第11話




小さな薬屋に到着したが、今日は小さな看板はついていないようだ。


ということはあの女はいないのか。

文句がいえねぇな。


でもここまで来たのだから、アリアの古傷に効く薬でもないか聞いてみるか。


「いらっしゃいませ〜。」


女がカウンターのところにいた。

周りを見るが、他には誰もいないようだ。


「なんでいんの?今日は看板ついてなかったぞ?」


「あぁ、おばあちゃんは朝早くに呼び出しがあって出かけてるから、今日は私が店番なんだ。」


ということは今日はちゃんと店員なわけか。


「ってかお前はアリアになんてもんを渡すんだよ!あの炎で死ぬかと思ったぞ!」


女は驚いた顔をしていた。


「本当にあんな幼女に手を出そうとするとは…気持ち悪い。」


女が俺のことを汚いものを見るような目で見てきてイラっときた。


「ちげぇよ!アリアから渡されたあとに手から滑って落ちたんだよ。判断が遅れたら死んでたわ。」


あれはマジでヤバかった。


「あら、それは悪いことをしたのかもしれないわね。悪いとは思ってないけど。」


反省とかはないわけね。

まぁ生きてるからいいけどさ。


「それで今日は何の用?ずいぶんボロボロのようだけど、ポーションでも買いに来たの?」


「いや、ポーションはまだある。古傷に効く薬がないかを聞きたくてさ。」


「古傷って…どの程度かにもよるけど、傷口が自然に塞がっちゃうとポーションや普通の傷薬じゃ治らないからね。一発で治したいなら神薬がいいんじゃない?」


また神薬か。

今回の素材を売ればそのくらいにはなるか?

まぁでも高いのは間違いないから最後の手段だがな。


「神薬は最後の手段として、他に方法があるなら聞きたい。」


「とりあえず程度が見たいから見せて。」


女が俺に手を差し伸べる。


「俺じゃない。アリアだ。」


女がキョトンとしている。


「アリア。ローブの袖を捲れ。」


「…はい。」


見せるなら全身を見せるべきなのだろうが、あれは結構キツイものがあるからな。


女はカウンターから出てきて、アリアの古傷を見たり触ったりしている。


「一応古傷に効く薬を作れなくもないとは思うけど、この傷だと治るのに何年もかかっちゃうかもね。あとは古傷を復活させる魔法があるらしいから、それを使ってからポーションを使うのが手っ取り早いかな。」


「その魔法はダメだ。こいつは全身古傷だらけだから、それが全部開いたら、たぶんショックで死ぬ。」


背中とかよく生きてたなレベルだからな。


「そうなの?じゃあ神薬を試すくらいしかないかな。あとは古傷に効く薬で時間をかけて治すくらいだけど、寿命で死ぬまでに治るかは保証しないけどね。」


「待て、神薬を試す?神薬なら治るんじゃないのか?」


「神薬はなんでも治す神の薬なんていわれてるけど、古傷を治すために使ったって人は聞いたことないからさ。そもそもポーションとか傷薬があるのに古傷を作っちゃう人なんてあんまりいないからさ。」


この世界ではそもそも傷が残らないのか。


傷をあえて残してるやつがいたとしてもそいつはあえて残してるのだから治そうなんて思わないしな。


奴隷は傷が残ろうが、治す術なんてないから我慢するしかないのだろうし。


しょうがないからアリアの頑張り次第ではご褒美として神薬を買ってやるか。

治らなかったらかなりの無駄遣いになるが、そのときはそのときだ。



「なら古傷にかんしては後日どうにかする。あとはこの辺に子ども用の服を売ってるようなところはないか?安いところだと助かる。」


女は露骨に嫌そうな顔をする。


「なぜそれを薬屋で聞くのかしらね。でも確かにあんた凄い格好ね。その子はローブに傷1つないっていうのに。あら?ずいぶん顔色が良くなったのね。」


「あぁ、飯食わして一晩寝かせたら完治した。」


「え?そんなわけないじゃない。昨日の今日で治るような状態じゃなかったはずよ。」


カウンターの中をいきなり漁りだしたと思ったら、大きめの水晶を取り出した。


「この水晶にアリアちゃんの手を乗せてもらえる?」


「何をする気だ?もう余計なことに払う金はないぞ?」


こいつは後で金を請求してくるからな。


「私が興味があるだけだからお金は取らないわ。これでステータスチェックをさせて欲しいの。」


ステータスチェックか。

解説のスキルを使えなかった言葉がここででてくるとは。

俺も知りたかったし、試してみるか。


アリアを持ち上げて、水晶に手を置かせる。


水晶が淡く輝いたと思ったら、中に模様のようなものが浮かんだ。


それを見て女が驚いている。

ステータスチェックって何がわかるんだ?


