第45話



おっさんの誤解を解いてから、宿に戻ることにした。


けっきょく着物だからいいかということで、カレンに下着を着せてはいないんだけどな。


だってまた脱がせて着せるのは面倒だし、宿に戻ってシャワーを浴びたときでいいだろう。




宿に戻るとセリナとイーラが戻っていた。


なにやら楽しそうに話している。

仲がいいのはいいことだ。


「ただいま」


「あっ、リキ様おかえり〜。」


「おかえりにゃ…誰?その子?」


カレンを見つけたセリナが疑問をぶつけてきた。


カレンの背中を押して前に出す。


「自己紹介しろ。」


「ジコショウカイ?」


「名前と種族とよろしく的なことをいえばいい。」


「あぁ、えっと、カレン・ニノミヤです。種族は鬼人族です。これからよろしくお願いしますです。」


「よろしく〜。変異スライムのイーラだよ。」


「獣人族のセリナアイルです。よろしくね。」


「変異スライム?」


イーラに疑問を持ったらしく、カレンは首を傾げながら俺を見てきた。

まぁ今のイーラは人間にしか見えないから仕方がないが。


「イーラ。元の姿に戻れ。」


「…は〜い。」


渋々といった感じで、葉の上の水滴のような形をした半透明な青のスライムに戻った。


「え?え?え!?」


「こいつは元はスライムだ。進化して変身できるようになったんだ。」


「魔物は敵じゃないのか?」


カレンの雰囲気が変わった。

魔物に何か恨みでもあんのか?


「こいつは俺に従う魔物だから、敵じゃない。正確にはもう魔物じゃなくて魔族だけどな。」


「魔族なのに人を襲わないのか?」


「俺の指示がない限りはな。カレンは魔物が嫌いなのか?」


「魔物のせいで母ちゃんは殺された。村もなくなった。」


ん?母親は父親に殺されたっていってなかったか?

まぁいいか。


「イーラは仲間だ。馬鹿だが使える。魔物だからって理由で敵意を向けたら殴るからな。」


「え?あ、はい。」


俺が怒ってると勘違いしたのか、カレンがあらたまった。


イーラが歩の姿になって近づいてきた。


「馬鹿じゃないもん!」


「はいはい。」


てきとうに頭を撫でてあしらう。

これだけで機嫌が直るのだから扱いが楽だ。


そういや俺とアリアはまだ自己紹介してなかったな。


「自己紹介が遅れた。俺は神野力。力が名前だ。こいつがアリアだ。俺と同じ人族だ。」


「リキ様の《第一》奴隷のアリアローゼです。よろしくお願いします。」


「イーラ…セリナアイル…リキ…アリアローゼ…覚えたぞ!」


やっぱりそこそこ頭がいいのかもな。

言動は馬鹿っぽいが。


それじゃあまずは今後の予定について話し合うか。


俺がテーブルに着くと、隣にアリア、前にイーラ、斜め前にセリナが座った。

出遅れたカレンは立っている。


そういやここは4人部屋だからな。


「イーラはスライム形態で参加しろ。発言は俺が代弁してやるから。」


「え?…は〜い。」


スライムとなってテーブルを這って俺の方に進んできた。

テーブルの端まできたら俺の胸元に飛びつき、頭の上まで登ってきた。

べつにテーブルの上でいいんじゃねぇか?一言も俺の元に来いなんていってねぇんだけど…まぁいい。


「そしたらカレンは空いた席に…。」


俺がカレンに座るように指示をしようとしたら、セリナが俺の前に席を移動した。

今、席を移る必要があったか?

こいつらなりの序列があるのかもしれねぇな。


「そしたらカレンは空いた席に座れ。」


「はい。」


これでやっと話し合いができるな。



「まずは10日後に依頼を受けてダンジョン攻略を手伝うことになった。」


イーラはよくわかってないようだが、セリナはかなり驚いている。


「まぁ俺らはべつに戦わなくてもいいらしいが、けっこう報酬がいいから、ちょっと頑張ろうと思っている。だから、新しく入ったカレンのレベル上げが必要だ。もちろんアリアたちもさらに強くなってもらいたいからな。」


