使うことは出来ません。諦めて降参してください。それとも物理で戦いますか?ふふっ。このロッドでゴブリンソルジャーを殴り殺したことを思い出しますね。」


アリアがなんか怖い笑顔で笑いやがった。最初の頃は巫女になれるほど純粋だったのに、誰に似たんだか。


「降参しますわ。」


青ざめたソフィアが両手を上げて降参の意を示した。

先輩に喧嘩売っといて、ほとんど何もせずに負けてんじゃねぇか。ダサすぎる。


「…なら序列なんて考えないで、リキ様のためだけに強くなってください。」


「はい。」


とりあえずは解決なのか?

こう見るとアリアを支援担当にするのはもったいなく感じてくるな。


「妾もアリアに挑んで良いかのう?1番の座がちょいと欲しくなったわ。」


また厄介なのが出てきたな。

アオイが強いのは証明済みだろ。一度アリアだって殺してるんだし。


「アオイさん。冗談はよくにゃいよ。もし本気にゃら相手は私がやるよ。でも、体はどうするの?」


セリナが目を細めてカレンを見た。

カレンはビクッとしてアオイを見た。


なんだろう。カレンは関係ないのにセリナに虐められてるように見える。


「カレンの体を借りるとしよう。久しぶりの戦闘、楽しみじゃのう。」


カレンが許可をしたのかはわからないが、カレンが立ち上がってアオイの刀を抜いた。


もう止めるのは面倒そうだな。


「アリア。テンコたちは任せた。」


「…はい。」


アリアとソフィアがテンコたちの元に向かうと、セリナとカレンが俺の方に歩いてきた。


セリナとカレンが対峙して、それぞれ武器を構えた。


「ルールは同じだ。準備はいいか?」


カレンは鬼化したのか、髪が伸びて白くなり、額から二本の長い白いツノが生えてきた。


「「はい。」」


互いに低い声で返答してきた。

2人とも本気みたいだな。


「それじゃあ始め!」


開始早々セリナが間合いを詰めて斬りかかるが、カレンはゆらゆらと揺れて消えた。

咄嗟にセリナが左の短剣を腹の前、右の短剣をうなじを隠すように構えると、金属同士がぶつかるような鈍い音が響いた。

俺は目で追うのがやっとだが、どうやらカレンが胴切りをしながらセリナの後に回り、振り向きざまにセリナの首を切りにいったようだ。


腹の前で刀がぶつかった音とうなじのとこで刀がぶつかった音が重なって聞こえたが、カレンは音速を超えてんのか?いや、俺が目で追えてる時点でそれはねぇよな。…ねぇよな?


一瞬互いに止まったが、カレンがすぐに後ろに飛び退いた。

カレンが着地をする前にセリナが間合いを詰めて斬りかかる。右左と交互に斬りかかるのをカレンは全て刀で流している。

気づくとカレンは刀を片手で持っていた。空いた右手はもう一本の刀を掴んで、引き抜いた。


斬り合いしながらの居合斬りかよ!?

どんだけ器用なんだよ。


だが、セリナは一瞬居合斬りに集中したカレンの意識の裏をかいて背後に回り、首に短剣を突きつけた。


「ニャハッ。十分楽しんだでしょ?にゃら序列なんて気にしにゃいで今まで通りでいいよね?」


カレンの首に短剣を突きつけながらいつもの楽しそうな声で喋ってるが、目が笑ってねぇぞ。


「そうじゃな。まいった。」


カレンは鬼化を解いて刀を2本とも鞘に収めた。

セリナも双剣を腰の鞘に戻した。


アオイは体をカレンに返したのだろう。カレンはそのまま腰を抜かしたように座り込んだ。


「にいちゃん。怖くて足に力が入らないぞ。」


「お疲れさん。まぁいい勉強になっただろ。その代償として受け入れろ。」


動けなくなったカレンの腰に左腕を回し、脇に抱きかかえた。


カレンは無抵抗のようだ。


そういやけっきょくソフィアの実力が全く分かってねぇな。


まぁ今回の戦いでレベルが全てじゃないっていう再確認と現主力メンバーの実力がなんとなくわかったから無駄な時間ではなかったが、ソフィアの実力もちゃんと見ておくべきだろう。


「ソフィアはなんであんなに自信があったんだ?」


「ワタクシの魔法は最強なので、負けるはずがないと思っておりましたが、まさか使うことすらできないとは予想しておりませんでした。戦闘シミュレーションが足りておらず、恥ずかしい限りです。」


魔導師ってくらいだからやっぱり魔法は使えるのか。

でもスキルじゃないってことは全部詠唱を覚えてるのか?だとしたらかなり記憶力がいいじゃねぇか。

ただの馬鹿ではないんだな。


「じゃあ、その魔法を俺に使ってみろ。もちろん死なない程度にだ。」


「えっ?」


「なんだ?加減すらできないのか?」


「できますわ!ですが、ご主人様に攻撃すると私は死んでしまうのではないでしょうか?」


確かにそうだ。忘れてた。

というか自己紹介したのにご主人様かよ。


「俺は神野力だといったはずだ。ご主人様とかいうな。背中が痒くなる。」


「申し訳ありません。リキ様。」


とりあえず奴隷項目から殺意がない俺への攻撃に対する罰は解除しておく。


「これで大丈夫だ。セリナはこいつらを頼む。」


「はい。」


イーラとカレンをセリナに渡して、戦闘位置につく。

ソフィアは渋々と反対側に立った。


「殺意を持って魔法を使ったら罰がくだるが、死なない程度なら罰はないように設定した。それに俺は一切攻撃しないから、遠慮なく使え。」


「はい。それではいかせていただきます。」


ソフィアは右手を俺に向けた。


「我の望みを聞き、力を与えよ。我の前に立ちはだかる者に見えない力の鉄槌を。平伏という恥辱を強制的に与える力を今。全ての者がこうべを垂れ、我を崇めるかのように。ひれ伏せ。そして自分の弱さを恨むがよい。最強にして最高にして最大の力。集え集え集え集え集え集え集え集え集え。そして放たれよ。」


詠唱が長えよ。ここまでで何回殺されるつもりだって長さだわ。


『グラビティ』


長すぎて気が抜けたところで詠唱がちょうど終わったようで、ソフィアが魔法名だと思われる単語を口にした。


名前からするに重力系だろうと即座に判断し、足に力を入れた瞬間、体が重くなった。

間一髪間に合ったようだ。


詠唱がクソ長えだけあってかなりの重力だ。

軽量の加護があるにもかかわらず、気を抜いたら強制土下座をさせられそうだ。それだけはプライドにかけて防ぎたい。


重さが増した。

こいつ俺が耐えてるのを見て威力を増しやがったな。


「もう十分だ。魔法を解除しろ。」


「…はい。」


魔法が解除され、急に軽くなったから少しよろけた。


なんとか威厳は守れたか?


「ハハハ。加減したからといって最強魔法で膝をつかせることも叶わないなんて…。」


よっぽど悔しかったのか、ソフィアは乾いた笑い声をあげながら両膝両手をついて頭をうな垂れた。


まぁアリアみたいに詠唱もさせてもらえなければ言い訳もたつだろうけど、あれだけ長い詠唱をしたのに耐えられたらショックもあるわな。


それにしてもどうすんだこの状況。


イーラはいじけてスライム状態だし、カレンは膝が笑って立てないし、ソフィアも動く気配がない。


さいあく俺が2人を担いで移動するでもいいが、それでアラフミナに戻っても最初の村までが限界だろう。


でもこの国にはもういたくねぇし…。




はぁ、アラフミナに戻ってからやらせりゃよかった。

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