第12話




ふと目が覚めると、部屋も窓の外も真っ暗だった。


体を起こして腕時計を見ると20時を過ぎていた。


隣のベッドを見るとアリアも寝ているようだ。

暗くてよく見えないが、なんか寝苦しそうだ。


何か忘れてる気がする…。


そのままアリアを見ているとビクビクと痙攣し始めた。


思い出した。このあと叫び出すんだった。


他人事のように思ってしまったが、今日は宿だからあんな絶叫されたらたまったもんじゃない。


咄嗟にベッドからおり、アリアのベッドに入る。


「イヤぁむむむむむむ…」


後ろからアリアを抱き、片手で口を塞ぐ。

なんとかギリギリ間に合ったな。


残りの手で頭を撫でる。

ちゃんと風呂に入ったからか髪がスベスベだ。


さすがに起きたみたいでこちらを振り返る。


「…リキ様?」


なんで俺が同じベッドで寝ているのかがわからなくて不思議がっているみたいだ。


「寝苦しそうだったから怖い夢でも見てるのかと思ってな。俺がいてやるから安心して寝ろ。」


むしろ男が同じベッドにいる方が安心できないか?

まぁ俺はロリコンじゃねぇから安心しろ。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。」


「なんで謝るんだ?」


「…わたしがうるさいから迷惑をかけてます。また叩かれるのは嫌です。ごめんなさい。ごめんなさい…。」


パニックを起こしていることは知ってたのか。


「大丈夫だ。俺はそれくらいじゃ怒らないし、怒っても殴ったりはしねぇよ。だから安心して寝ろ。」


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。」


「大丈夫。大丈夫。もう怖いやつはいないからな。大丈夫だ。」


「うっ…。」


叫んでるときも泣いてたが、あらためて泣き出してしまった。


「大丈夫。大丈夫。」


懐かしいな。

昔は怖い夢を見たとかいって俺の部屋に泣きながらきた妹にこんなことしてたな。


しばらく泣いたと思ったら、疲れたのか寝てしまった。


俺ももう一度寝るかな。

今日は暑くないし、アリアをこのまま抱き枕代わりにして寝ることにした。


よっぽど疲れてたのか、さっきまで寝ていたのにまたすぐに眠りに落ちた。








腕の中でもぞもぞ動く何かに気づいて目が覚めた。


もぞもぞ動いていたのはアリアで、俺のホールドから逃れようとしていたみたいだ。


なんで一緒に寝てるんだ?

…あぁパニックを起こしたアリアを静かにさせて、そのまま寝たんだったな。


「…リキ様。おはようございます。」


俺が起きたことに気づいたようで、挨拶してくる。


「おはよう。」


「…起こしてごめんなさい。トイレに行きたいです。」


だからもぞもぞと俺を起こさないように抜け出そうとしてたのか。

まぁ起きちまったがな。


「べつに起こしてかまわないぞ。ってか悪いな。」


そういってホールドを解除して、俺はベッドから起き上がった。

アリアは急いでトイレに向かった。

よっぽど我慢してたのかもな。悪いことをしたかもしれん。


腕時計を確認すると8時みたいだ。

寝たのが昨日の昼過ぎで、一度20時に起きてまた寝て、8時に起きたのか。


…寝すぎだろ。


でもおかげで体が軽いな。


寝すぎて怠いなんてこともなく、むしろガントレットを装備してるとき並に軽く感じる。


慣れない環境に疲れが溜まってたのかもな。





その後はもう一度シャワーを浴びて準備してチェックアウトした。



せっかく冒険者ギルドの隣にいるのだから、冒険者ギルドでの用事を先に済ますか。


「アリア。アリアの分の冒険者カードを作るぞ。」


「…はい。」


中に入り受付に向かうと、この前のお姉さんがいたので、そこに行く。


「こいつの登録をしたいんだけど。」


「かしこまりました。それではこの水晶に手を乗せてください。」


アリアを持ち上げて手を置かせる。


「この子は奴隷でしょうか?」


「あぁ、俺の奴隷だが?」


「申し訳ありませんが、奴隷は主の所有物という扱いになるため、冒険者登録などは行えません。扱いは使い魔などと同じになります。」


予想外なところでジョブの調教師の達成条件がわかった気がする。いや、今はどうでもいいか。


「そっか。ならいいや。あと、前に説明を受けたときに聞き逃したんだが、チームって何?」


「はい。チームというのは幾つかのパーティーが集まって魔物を倒す際に使うシステムとなります。」


「使う場合と使わない場合でなんか違うの?」


「使わない場合は基本的にトドメを刺したパーティーに経験値が入ります。チームにしていれば、よほど何もしていないとかでない限りは全パーティーに均等に経験値が分けられるようになります。このパーティーというのはパーティー内のメンバーではなく、パーティーそのものを指しています。」


