第90話
夕方頃に全員が帰ってきて、パーティー分けの説明と次に向かう予定の国の話をしたあと、パーティー設定とチーム設定を行った。
そのパーティーと同じ部屋割りにしたんだが、ミスったな。
サラとセリナを別の部屋にしちまったから、サラのお守りをするやつがいねぇ。
昨日泣いてた理由はわからねぇが、1日で解決するようなもんじゃねぇだろ。
…しゃーねぇか。
「サラ。今日は一緒に寝るぞ。」
サラは驚いた顔でこっちを見た。
「なんだ?怖いか?」
「いえ、男の人と一緒に寝たら子どもができてしまうのです。」
…。
「一緒に寝ただけじゃ子どもはできねぇよ。子供を作るにはちゃんと過程があるが、俺はそんなことをするつもりがねぇから安心しろ。」
「過程とはなんなのですか?」
「それはサラが大人になれば自然と分かるようになる。それまでは我慢しろ。」
さすがに6歳に生々しいことを教える気はねぇし、オブラートに包んだ話をするのは面倒だからな。
「はい。」
サラはトテトテと歩いて俺のベッドに入ってきた。
イーラが羨ましそうに見ているが、なんでイーラはそんなに一緒に寝たがるかね。べつにイーラは1人で寝るのが不安とかいう感じでもねぇのに、ベッドが狭くなるだけじゃねぇか。
ベッドに入ってきたサラの頭を撫でる。
最初は固まってたサラも徐々にほぐれていってるようだ。まぁ単純に眠いだけかもしれねぇが。
「不安がいっぱいあるだろうがな、このパーティーに怖いやつは俺しかいねぇ。だから俺に慣れときゃ大丈夫だ。早く慣れて安心して寝ろ。」
べつに俺は仲間に怖い思いをさせるつもりはねぇけど、カレンは怖がってたみたいだからな。
サラには先に伝えて慣れさせようと思ったが、なんか変になったな。
まぁいい。
「ありがとう…ございます…。」
既にウトウトし始めている。
そのまま頭を撫でながら、寝るのを待つ。
サラが寝たのを確認してから、俺も眠りについた。
翌朝、俺が起きてから準備を始めさせて、おっさんのとこの武器防具屋に向かうことにした。
「おう、坊主。シュリケンとクナイは出来上がってるぜ。」
「あんがと。あと、今日はこの2人の防具を欲しいんだが、加護は付いてなくていいから、この店で1番防御力の高いのをくれ。」
加護はアリアが付与できるから、もう加護重視で選ぶ必要はない。むしろ、そろそろ品質重視で買わなければ死ぬ確率が増えるだけだ。
「またちっこい奴隷が増えてやがんな。さすがにこのサイズでいいもんはうちにゃあ置いてねぇわ。要望がありゃあ作んぞ?」
「作ってもらえんならそうしたいが、明日には他国に行く予定だから今日中に欲しいんだよな。」
テンコとサラは一切戦闘訓練をしてないから、もしもがあったらマズイ。だから防具だけは着けさせたい。
「じゃああっちのデケェ店に行ってくれや。さすがにねぇもんは用意できねぇ。」
「そうだよな。悪いがそうさせてもらう。あと、短剣を2本、これも加護はなくてもいいからこの店で1番いいやつを欲しい。」
「その短剣は2本とも同じやつが使うのか?」
「そうだが?それがどうした?」
「ならちょっと待ってろや。」
おっさんはカウンターの奥へと消えていった。
あとはアリアの武器もそろそろ新調してやるべきか。
そういやエルフから奪っ…もらった杖があったな。
アリアにはそれを渡そう。
あとはテンコとサラにも武器を与えなきゃだが、何がいいだろう?
「テンコは何か使いたい武器はあるか?」
「いらない。魔法、ある。」
精霊は魔法が使えるのか?
じゃあ杖か?
「なら杖でいいのか?」
「武器、意味ない。いらない。」
どういうことだ?
「…精霊はステータスなどの概念がないので、武器を持たせてもなんの効力も発しません。だから持たせても意味がないということです。防具だけは攻撃から身を護るのにあってもいいとは思います。」
そういうもんなのか。
精霊については全くわかんねぇからな。
「じゃあ、サラは何が使いたいとかあるか?」
「槍がいいのです。魔物に近づくのは怖いのです。」
ずいぶん正直にいうな。
まぁ怖くても戦うつもりではあるみたいだからいいけど。
「いいんじゃねぇか?その嬢ちゃんは鱗族だろ?なら槍とか銛とかがあうんじゃねぇか?」
おっさんが木箱を持って戻ってきた。
「そうなのか?」
「鱗族っていやぁ銛使いじゃねぇか。つっても今の鱗族は腑抜けてやがるから、武器を使ってるやつなんかほとんどいやしねぇがな。」
おっさんは昔の鱗族を知ってるのか?
でもアリアの話の感じだとけっこう昔だと思ったが、そうでもないのか?
「鱗族に会ったことあんのか?」
「こういう仕事をしてりゃあなくはねぇが、俺がいってる鱗族ってのは物語になっている過去の英雄の話だ。」
なるほど。
まぁよっぽど強かったらしいし、英雄の1人や2人生まれててもおかしくはねぇか。
「じゃあこいつが扱えそうなサイズで良さげな槍を1本くれ。」
「あいよ。だが、まずはこの短剣を見てくれや。」
おっさんは持ってきた木箱をカウンターの上で開けた。
中にはいかにも高そうな短剣が2本入っている。
おっさんが鞘から抜くと刀身が黒かった。
柄が赤と青の1本ずつある。
「これは本当は非売品なんだが、坊主になら金貨10枚で譲ってやる。」
凄い短剣なのかもしれねぇが、なんの説明もなく金貨10枚とか高くねぇか?
