第80話



第三王女との食事を終えた後、簡易式の領主認定とかいうのをした。

特に書類にサインとかではなく、第三王女が騎士を1人呼び、その前で俺を領主と認めると宣言しただけだから必要性がわからなかったが、俺が逃げないように証人を作ったとかかもな。


全てが終わって別れるときに連絡用として以心伝心の加護のついた指輪を渡された。


右手の人差し指と中指は歩からもらった指輪をしてるから、薬指にはめた。


以心伝心の加護で第三王女と話すテストをしたが、問題なさそうだ。


その後、第三王女と別れてすぐに宿を取り、夜の魔物狩りのために昼寝をすることにした。





疲れてないからあまり寝れないかと思ったが、目が覚めたときには既に外は暗かった。


俺以外は全員起きてるみたいだな。


「これから危険といわれてる森に入るが、ちゃんと寝れたか?」


「「「「はい。」」」」


「今回はアオイの力も借りるかもしれないが、ちゃんと休めたか?」


「妾は肉体がないから睡眠は取らんぞ?疲労もないしのぅ。だから心配は無用じゃ。」


ずいぶん便利じゃねぇか。まぁそれを便利と思うかは人それぞれだろうから余計なことはいわないが。

なんせ人間の三大欲の全てが満たされないのだからな。いや、ある意味満たされてるのか?まぁいい。


「今回はあまり奥まで行くつもりはないが、ゴブリンキングだと思われる魔物と出会う可能性がある。俺がレベル1の時に会って以来だから今の俺たちとの力量差がわからないが、当時の俺からいわせれば化物級の強さだった。あいつは凄い威力で岩を投げてくるから、直撃したら即死の危険性がある。だから常に注意は怠るなよ。」


「「「「「はい。」」」」」


全員準備を終わらせて、夜の森へと向かった。





この世界の町や村の外は月明かりしか光源がないから、月明かりがあまり届かない森の中は薄暗い。


魔法で明るくすることも出来るだろうがMPがもったいないからな。


「リキ様。魔物が来るよ。」


セリナが魔物の接近を知らせてきた。


まだ森に入って100メートル程度しか進んでないのにもう魔物のお出ましかよ。さすが夜ってところか?


こういう時はセリナが役に立つな。

俺は視界に入らないと危険予測もできないからな。


『マジックシェア』


『マジックドレイン』


『ステアラ』


アリアの魔法が全員にかかった。


「セリナは戦闘に参加せずに周りに意識を向けて危険があれば教えろ。カレンは今回はアオイの刀を使え。アオイは危険があればカレンを護れ。アリアは攻撃よりも支援、回復を優先。イーラは…好きにしろ。魔法を使う敵にだけ気をつけろ。」


「「「「「はい。」」」」」


既に全員装備はしているから、魔物が近づいてくるのを戦闘態勢で待ち構える。


現れたのは俺がこの世界で最初に戦ったイビルホーンだ。


前はもっと速くて強そうな気がしていたが、俺のレベルが上がったからかなんの脅威も感じない。


周りを20近いイビルホーンに囲まれてるが、負けるイメージが浮かばない程の力量差ができてるみたいだ。


ずっと自分の弱さを見せつけられてばかりだったが、イビルホーンのおかげでちゃんと成長出来てることを実感できた。


それだけでもここに来た意味があるってもんだな。


そんなことを考えているうちにイーラが5体のイビルホーンを大鎌でバラバラにしていた。


イーラは本当に楽しそうに戦うよな。


イーラを脅威に感じたのか、イビルホーンはイーラではなく俺たちに一斉に飛びかかろうと脚に力を入れた。


俺はイーラと反対側に走ってアリアたちから少し距離を取った。


『ダズルアトラクト』


イビルホーンの標的が俺に変わり、15体のイビルホーンが俺に向かって一斉に飛びかかってきた。


前はこれで死を感じてた気がするが、今は冷静に対処できている。


俺の装備はガントレットだから1体ずつしか倒せないが、避けては殴るを繰り返して、15体のイビルホーンをわりとアッサリ倒してしまった。


手応えがないが、よくよく考えたらレベル1の時ですら倒せてはいたからな。

まだ森の入り口だし油断するべきではないだろう。


「とりあえずは川のとこまで行くぞ。」


「「「「「はい。」」」」」


ダズルアトラクトを解除して進む。


奥に行けば行くほど暗くなっていくな。


さすがに魔法で周りを照らさないとマズいかと思っていたら、先が少し明るいようだ。


近づくと川の辺りで光点が浮遊している。蛍か?この世界にも蛍なんているのか?いや、いるとしたら魔物か。せっかくの光だが魔物なら倒さなきゃか?