「「「はい。」」」


「レベル上げといったら前回行ったムカデがいたダンジョンを考えていたんだが、アリアはどう思う?」


「…いいと思います。以前のムカデのような例外はそうそうあるものではないと思うので、5人分のレベルを上げるのであれば、あのダンジョンが最適だと思います。」


アリアが同意してくれるなら問題ないだろう。


「今回はアリアのときのようにレベルを上げてからカレンを実戦投入したいと思っている。あと、イーラはこれから戦闘するときは基本はどの形態でいるつもりだ?スライムか?人型か?ムカデか?」


人型かと聞いたときに反応があった。


「じゃあイーラにも人型での戦闘経験を積んでもらわなきゃならねぇから、案外課題が多いな。イーラの武器も買わなきゃならねぇのか。」


イーラが俺の頭から飛び降り、人型になった。


「武器はあるから大丈夫!」


そういって、どこから出したのか柄の長い鎌を握ってポーズをとった。


「そんなでけぇのどこから出した?」


「体内だよ〜。自分でいろいろ作ってみたから、武器は大丈夫!」


武器練成までできるのか?

だとしたらかなり役立つぞ。


「ちょっと貸してみろ。」


「無理だよ〜。体の一部を変化させてるだけだもん。離れたら使えないよ〜。でもでも!イーラが武器になってリキ様が使うことならできるよ!」


吸収したものに変身できるってのは生物に限らずだったんだな。

それにいろんな魔物を合わせることもできるって前にいってたから、いろんなもんを合わせて武器なんかも作れるってわけか。


ちょっと羨ましい能力だな。

さすがに人間やめてスライムになりたいとまでは思わねぇけど。


イーラを武器として使うってのも面白そうだし、今度試してみるか。


「イーラを武器として使うのは今度な。それじゃあ、この前行ったダンジョンの続きから地下9階までは俺とイーラが先頭で魔物狩りをし、セリナは俺とイーラが狩りそこねた魔物を狩る。そしてアリアは俺らの援護をしながらカレンを護れ。んで、地下10階では俺とセリナのポジションを交代する。地下10階の魔物は動きが速いらしいから、セリナの練習にはもってこいだろ。確か魔物が溢れかえってるのは地下10階までだったよな?」


念のためアリアに確認を取る。


「…正確にはわかりません。以前読んだ本には地下10階までは魔物がたくさんいるだろうと書かれていただけで、もしかしたら全ての階で魔物が溢れかえっている可能性もあります。別で得た情報ではいまだに地下30階が攻略できていないため、訪れる冒険者が激減しているとのことでしたので、可能性は高いです。」


あれは本の知識だったわけね。

下に行けば行くほど魔物が強くなるのだろうから、全ての階があの魔物の量だとキツいかもな。

レベルはかなり上がるだろうけどさ。


「とりあえず地下10階までは今の予定だ。地下11階からは魔物の量次第ではカレンに戦わせる。10日後までは暇だからそのまま行けるとこまで行くことにする。逆にいえば、たいして進まずに終わることになる可能性もあるが、お前らの成長に期待してる。」


「「「「はい。」」」」


「じゃあ今日はシャワー浴びたらもう寝ろ。明日はおっちゃんのとこの肉串を食ったらすぐにダンジョンに向かって、この町には数日は帰ってこねぇつもりだ。だから欲しいものがあるなら先にいえよ。」


「「「「はい。」」」」


隣のアリアを見る。


「…抗麻痺丸を補充しておいた方がいいかもしれませんが、私が状態異常にならない限りは治せるので問題ないかと思います。」


セリナに渡してある抗麻痺丸をアリアに渡せば20個くらいはあるから大丈夫だろう。


それにしても見ただけでいいたいことが伝わるのはかなり楽だな。


「それじゃあこれで終わりだ。全員早く寝ろよ。」


「…リキ様。カレンさんのベッドはどうしますか?」


そういえば4人部屋だからな。


「カレンは1人で寝れるか?」


「馬鹿にするな!もう10歳だ。当たり前だろ。」


「そうか。じゃあイーラ。一緒に寝るか?」


「やったー!一緒に寝る〜。」


喜ぶところではないと思うがな。寝るスペースが狭くなるんだし。


まぁイーラはヒンヤリしていて気持ちいいから狭くても問題ない。


アリアとセリナが何かをいいたそうにしている。


主が狭いスペースで寝るのに自分が普通に寝ることを申し訳なく思ってるのか。


「2人は気にせずゆっくり寝ろ。」


「「…はい。」」


あれ?なんか違ったかもしれないが、まぁいいか。


今日はもう寝るとしよう。

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