「な!?…最初に質問なんだけど、その子って昨日はレベルいくつだった?」


「アリアはレベル1だったな。もともと戦闘奴隷って感じでもなかったし。」


「1日で状態が変わるってことはもしかしてレベルでも上がったのかと思ったけど、なんでこんなにレベルが上がってるのよ!?」


レベルまでわかるのか。

スキルとかもわかるのか?


「昨日、やんごとなき事情で魔物と戦うことになってな。アリアは戦ってないんだけど、パーティー組んでるから、レベルが上がったっぽい。」


「戦わずしてこんなにレベルが上がるって…ちょっと待って!今日おばあちゃんが城に呼ばれた理由なんだけど、昨日の日が落ちかけているときに街に戻ってきた商人が、街の外の草原で野宿をしている2人組の馬鹿どもを見たって話があって、その馬鹿どもがどうなろうとどうでもいいけど、そのせいで魔物が大量発生する可能性が高いから、その討伐をする場合は沢山の薬が必要になるためにレベル20以上の調合師は強制招集をかけられたからなの。…何か心当たりない?」


近い近い。なんでこんなに詰め寄ってくんだよ。

興奮しすぎだろ。

心当たりも何もたぶんその馬鹿扱いされてんのは俺らだろ。

でも商人なんて見かけなかったけど、日が落ちる前だと俺は寝てたからか。


「アリア。昨日俺が寝ている間に街に続く道を誰かが通ったか?」


「…馬車が通りました。起こさなくてごめんなさい。」


「いや、むしろそんなことで起こされなくて助かったよ。気にするな。」


女は唖然としている。


「どうやらその馬鹿どもは俺らみたいだ。」


「今の話を聞いてればわかるわよ!」


今度は怒りだした。

今日は表情がコロコロ変わるな。


「なんだ?あそこは野宿禁止だったのか?だとしたら秘密にしといてほしい。」


面倒ごとは嫌いだからな。


「あんたは本当に何も知らないのね。夜は街の外に出るなといったわよね?」


そこまでいわれた記憶はないが…。


「夜の森は危ないと聞いたな。夜の方が強い魔物が出るからとかなんとか。」


「夜危ないってのは森に限らないのよ。確かに森にはとても強い魔物がいるけれど、草原だって夜は危険なの。原因は山に住む強い魔物が放つ瘴気のせいでこの辺一帯の魔物が活性化しているからといわれているけど、それは最近山から下りてきているゴブリンキングが放つ瘴気だったのが、冒険者の命がけの調査のおかげでわかったのよ。でもそのゴブリンキングすら山にいられなくなるほど強いやつが山に現れたのだとしたら、この辺の魔物の強さが今までの基準より高くなるの。草原の夜の魔物はマッドブリードしか目撃されていないけど、もともと防御力が低いマッドブリードが脅威なのは人間の匂いや声に反応して、日が落ちている間は無限のように発生するところなの。そして日が出れば発生しなくなるといっても、一度発生したマッドブリードは倒さないと消えないし、人が多いところに集まる習性があるの。最近山の主が変わって強さまで増してるなら、大規模な討伐になるわけよ。わかった?」


えっと、山に君臨する強い魔物のせいで山や森に限らずこの辺の魔物が強くなっている。ここはOK。


そして、俺らが野宿した草原にはマッドブリードが現れる。こいつらの脅威は単体の強さではなく、いくらでも湧き出るところなわけね。

確かに大量発生してたな。

まぁこれもOKだ。


そして、ここからは推測だが、野宿2人組じゃ無限のように湧き出る魔物を討伐仕切るのは無理だろう。でもその2人に反応して魔物は湧き出る。

その2人が死ねば、次は人の多い町に来るわけだ。

その前に討伐しなければならないから急いでいると。

たぶん昔にそんなようなことがあり、討伐隊を組んだことがあるのだろう。でも今はその時よりも強くなっているだろうから、より大規模な討伐になるだろうと、そんな感じか?