「ということは2人パーティーと4人パーティーでチームを組んだ場合、2人パーティーの方が個人に入る経験値は多いってこと?」


「はい。その通りです。」


他のパーティーと一緒に戦うなんてまずないだろうから、俺には必要なさそうなシステムだったな。


「あと街の外の地図が欲しい。」


「当ギルドで扱っているのはアラフミナ王国内の地図となります。1つ銀貨1枚です。」


銀貨を1枚渡して、地図をもらう。

一度広げてみるが、やけにでかいな。

わりと細かく書いてあって文字などで説明もしてあるが、やっぱり読めない。

あとでアリアに読んでもらうか。

ってか俺自身が読めるようにそろそろ勉強しなきゃだよな。


「あと、魔物の素材ってどこで売ればいい?」


「素材はこちらでお預かりしています。冒険者カードの提示をお願いします。」


アイテムボックスからイビルホーンシリーズを全部出し、冒険者カードと一緒に置く。


「どこが売れるかわからないから売れそうな部分を持ってきたんだけど、どう?」


「イビルホーンの牙とツノとは珍しいですね。ちゃんと買い取れる素材なので大丈夫です。こちらの頭蓋骨は買い取れませんので、こちらで処分いたしますか?」


「処分費用ってかかるの?」


「かかりません。」


「なら処分頼むわ。」


金にならない骨とかあっても困るしな。


「それでは全部で銀貨27枚となります。」


お姉さんが銀貨27枚を置く。


え?珍しいっていっといてそんなもん?

だいぶ命がけだったけど魔物の素材ってその程度なのかよ。

命がけの対価が銀貨27枚とか…。


「ちなみになんだけど、空水晶って売るとしたらいくらになる?」


「1つ銅貨50枚です。」


マジか!?

持ってる空水晶を全部売っても金貨1枚にもならねぇじゃねぇか!


というか薬屋の女はギルドより高く買い取ってくれたんだな。


とりあえず銀貨27枚を受け取り、冒険者ギルドを出る。


冒険者って思ったより稼げないんだな。

俺が金貨を使うと驚かれる理由がなんとなくわかったよ。


あとはアリアの装備を買えばとりあえずの予定は終わりかな。





おっさんのいる武器防具の総合店に入った。


「いらっしゃい。」


「なぁ、あの樽の中の武器や防具は銅貨20枚でいいんだったよな?」


確か前に来たときにそういってたからな。


「いきなりなんだと思ったらぁ坊主じゃねぇか。前にそういっちまったからなぁ、男に二言はねぇ。銅貨20枚で売ったらぁ。」


あらためて言質を取ったので、樽の中の武器や防具を物色する。


安物でも観察眼に反応するやつがちょいちょいあるじゃねぇか。


反応するやつで一式揃えようと思ったが、さすがにそんなに上手くはいかなかった。


ガントレットはなぜか装備者にぴったり合うようにサイズが変わったが、防具はサイズが変わらないみたいだから、アリアにあうサイズがそもそも樽の中になかった。


樽から見つけたのは短剣が2つとロッドが1つ俺だと若干ピッチリだけど着れなくないサイズのジャケットが1つあとはブレスレットと靴だ。

アリアは俺のスニーカーじゃデカすぎてずっと裸足だったからちょうどいい。


試しに靴を履かせると勝手にサイズが変わった。

靴も装備者にぴったり合うようになってるんだな。

なのになんで防具はならないんだ?


仕方がないから防具だけ樽じゃないところから選ぶ。

1着だけ観察眼が反応した。

選ばなくていいからちょうどいいか。


それらを持ってカウンターに持っていく。


「これらの加護を教えて欲しい。」


「坊主はまたうちから加護付きだけを持ってく気か!?…ん?このブレスレットは加護付きじゃねぇな。あとは…。」


加護付きじゃない?

でも観察眼は反応しているぞ?

勘違いなのか?


「この鉄の短剣が風の加護でもう1つの鉛の短剣が血避けの加護だな。ロッドは硬化の加護で皮のジャケットが消臭の加護で靴は魔除けの加護だ。」


風の加護は風をまとうことが出来るが、上手く使えなければただ風を纏ってるだけになるらしい。


血避けは俺のと同じだ。


硬化は装備類が硬くなるから壊れづらくなるらしい。べつに装備者の防御力が上がるわけではないらしい。


消臭は装着者の匂いを消してくれるらしい。


魔除けは魔物が近寄りにくくなるらしいから、冒険者には不人気だとか。ただ、強い魔物には効果がないらしい。


おっさんの説明をまとめるとこんな感じだった。


「樽とはべつに持ってきたこいつは?」


防具にはぶっちゃけ見えないような白いワンピースだ。

防御力が一切期待出来ない見た目だな。


「こいつは魔法繊維でできた服でな、ちょっとやそっとじゃ傷すらつかない。本来ならこの服部分だけしか守れないんだが、被膜の加護により全身が同じ防御力を得る。さらに成長の加護がついているから、常に装備として使ってれば、サイズが装備者に合わせて大きくなるらしい。すまねぇが成長の加護は俺も詳しくはねぇ。本来なら金貨1枚はくだらねぇんだが、そのサイズを着れる冒険者がまずいねぇからよ。今じゃ銀貨70枚だ。」