そういやテイムするって手もあるんじゃねえか?でも蛍って近くで見ると見た目がGだから触りたくねぇな。イーラに捕食させるか?


「アリア。これも魔物か?」


「…いえ、初めて見ましたが、たぶん精霊の類だと思います。野生なのに精霊使いでもないわたしに見えるほどなので、それだけ強い精霊の可能性があります。近寄らない方がいいかもしれません。」


見えるっていってもただの光点だぞ?

これで大精霊とでもいうのか?だとしたらせっかくのファンタジーなのにちょっとガッカリだよ。


でもアリアが近寄らない方がいいっていうなら面倒だが回り道をするしかない。

川下の方は光が少ないっぽいからそっちから回るかと思ったら、川下の光点が1つ消えた。

精霊の国にでも帰ったのかなんて考えてたらまた1つ消えた。

1つ1つとどんどん消えていく。


なんか違和感があるな。

危険予測は反応しないが、何かが近づいてきてる。


「え!?デッドバット!?」


夜目のきくセリナには既に見えてるようで驚いている。


「デッドバットってなんだ?」


「…精霊の天敵でもあり、あれにやられると魂まで食べられると聞きます。ですが、この辺りに生息するという話は聞いたことがなかったのですが…。」


近づいてきたデッドバットの姿が見えたが、コウモリみたいだ。

あらためて見ても脅威なんて感じないが、そんな驚くような魔物なのか?


「そんな強そうには見えないが?」


「…確かに単体では弱いですが、旧名サイレントバットといわれ、獣人にすら気づかれずに近づくといわれています。それにデッドバットに噛みつかれると即死するという噂があるので気をつけてください。」


そりゃあ確かに脅威だな。

弱いせいか俺の視界に入っても危険予測に反応ないし、かなり危険な魔物なんじゃねぇか?


イーラは恐怖がないのか真っ先に飛び出した。


大鎌を振り回すが避けられている。

意外とすばしっこいのか?

しばらく大鎌を振り回してたイーラが諦めたのか、大鎌を引っ込めて両手を広げた。


何をしてんのかと思ったら、精霊の光に反射して両手から細い糸が出てるのが見え、糸が電気をまとったように光った。


今のは魔法か?糸が電気を纏った感じだったし、使ったのは『中級魔法:電』っぽいな。


糸もイーラの体の一部だから中級魔法が使えるのか。なんかズルいな。


今までは暗くてよく見えてなかったけど、糸が光ったおかげで遠くにいたデッドバットまで見えたが、30体以上いるんじゃねぇか?超広範囲の魔物をそんな簡単に捕まえるとか凄えとしかいえねぇ。


「なんですぐに吸収しないでわざわざ中級魔法を使ったんだ?」


「だって抵抗してる魔物は触れただけじゃ吸収できないもん。直接体内に入れちゃえばこのくらいの魔物なら一瞬だけどね!」


今まで魔物を切り殺してから吸収してたのは趣味とかじゃなくて理由があったんだな。

まぁ触れただけで即吸収なんてできたらさすがに化物すぎるわな。

今でも十分化物ではあるが…。


デッドバットがすぐそこの精霊まで食べてくれたおかげでそんな遠回りせずに川を渡れるな。


「…リキ様!」


歩き出そうとしたところでアリアに呼び止められた。


「どうした?」


振り向こうとしたさいに足に何かが触れ、驚いて足元を見た。


「…避けてください!」


『上級魔法:電』


アリアが魔法、イーラが鞭、セリナが短剣を投擲して、一斉に俺の足元に攻撃してきた。


俺は咄嗟に、俺の足に顔面を擦りつけてた白いキツネのような生き物を抱えて飛び退いた。


俺の観察眼は反応してなかったが、まだデッドバットが生き残っていたのか?