「でもそれって魔物を大量発生させて放置した場合だろ?ちゃんと俺らのせいで発生させたやつは全部倒したぞ?」


「な!?全部って、あんたたちが逃げてる間だって発生するんだからね?太陽が昇ってからちゃんと確認したわけじゃないでしょ?」


今回は逃げる余裕すらなかったから、太陽が昇ってからというより太陽が昇るまで戦いっぱなしだったがな。


「ちゃんと朝に全部倒したのを確認したよ。戦ってる途中の記憶は曖昧だが、逃げた魔物はいないはず。」


疑いの眼差しを向けられた。


「約半日もPPがもつわけないじゃない。じゃあ証拠に空水晶を見せてよ。」


なんでそこまでしなきゃならねんだよ。

まぁアイテムボックスのおかげで出し入れが楽だからいいけどさ。


「何個出せばいい?192個あるぞ。」


今度は呆れ顔に変わった。


「いや、本当みたいだからいいわ。ただ、空水晶はしばらく冒険者ギルドに持って行かないほうがいいと思うわよ。まぁ英雄になりたいなら話は別だけど。」


「英雄なんて面倒そうなのは勘弁だ。でもなんでだ?」


女がわからないの?というような顔をして、ため息をついた。


「さっきいったでしょ?大規模な討伐になるって。それをあんたは1人で倒したのよ?どんな手を使ったのかは知らないけど、異常なことだというくらいはわかるでしょ?」


「確かに…。」


「それに今回は勇者の力を借りるかもしれないという話にまでなったのよ。でもあなたの話を聞くにもうマッドブリードはいないみたいだから、今日の偵察で討伐中止になると思うわ。調合師を大量に集めて薬を作らせ、討伐隊を集めたりとそこまでしたのに中止になったら誰に責任が行くと思う?」


「高確率で俺だな。でも俺が名乗り出なかったらその商人が法螺吹き扱いにされるんじゃねぇか?」


「あら、優しいのね。でもそこは昨夜のうちに偵察隊が確認しているから大丈夫だと思うわ。」


確認しにきたやつがいたなら助けろよ…。

マジ生きてるのが不思議レベルなんだからな。


「ほとぼりが冷めるまではやめた方がよさそうだな。お前も秘密にしといてくれると助かる。」


「いわないわよ。私だって面倒なのは嫌だし、せっかく稼げる仕事がおばあちゃんに依頼されてるのに、早く知らせちゃったらそれだけ稼ぎが減るじゃない。」


後半が本音な気がしてならないんだが。


「ってか勇者なんているんだな。」


「確か2日前に召喚したみたいね。だから今回のマッドブリード討伐はレベル上げも考慮していたのかもね。」


2日前って俺と同じ時期じゃねぇか!?


「勇者を召喚ってどういうことだ?強いやつが選ばれるとかじゃないのか?」


「勇者に求められるのは強さよりも国に従順であることなの。そのためには召喚紋で縛り付けるのが手っ取り早いのよ。だから選ばれた宮廷魔術師が異世界から強そうなのを呼び出すのよ。」


「酷い話だな…。」


自分の都合で呼び出して召喚紋で縛って戦わせるか。

ん?自分の都合で買って奴隷紋で縛って戦わせる…俺も同じことしてるじゃねぇか。


…たぶん国にもそうせざるをえないやんごとなき事情があるんだろう。きっと。


「私も最初はかわいそうと思っていたのだけど、今まで3人の勇者にあったけれどみんな幸せそうだったわ。高待遇を受けるものだから利用されてるとも気づいていないようだったし、立場を利用してけっこうやりたい放題していたしね。それでも大規模な戦いには強制参加させられるのだけど、その戦いすらも楽しんでいる節があったわ。」


