第44話
王女のせいで遅くなってしまったが、いつもの武器防具屋にカレンの防具を買いに来た。
武器については以前買った刀を使わせればいいだろう。
「おう、坊主。さすがにまだガントレットはできてねぇぞ。」
「どうも。今日は新しい奴隷が仲間になったから、防具を買いに来た。」
「ずいぶん儲けてやがんだな。だったら新品を買ってってくれや。」
確かに金貨10枚も手に入った依頼のおかげでそこそこいい生活はできてるが、あれ以来は出費ばかりだ。
「いいのがあれば新品だって買うさ。」
いつも通りてきとうに探すが、加護付きでカレンに合うサイズが1つもねぇじゃん。
でも俺と違ってカレンは防具がないとさすがに危ないだろうからな。
「こいつに合うサイズで一番いい防具はどれだ?」
カレンの頭を掴んでおっさんに確認を取る。
おっさんはカウンターから出てきて防具が置いてある場所に歩いていく。
「嬢ちゃんに合うサイズだと防御力だけを考えるならこの魔鉄のチェインメイルが…もしかして嬢ちゃんは鬼人族か?」
おっさんがチェインメイルをカレンに合わせながら顔を見た瞬間に聞いてきた。
なんでわかった?
今のカレンは人間にしか見えない。
ツノも生えてないし、黒髪ショートボブに青系ローブを着た、ただのガキだ。
「そうだが、なんでわかった?」
「目がちげぇ。つっても鬼人族は見た目完全に人族のやつもいりゃあ、鬼人族のような目をした人族もいるかもしれねぇから絶対じゃねぇんだけどよぉ。」
だから確認を取ったのか。
でも今のカレンは目も普通に黒いぞ?
ツノが生えてたときは目が赤かったから、それを見たならおっさんがいいたいこともわかるが、今は普通だしな。
そう思いながらカレンの目をよく見ると、黒目に線が入っていて、勾玉が2つ合わさったようになっていた。
光の当たり方によっては太極図に見えなくもないかもしれない。
ってかおっさんはよくパッと見で気づけたな。
「鬼人族だとチェインメイルは売れねぇとかそんな馬鹿げた法律があったりすんのか?」
「そんなもんはねぇよ。ただ、鬼族もしくは鬼人族にピッタリの服があるんだよ。めちゃくちゃ値段がたけぇからよっぽどの金持ちかモノ好きしか買えねぇんだが、坊主なら買えるかもしれねぇな。」
いや、仲間入りしたばかりの奴隷にそんなに金を使いたくねぇんだが、まぁおっさんの勧めるものならちょっと興味があるな。
「とりあえず見てみたい。」
「ちょっと待ってろ!」
そういっておっさんはカウンターの奥に入っていった。
しばらくして持ってきたのは何かの生地と帯だ。
いや、着物か?
この世界にも着物があるんだな。
「これは
「まこういと?」
「魔法が付与されてる鋼の糸だ。ようは鋼以上の強度がある糸だと思ってくれりゃあいい。それを織り込んで作ってあるからまず破けたり切られたりするこたぁねぇ。加護がなくても魔法にも強い。」
すげぇ良いものってことはわかった。
でも着物の着付けなんてわかんねぇから着たり脱いだりするのが面倒そうだな。
「ちなみにいくらなんだ?」
「金貨20枚だ!」
「そんなに持ってねぇよ!」
持っててもそんなバカ高いのは買わねぇよ!
「坊主でも買えねぇか。魔鋼糸は魔法繊維と違って加工が難しいからな。作れる人も限られて、値段も高くなっちまうんだわ。でも、品質は保証する。」
「品質を保証してもらっても、ない金は払えねぇわ。」
「仕方ねぇな。じゃあちょっと待ってろ。」
おっさんは着物を持ってカウンターの奥に行き、そのまま戻ってきた。
いや、着物の種類が変わってるみたいだ。
「こいつでどうだ?今朝買い取ったばかりの魔法繊維で作られた着物だ。加護はついてねぇが、そこそこの防御力はある。嬢ちゃんのワンピースと同じ素材だが、使用量がちげぇから加護なしで金貨1枚だ。」
まぁそれなら許容範囲ではあるか。
ここで渋ってダンジョンで死なれたら、夢見が悪いからな。
ってかなぜそこまで着物にこだわる?
確かに字面的には鬼に着物が似合いそうなのはわかるが、カレンの見た目はただの子どもだ。
まぁ日本人っぽいから似合わなくはないだろうが、カレンには虎柄のパンツで十分だろ。
さすがにそれはかわいそうか。
「着付けは教えてくれるのか?」
「あぁ、かまわねぇよ。」
「ならそれをくれ。カレンは着方を覚えておけよ。一応アリアも着付けは覚えておけ。」
たぶんカレンは一度じゃ覚えられねぇだろうからな。
「「はい。」」
カレンとアリアはおっさんに連れられて更衣室のようなところに入っていった。
そろそろセリナが宿に戻っているだろうから、戻ってカレンと顔合わせだな。
あとは王女の依頼の前にカレンのレベルを上げなくちゃならねぇから、そのへんの話し合いもしとくか。
とりあえずの予定はそんなとこだな。
しばらくして、着物を着たカレンが走ってきた。
「にいちゃん!似合うか?」
「おぉ、意外と似合ってんじゃん。走ることもできるみたいだし、悪くねぇな。」
どうやら着物には足袋と下駄もセットで付いてくるようだ。
無駄に凝ってるな。
まぁ下駄も装備だからか走りづらそうではないみたいだし、靴を買う必要もなくなってちょうどいいか。
カレンの頭を撫でていると、おっさんが気まずそうな顔で俺を見ていた。
「なんだ?」
「いやよ、人の趣味をどうこういいたかぁねぇが、街中で裸ローブを奴隷に強要させるのはどうかと思うぞ…。」
あ、買った服に着替えさせるのを忘れてた。
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