「…触れる!?」


珍しくアリアが驚いた顔をしていた。


「リキ様!そいつから早く離れて!」


「なんでだ?こいつからは危険を感じないぞ?これも魔物なのか?」


アニメとかに出てきそうなデフォルメされた白い狐で尻尾が4つある。俺がいうと気持ち悪がられるかもしれないが、けっこう可愛い。

これは魔物なら使い魔にしたいな。


『テイム』


抱きかかえているから触れているのに反応がない。

拒否されたというよりそもそも発動されてないようだ。なんでだ?


「…それはたぶん精霊です。野生で姿がある精霊は危険といわれています。見かけたら逃げるか即倒すというのがこの世界での常識とされていました。ですが、それを使い魔にしようとするなんてさすがリキ様です。」


あれ?アリアに嫌味をいわれたか?


精霊は魔物とは別なのか。


SPで精霊を仲間にするようなスキルがないか探してみるが見つからない。

前に一度ちゃんと見たときにもなかったし、精霊は仲間に出来ないのかもな。


「形のある精霊は城にいた頃に見たことあるけど、実体化してる精霊にゃんて初めて見たよ。」


「…本の記述には精霊使いの指示で実体化をするというのはあるようですが、野生で実体を持つ精霊という記述はどの本にもありませんでした。」


なんだ?レアなのか?


鑑定でこの精霊を見てみた。


大精霊…自然界に存在する実体を持つほどの力の塊。


マジか!?

まぁこれが大精霊ならさっきの光点よりは納得はできなくはないけど、大精霊はもうちょい威厳のありそうなやつであってほしかったな。

こいつじゃ可愛らしすぎる。まんまペット向きだ。


ステータスや名前も見てみようと鑑定の力を強めるが、何も見えなかった。


ノイズがかかるとかではなく、何もなかった。こんなの初めてだ。


こいつはさっきから鼻先をグリグリと俺の胸に擦りつけてくるんだが、何がしたいんだ?


力強く抱きしめてるわけではないから離れたいなら簡単に離れられるし、攻撃するつもりなら俺の観察眼が反応するだろう。


まぁ癒されるからいいか。


いざという時は殺すしかないと思うが、攻撃してくる気配がないからとりあえずこのままにしている。


使い魔契約や奴隷契約を使うが反応しない。


残念だが仲間に出来ないなら連れてくのは出来ないな。油断したところで攻撃されたらどうにもならねぇし。


「今の俺じゃあ仲間に出来ないみたいだから、置いてくしかねぇな。」


ちょっと名残惜しいがキツネを地面に下ろした。

だが、キツネは俺の袖を噛んで離そうとしない。


「なまえ、つけて。」


「「喋った!?」」


アリアとセリナが驚いた。


イーラとカレンはさっきからずっと戦闘態勢だ。

そんな危険な存在なのか?


いや、前も周りが危険といってるのを無視して痛い目にあったことがあったな。


しかも今は森の中だっていうのに気が緩み過ぎていた。


気をつけなければまた死ぬかもしれねぇ。


キツネを仲間にするのはあきらめるが、まぁ名前くらいはつけてやるか。


「尻尾が4本だから『テンコ』なんてどうだ?」


「てんこ…。」


あれ?気に入らなかったか?

まぁもう俺には関係ないか。


「よし、時間を食っちまったが先に進むぞ。」


「その精霊は倒さないの?」


イーラが警戒しながら確認を取ってきた。


大丈夫だろといおうとしたらキツネが急に光りだした。


俺は咄嗟に離れて戦闘態勢を取った。


光が収まると、そこには全裸の幼女がいた。

尻尾と耳があるから獣人か?というかたぶんさっきのキツネだよな?

獣人ってもしかして子どものときは獣なのか?

あれ?でも鑑定したときは大精霊ってなってたし…どういうことだ?


俺が疑問で頭がいっぱいになっている間に幼女がトテトテと俺の元まで走ってきて抱きついてきた。


観察眼が反応しなかったからといってホールドされるとは油断した。


力尽くで引き剥がそうかとしたときに幼女が発した言葉を聞いて、力が抜けた。


「名前くれた。仲間!」






…は?

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