異世界がどんな世界かはわからないが、俺と同じようなとこからきてたら夢かゲームの世界くらいに思ってて、死ぬのが怖くなかったのだろう。

それに現実がつまらなかったなら、この世界が楽しく感じてしまっても仕方がないのかもな。俺も死ぬ思いをしてもなんだかんだ楽しいと思い始めちゃってるし。


「勇者って何人もいるのか?」


「私はこの国以外は知らないけど、この国ではいても1人ね。大災害の予兆を感じたときに勇者がいなければ召喚するといったところね。」


「じゃあなんで3人も知ってるんだ?」


「入れ替わりが激しいからね。その3人の内、過去に召喚された2人の勇者は異世界から来ているはずなのに2人とも知識が豊富でパーティーを育てるのが上手いし、ステータス的にもとても強いのだけど、なぜか強敵と戦うと真っ先に勇者が死ぬの。だから1つの大災害にたいして1人召喚することになっちゃうの。今年と3年前と5年前。それより前はさすがに勇者と会うことなんてなかったわ。」


1年が何日かはわからないが、ずいぶん短い人生なんだな。

ゲームに詳しいような元インドアなやつらじゃステータスが上がろうが『戦い』はできないってことか。


「というかお前はなんでそんなに詳しいんだ?」


「おばあちゃんが王家お抱えの調合師だから、その仕事を継ぐための勉強でよくお城には一緒に行ってるからね。」


もしかしてけっこう偉いやつなのかもしれないな。


「そうか。それは何よりだ。ところでけっこう前にして話が逸れてしまった質問なんだが、この辺に安い服屋ってないか?」


自分から聞いといてなんだが、勇者の話とかこの女の話とかわりとどうでもいいから、聞きたいことを聞くことにした。


「市場に服屋は1店舗しかなかったような…あとは城門通りにある高級店になるわね。市場の服屋はそこにある肉串屋の隣よ。」


おっちゃんのとこの隣か。

今まで気づかなかったな。


「ありがとよ。じゃあな。」


聞きたいことも聞けたし出ようとしたら服を掴まれた。

ただでさえボロボロになってるジャージがビリッと音を立ててさらに破けた。


「ちょっと待ちなさい。空水晶を10個ほど売ってくれない?10個で銀貨10枚でどう?」


192個もあるから10個くらい別にいいか。こいつにはなんだかんだで世話になってるし。


「ほらよ。あとイビルホーンの牙なんてどうだ?」


アイテムボックスから空水晶を12個取り出して渡す。


「いらないわよ。ツノなら使うけれど、今はそんな無駄遣いする気はないわ。…あれ?2個多いけど?」


銀貨を10枚受け取る。


「2個はいろいろ教えてくれたお礼だ。じゃあな。」


「ありがたくもらっとくわ。」



そうして薬屋を出て、服屋に向かう。

朝からキツかったが、さすがにもう眠さが限界だ。

早く服買ってシャワー浴びて寝たい。

でも腹減ったな。


「おっちゃん。特上2本くれ。」


「毎度!今日のあんちゃんはボロボロの泥まみれだな!その歳で泥遊びとは元気なこった!」


さすがにそんなわけないが、外にいたことをいうと下手したらマッドブリードのことがバレるかもしれないからいえないな。


「これからを考えて秘密の特訓してたからさ。」


その後、肉串が出来るまでの間におっちゃんからも街の外で野宿してた馬鹿がいるらしいという話を聞かされた。


薬屋の女ほど詳しくは知らなかったみたいだが、客の噂話を聞いて知ったみたいだ。


「それにしてもあの草原で野宿するってのはよっぽどの自信家か救いようのない馬鹿なんだろうな。ほらよ特上2本!」


「ハハハハハ。アリガト。」


乾いた笑いを漏らしながら肉串を受け取り、銀貨1枚を渡し、銅貨80枚を受け取る。

1本はアリアに渡す。もう元気になってるから食べられるだろう。


「ん?2人組…野宿…馬鹿…ボロボロの服装…あんちゃん、もしかして…。」


感の鋭いおっちゃんだが、馬鹿で納得されるのは癪だな。


「おっちゃん待った!それ以上は踏み込んじゃならねぇ!」


「お、おう。半分冗談だったがすげえなあんちゃんは。だからそっちのアリアちゃんだったか?その子も元気になったのか。」


おっちゃんはなんだか納得しているようだったが、余計なことをしてしまったようだ。


まぁおっちゃんだったら人にいいふらしたりはしないだろう。


肉串の最後の肉を齧りながらアリアを見ると既に食べ終わっているようだった。


口の中で肉が溶ける感覚を味わいながら飲み込む。


「そういや聞きたいことがあったんだけど、地図ってどこで売ってんの?」


「地図っていやぁ普通は所属ギルドで買うんじゃねぇの?つっても取り扱ってんのは冒険者ギルドか商業ギルドくらいだろうけどな。この街の地図なら門のとこで売ってたはずだ。」