「銀貨70枚!?今の俺の装備より高えぞ!?」


確かガントレットと短剣と靴で銀貨60枚だった気がする。


「それだけいいものだからよ。これ以上は下げらんねぇぞ。金がねぇなら他のにしな。」


全部で銀貨71枚と銅貨20枚だからギリギリ買えなくはないが、買ったら銀貨8枚と銅貨が30枚くらいしか残らない…

でも今のアリアは元気になったといっても魔物の攻撃一発で死んじゃいそうではあるからな。


「わかった。これら全部くれ。」


銀貨71枚と銅貨20枚をおっさんに渡して、財布の中を数えなおす。

所持金は銀貨8枚と銅貨29枚か…ヤバいな。


でも魔物狩りで稼ぐなら防具は必要だからな。


「あいよ。嬢ちゃん用のベルトもサービスしとくよ。ワンピースにベルトってのも変だから、二の腕につけられるタイプにしてやるよ。」


なんか変わったタイプのベルトをもらった。ゴムではないが若干伸縮する幅広のベルトだ。


俺はその場でジャケットを羽織り、アリアは更衣室でワンピースに着替えに行っている。


短剣2つは安いからつい買っちゃったけど、使わないからアイテムボックスに入れておこう。


戻ってきたアリアから着てた服を受け取りアイテムボックスに入れて、アリアの左の二の腕にベルトを巻く。それにロッドをつけて、肘の裏側に合わせる。これなら普段邪魔にならないな。

ベルトが上手い具合に傷も隠してくれてるし。


右側もなんかないかな?


「なぁ、このベルトみたいなやつ、他にないか?」


「あぁ、嬢ちゃんくらいの二の腕の細さなら、このリストバンドがちょうどいいんじゃねぇか?サービスでやるからつけてみ。」


傷のことを察してくれたみたいで、長めのリストバンドをくれた。

試しに着けさせると若干傷が見えるが、程良く隠せている。ベルトと同じ長さだからそこまで違和感はないな。

まぁワンピースが清楚系の見た目なのにベルトとリストバンドってのもなんかおかしい気もするが、しゃーない。

あとは靴を履かせて、ブレスレットを付けてやる。

これで準備完了だ。


「ありがと。じゃあまた。」


「おうよ。」


おっさんに別れを告げて外に出る。





「アリア。」


「…はい。」


「実は今日は1日休日にしようと思ってたんだが、所持金が心許ないことになってしまったから、魔物狩りに行かなければならなくなった。」


「…はい。」


まぁ買った装備をその場で着けさせた時点で気付いてただろうな。


「俺は地図に書かれた文字が読めないから、アリアが見て、良さげなところを教えてくれ。今日はそこに魔物狩りに行く。」


「……………はい。」


ん?いつもより間が長かったな。

プレッシャー感じてしまったか?


とりあえず地図を開く。


アリアはそれを見ながらブツブツといっている。

アリアは地図も見れるんだな。

けっこう賢い子なのか?


アリアをチラッと見るが、前髪が長くて顔が見えない。

集中し過ぎて俺に見られてることにも気づいてないみたいだ。


「…ここがいいと思います。」


アリアが指を指したところを見ると東門から出てたぶん2時間くらい歩いたところにある何かだ。

今まで使ってたのは北門みたいだ。

印があって文字で説明されてるがわからない。


「これはなんだ?」


「…初心者向けのダンジョンです。近くに村があるので、夜になっても大丈夫です。」


なるほど、そこまで考えてたのか。


「役にたったアリアにプレゼントだ。」


アイテムボックスを手に入れてからぶっちゃけ邪魔だったマジックバックをアリアに渡す。

中身は薬以外をアイテムボックスに移した。


「…ありがとうございます。」


アリアがマジックバックを肩にかけたがちょっと肩紐が長かったようなので、調節してやる。


「アリアはロッドで魔物を殴ったりもしてもらう予定だが、今日はとりあえず後衛で援護しながら見てるだけでいい。ただ、後ろからの敵だけは注意しろ。」


「…はい。」


「マジックバックの中の薬は遠慮なく使え。もったいないとか思って死なれる方が困る。わかったか?」


「…はい。」


一通り確認が済んだところで、ダンジョンに向かうことにした。

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