「どんな短剣なんだ?」
「恥ずかしながら、よくわからねぇんだ。俺の鑑定じゃ使われてる素材もわからねぇ。持ったときにこれは凄いものだとすぐにわかったが、加護が付いてるわけでもねぇ。だから本当によくわからねぇんだ。」
「そんなもん俺に売るなよ。」
「いやよぉ、坊主ならなんか使いこなせそうと思ってよ。これは売られた中古品なんだが、使用した感じは全くなかった。売ってきたやついわくこれは2本で一対だそうだ。その場で俺にはわからないほど凄いもんだと思ってよぉ、金貨10枚で買ったはいいが、結局いまだに何もわからねぇんだよ。」
ようは厄介払いじゃねぇのか?
まぁとりあえず見せてもらうか。
「これは触ってみてもいいか?」
「かまわねぇが、切れ味が鋭いから気をつけろよ。」
おっさんの了承を得て、おっさんが持ってるのとは別の柄が赤い短剣を鞘から抜く。
あぁ、確かに間違いなく良いものだろう。
素人の俺に良いものと悪いものなんて普通は区別つかねぇが、それでも良いものだと思わせる不思議な短剣だ。
というか短剣にしてはちょっとデケェな。
さて、じゃあ鑑定してみるか。
双剣…二本一対の剣。
一段階でこれしかわからねぇのか。
んじゃどんどん強めていくか。
魔法剣…中に魔法陣が埋め込まれてあり、MPを込めることにより魔法が発動する剣。
熱の魔法剣…中に魔法陣が埋め込まれてあり、MPを込めることにより熱の魔法が発動する。
そろそろ頭が痛いが、素材が全くわからねぇ。
限界まで試すか。
劣化防止コーティング…血や空気に触れないコーティングがされているため、自然に劣化することがなくなる。
特殊コーティング…魔法やスキルを妨害するコーティングがされてあり、外からの魔法やスキルによる干渉を受けづらくなる。
次が限界だろう。
黒龍の双剣…黒龍を素材として作られた二本…。
あっ、やりすぎた。
視界が暗くなり、体の力が抜けた。
危ないと思って即座に鑑定を解除したから脳が破裂なんてことはなかったが、どうやら倒れそうになったところをセリナに支えられてるようだ。
セリナは俺を抱えながら、短剣を持ってる俺の手を片手で押さえていた。
間違って切れないようにってとこまで配慮して支えるとか凄えな。
鼻に違和感があり、手で拭うと鼻血が出ていた。
うん、これは気をつけねぇとやべぇな。
「おい!坊主!?無言で観察してると思ったらいきなり倒れてどうした!?この短剣が呪われてるとかか!?」
「いや、これは俺の自業自得だ。気にしないでくれ。アリア。回復魔法を頼む。」
『ハイヒーリング』
疑問に思いながらもアリアは回復魔法をかけてくれた。
痛みは既にないが念のためだ。
俺は短剣を鞘に戻して木箱に入れた。
「この双剣を買おう。」
金貨10枚をおっさんに渡した。
「勧めといてなんだが、いいのか?いきなり倒れるとか、この剣が呪われてるとかかもしれねぇぞ?」
「いや、倒れた理由はいえないが、自分でわかってるから大丈夫だ。この短剣は間違いなくいい短剣だから売ってくれ。」
おっさんには悪いが、これは金貨10枚なんてもんじゃねぇと思う。だが、正規の値段をつけられたらたぶん買えねぇ。
騙すようで悪いが、買わせてもらう。
「そこまでいうならいいんだけどよ。」
おっさんは木箱に短剣を戻して、木箱を俺に渡してきた。
双剣の入った木箱をアイテムボックスにしまう。
これでもう俺のものだ。
おっさんには今度良さげな素材が手に入ったら譲るとしよう。
「あと槍だったな。」
おっさんはまたカウンターの奥に行って、すぐに槍を持って出てきた。
「柄が魔鉄で刀身が鋼だ。中古だから銀貨80枚だ。今あるのではこれが1番いいが、どうする?」
まぁサラにとっては最初の武器だ。そこまでいいのにする必要はないだろう。
「それをくれ。釣りはいらねぇ。」
俺は金貨を1枚カウンターに置いて、槍をおっさんから受け取った。
これで少しは罪悪感が和らいだ。
「毎度!ずいぶん気前がいいじゃねぇか。あと、注文されてたシュリケンとクナイだ。」
シュリケンとクナイも箱に入っていた。
切れ味が鋭いからバラで渡されても困るしな。
シュリケンとクナイの金は既に払っているから、槍と一緒にアイテムボックスにしまった。
「じゃあ俺らはこれで帰るわ。いろいろあんがと。」
「こっちこそ、贔屓にしてくれてありがとよ。」
用も済んだし、さっさとアリアたちを外に出す。
俺以外の全員が外に出たのを確認して、おっさんに向き直った。
「そうそう。さっきの双剣の素材は黒龍らしいぞ。安く売ってくれてありがとな。感謝する。じゃ!」
これで少し残ってた罪悪感がなくなった。
「な!?」
おっさんは驚いて固まった。
もし、俺の勘違いで黒龍の素材ってのがたいしたものじゃなかったら損をするとこだったけど、おっさんのこの反応を見るに買って正解だろ。
固まったおっさんを尻目に俺は店を出た。
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