第79話
こいつは何を不思議がってるんだ?
…あぁ、食前の挨拶のことか。
第三王女が不思議に思うってことはこの世界では食前の挨拶なんてないのか?
まぁ俺もなんとなくいってるだけで食材やらなんやらに感謝を込めてるわけではないから、食べ歩きの時とかはいってないけどな。
第三王女は最初は食前の挨拶にたいして少し驚いていたのだろうが、今は俺らの食事風景に驚いているようだ。
いや、驚いているというか少し引いているな。
イーラにはここに来る道中に収納するよう伝えてあるからか、すごい勢いで食べている。
それに負けじとアリアとカレンがガッツク。
セリナは最初はいつも通り綺麗に食べていたが、たぶん好物だったと思われるものを手をつける前に完食されてから、上品さがなくなった。
俺は最初に美味そうなトマト系?のパスタとなんかの肉の唐揚げを取ってあるから争奪戦には参加してないし、さすがに俺のものを奪うやつはいない。
「これでメニューにあるもの全部か?」
「いえ、出来上がる時間が違うため、まだ出てきていないものもあります。あと、デザートは最後に出てくると思います。」
「そうか。じゃあ、あと追加でこの2つとあれとあれとあれを頼んでくれ。何度も頼むのは面倒だから材料がある限りで頼んでくれ。」
イーラの収納がどの程度出来るのかはわからないが、仮に収納の限界がきても、イーラならいくらでも食べれるだろう。
第三王女は苦笑いを浮かべながらベルを鳴らし、スタッフを呼んで追加注文をした。
スタッフはこの光景を見ても表情を変えなかった。さすがだな。
ぶっちゃけ俺でもちょっと引いてるくらいなのに。
それからも追加注文しまくったわりにはあっという間に食べ終わり、今はデザートを食べている。
デザートくらいは落ち着いて食べたいから、争奪戦にならないように全種類を人数分追加注文しておいた。
「皆さんよくお食べになるのですね。特にイーラさんの食べる量が凄かったです。それなのにその細さは女性として羨ましい限りです。いったい食べた物はどこに入っているのでしょうね。」
これは疑ってるわけではなく純粋な疑問のようだ。
下手に答えると嘘がバレるから答えるのはやめておこう。
「さあな。そんなことよりさっきの話に戻すが、考えれば考えるほどそもそもの疑問が浮かんでくる。」
「なんでしょうか?」
「どうして俺なんだ?他にも領主に向いているやつや俺より強いやつなんていくらでもいるだろ?むしろ俺はそういうのには向いていないと思うぞ。」
俺は第三王女の前でたいしたことはしていない。それどころか、ロクでもないことをしたりしてるのになんでそれで俺を領主に誘うんだ?
「一言でいいますと、リキ様は私が幼い頃より夢に見ていた勇者様だからです。」
「は?」
「だから私はあなたの側にいたいです。あわよくば貴方に護っていただきたい。」
何いってんだこいつは。
識別を使うと『本音』と出るからなおさらタチが悪い。
「何からお前を護ってほしいのか知らねぇが、人間を自身の復讐のために殺す勇者がどこにいんだよ?」
勇者ってのはヒーローのことだろ?
子どもの頃に憧れたヒーローが目の前で復讐のために一般人を殺してたら泣くわ。
「もちろん大災害などの危機からです。それにもしエルフのことをいっているのであれば、確かにやり過ぎではあると思ってしまいましたが、この国では罪ではありません。だからいいのです。」
なんだそれ?恋は盲目ってやつか?いや、恋じゃねぇな。
頭がおかしいやつの考えなんて理解できるわけねぇか。
「悪いが大災害がどんなのかは知らねぇけど、お前を護ってやれるほどの力は俺にはねぇぞ。」
「護っていただきたいというのは私の願望なだけであって、叶わないのは仕方がないとわかっています。ですがせめて側にいさせてほしいのです。奴隷ではなく1人の女として。」
なにこれ?告られてんの?
たいして知り合ってもいないのに王族からの告白とか怖いんだけど。
これはスルーしよう。
「理由はそれだけか?」
「1番の理由は貴方の側にいたいですが、他にも些細な理由はあります。」
「なんだ?」
「私は第三王女なので、王位継承権はあってないようなものです。それでも城にいれば不自由のない暮らしは出来ます。ですが、その場合は政略結婚などの道具として使われるでしょう。今回はあのいやらしい偽勇者との結婚という話も出ています。それが嫌だというのも1つの理由ではあります。」
偽勇者って、あいつはちゃんとジョブは勇者だから偽ではないと思うが…。
「でもそれは領地を得た理由であって、リキ様をお誘いする理由ではありません。ただ、あの勇者ではこの国は滅ぶと思うので、自分の身は自分で護るためにリキ様をお誘いしているという理由も少しあります。」
だから護れるほどの力なんてねぇっつーの。
「それに私の勘違いでなければ、私はリキ様と同じ考えを持っています。そのためには領地は必要不可欠ではないでしょうか?」
…。
「その考えとは?」
「今この場でいってリキ様に嫌われたくはないので、もしこれでわからないのであれば、あとで2人きりの時に確認をお願いします。」
「いや、いい。どうせお前の勘違いだ。いろいろ俺のことを調べているうちに自分の考えと一致することが多かったからそう思っただけだろう。」
「はい。そうかもしれません。」
第三王女。正直過ぎるバカだと思っていたが、認識をあらためる必要があるかもな。
俺の中での答えは既に決まったが、なんとなくアリアを見ると、珍しく微笑んでいた。
「わかった。今回の話には乗ってやる。だが、夜の魔物に今の俺たちじゃ全く歯が立たなかった場合はこの話はなかったことにしたい。それでもいいなら領主になってやる。」
「ありがとうございます。それでは村の建設は始めてしまいます。きっとリキ様でしたら問題ないと思いますので。」
この信頼はどっからきてるのかはわからねぇが、今夜あたりにちょっと魔物狩りをしてみるか。
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