商業ギルドなんてあるのか。

でも俺は冒険者ギルドに所属しちまったし、複数のギルドには入れなさそうな気がする。


この街の地図は別にいらないかな。


わかんなきゃおっちゃんに聞くし。


「ありがと。また来る。」


「おうよ。」





さて、本命の服屋に来た。

なかなか広いな。眠さが限界だから探すのは嫌だな。


「いらっしゃい。」


歳とってて化粧っ気がないのになんだか綺麗めなオバさんが出てきた。

ちょうどいいから聞いてしまえ。


「子ども向けの服ってある?」


オバさんはチラッとアリアを見た。


「そちらの子のサイズでしたらあちらになります。」


そういって一画を示す。


「あと俺が着れそうなサイズも欲しい。」


「それでしたらこちらになります。」


目の前だった。

考えるのを放棄し過ぎたな。


「ありがと。決まったら持ってく。」


「かしこまりました。それではごゆっくり。」


余計なことは話しかけるなオーラが届いたのか、カウンターの方に戻っていった。


昔から服屋の鬱陶しさが嫌いなんだよな。

だから服は量販店かスポーツショップくらいでしか買わない。

だから基本はジャージでいることが多い。


まぁ高校生だから平日は制服だしな。


まずはアリアのサイズの服のところまで足を運ぶ。


俺のサイズのとこほど量はないが、まぁ選べるくらいにはあるな。


「アリア。銀貨10枚以内で好きな服を選んでおけ。俺は自分のを見てくる。」


「…はい。」


返事をしたアリアは服を物色し始めた。

なんだかちょっと嬉しそうだな。


そういや奴隷でも値札が見れるのか?

この国では俺より奴隷の方が国語力があるんだな。



さて、俺は俺で探すか。


自分の体に当てがってサイズがあってそうな半袖のTシャツを2枚と長袖のTシャツを1枚、あとは羽織るタイプのシャツっぽいのを1着と…これはなんていえばいいんだ?ダボっとしたスウェットとは生地が違うが見た感じは同じようなやつとチノパンを1着ずつにした。


元の世界と似たような服がけっこうあるから助かる。ただ、時期のせいなのかそもそもこの世界に存在しないのか、スウェット生地の服がなかった。

ジャージも置いてない。


今着てるボロボロのジャージとスウェットは大事に取っておくとしよう。



俺が買う予定の服を持ってアリアの元に戻ると、まだ悩んでいるようだ。


まぁ俺はこの量を10分くらいで決めたしな。


「アリア。俺はこの国の文字が読めないから、俺が持ってるやつの値段を教えてくれ。」


定員に聞くのは恥ずかしかったから、アリアに聞いてみた。

アリアは6つの値札を見比べて指を折りながらブツブツいっている。


「…全部で銀貨9枚です。」


時間はかかるが計算もできるのか。

銀貨10枚以内だからこれでいいだろ。


俺が速攻で決めたことに焦ったようで、端にあった5着を掴んで持ってきた。

それはさすがにてきとう過ぎだろ…


「べつにもうちょい選んでいいぞ。」


「…選んで端に避けておいたものです。」


俺がいいたいことを察したのか、そう答えた。


まぁ本人が選んだならべつにいいが。


「いくらだ?」


「全部で銀貨4枚と銅貨80枚です。」


あぁ、もうちょい買おうと悩んでたのか。


受け取った服を見ると、パンツが2着と長袖Tシャツ2枚に可愛らしいワンピースもあるな。


ワンピースを持ってアリアに当てがう。

うん。まぁ似合いそうだが、腕の傷は間違いなく見えるだろうな。

本人が選んだのだから何もいわないが。

あとは下着も買わなきゃな。


カウンターのところに行き、店員に聞く。


「あと下着を買いたいんだが、どこにある?」


「下着でしたら男性用があちら、女性用がこちらになります。」


店員が手で示す位置を確認するとレジを挟んで真逆みたいだ。

女性用下着コーナーには他にも客がいるみたいだから行きたくねぇな。


「アリア。好きな下着を5着選んで持ってこい。」


「…はい。」


俺は俺で男用からてきとうに選んだ。

この世界にもトランクスタイプのパンツがあったから、それを5着選んだが、生地がなんか違うから肌に合わなかったら困るな。

そういや靴下も買わなきゃな。

てきとうに靴下を4足選んだ。


カウンターに戻るとアリアが走ってくるのが見えた。

べつにそこまでは急いでないが、奴隷としては主より遅いのがまずいと思うのかもな。


アリアが持ってきたのは子ども向けのパンツとスポーツブラっぽいやつを2着ずつと、キャミソールみたいなのを1着持ってきた。


このキャミソールどっかで…あぁ、薬屋の女が着てたのに似てるな。

あれは下着だったのか?

ってか子どもだからパンツだけで十分だと思ってたけど、8歳だとブラが必要な年頃なのか?

でも妹は10歳超えるまではつけてなかった気がするが…まぁいい。


「俺のいい方が悪かったな。下着をあと上下2セット持ってこい。あと靴下も4足くらい持ってこい。」


「…はい。」


走って取りに行って、5分もかからず戻ってきた。

下着はわりとてきとうに選ぶんだなとなんとなく見てみると、全部微妙に柄やデザインが違う。

8歳でも女なのかもな。

俺が無頓着すぎるだけか?


手に持ってる服を全てカウンターに置く。


店員は全部の値札を外して、暗算で計算しているようだ。


「全部で銀貨22枚と銅貨40枚です。」


店員に銀貨22枚と銅貨40枚を支払う。


「ありがとうございます。」



服代けっこうしたな。

これで所持金が銀貨57枚と銅貨が50枚くらいか?


早く金を作んなきゃならねぇのに空水晶は売れねえしな。


服類をアイテムボックスに入れて、店を出た。


他にもするべきことはたくさんあるが、もう無理だ。眠い。


「アリア。残りのやるべきことは後回しにして宿に行くぞ。」


「…はい。」


金がないから冒険者ギルドの横の宿を目指す。


それっぽいところを見つけて中に入ると1階の広間っぽいところで何人かが寝ている。

ここで間違いなさそうだ。


「2人用の個室が借りたい。」


「はいよ。2人で銀貨4枚ね。」


銀貨4枚を払って部屋の鍵をもらい、部屋に向かう。


狭い部屋にベッドが2つあり、その間に小さなテーブルがある。あとはトイレとシャワーとクローゼットがある簡素な部屋だ。


俺はアイテムボックスからさっき買ったアリアの服をベッドの上に置いた。


「俺が先に風呂に入るから、アリアはそのあと入れ。1人で入れるか?」


「…はい。」


大丈夫そうなので、汚れた服を脱いでアイテムボックスにしまい、先に入る。


この世界でもちゃんと髪用の石鹸と体用の石鹸が分かれているから嬉しい。

ただ、俺は文字が読めないから、間違えたら髪がゴワゴワになるがな。

前回は観察眼の勘で選んでいたが、そういや今は解説があると思って使ってみたらちゃんと髪用と体用と説明してくれた。


さっさと済ませ、体を拭いて、アイテムボックスから出した服類を着る。

10分もかかってないだろう。


さっきから寝ることしか考えてないからかなり雑だ。


石鹸の泡がちゃんと落ちれるかも怪しいレベル。


起きたらもう一度ちゃんと入ろう。


「アリア。次入れ。出てきたときには間違いなく俺は寝てると思うから、アリアは好きにすごせ。ただ、部屋からは絶対に出るな。誰かが訪ねてきても無視をしろ。いいな?」


「…はい。」


アリアは買った中からキャミソールとワンピースを持ってシャワー室に入っていった。


それを見送り、ベットに倒れる。

俺はもうだめだ。


お…や…す……み…。


誰にともなく告げて、眠りに落ちていった。

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