第8話




おっちゃんと別れてからしばらく市場を探してみたがアリアが食べれそうなものはなかった。

酒屋っぽいところに栄養ドリンみたいな飲み物が売ってたから、とりあえずそれは飲ませたけど、それだけじゃさすがにまずいだろ。


あとは水しか与えてないし、早くどうにかしないとな…。


「自炊するしかねぇか。」


自炊っていっても昨日の宿を見た感じではこの世界の宿の部屋には台所が存在しない可能性が高い。


「やっぱり外か…。」


外は若干のトラウマがあるからな。

でも森から出てくる魔物は少ないっていってたから、草原側でならキャンプとかできるかもな。


さっき米っぽいのが売ってるところと鍋とか売ってるところがあったから、自炊できないこともないだろう。


「体質的に食べれないものってあるか?」


念のためアリアに確認を取る。


「…ないです。」


さっきからアリアのお腹が鳴りっぱなしだ。

恥ずかしいのか話しかけても全く顔を上げない。


出会ったときは餓死寸前みたいな見た目だったにもかかわらず、腹の虫なんてなってなかったのにな。


まぁ元気になってきたってことかな?






米や肉、野菜と鍋やナイフや大きめな布を買ったが、包丁やまな板は見たところ置いてなかった。

それにしてもけっこうな荷物になったな。


この世界にはビニール袋なんて便利なものはないから、持ち運びにくいのなんの。


マジックバックに入るだけ食材を入れてアリアに持たせ、残りは鍋の中に入れて俺が持っている。


本当はマジックバックすら持たせるのが怖いくらいにアリアはガリガリなのだが、大丈夫だというから持たせている。


鍋類や米はガントレットの加護のおかげかほとんど重さを感じない。


本来なら不必要なものを買ったせいで、もう所持金が銀貨70枚と銅貨がちょっとしかない。


本格的にヤバくなってきたな。



外に出るための門のところに着いたので、冒険者カードを見せて通ろうとしたら、アリアの身分証も見せるようにいわれた。


「俺の奴隷なんだけど、ダメなの?」


「でしたら奴隷紋を確認させてください。」


そういやまだ奴隷紋を刻んでなかったな。


「すまん。出直す。」


回れ右して奴隷市場に向かうこととなった。






「お待ちしておりました。」


相変わらず背中が痒くなるような笑顔で出迎えられた。

笑顔が下手なのかわざとやってんのかわからねぇやつだな。


「奴隷紋をしてもらいにきた。」


「いいのでしょうか?まだ完治していないように見えますが?」


「あと3日くらいで完治する程度には回復したから大丈夫だ。それとも奴隷紋を刻むのはそんなに体に負担がかかるのか?」


奴隷商はローブに隠れたアリアの顔を覗き込む。

アリアはビクッと肩を跳ねさせ、一歩下がった。


「今くらい生気があれば問題ないでしょう。それにしても神薬を使わずに治すとはどんな手を使ったのでしょうか?」


やっぱりこいつは神薬を使わなきゃ治らないレベルの病気だとわかってやがったな。


「知り合いの補助を受けながら最高品質の治療薬でどうにかな。」


「素晴らしい人脈をお持ちで。」


もしかしてあの女って何気に凄いのか?

そういや知り合いとかいっときながら名前も知らないわ。


「たまたま知り合っただけだ。それよりあまり時間がないから早く頼む。」


アリアがそろそろ空腹に耐えられなくなるからな。

それに飯の匂いにつられて魔物がくる可能性もあるから、夜になる前に食べ終わりたい。


「それでは直ぐに始めましょう。」


そういって歩き始める奴隷商のあとについて行くと、昔漫画で見たような魔法陣が床に書かれた部屋に連れて行かれた。


「お待たせいたしました。お客様はそちらの円の中にお立ち下さい。そして、奴隷を魔法陣の真ん中に立たせてください。」


指示されるままに行動する。


「アリアはそこに立つんだとよ。」


「…はい。」


定位置に立ったのを見計らって、奴隷商が俺の後ろに立った。


「紋様は額か胸に刻むことができますが、どちらになさいますか?」


どんな紋様かがわからないが、さすがに顔は可哀想だろ。


「胸で頼む。」


「かしこまりました。それでは始めます。」


奴隷商から顔をそらし、アリアを見る。


何が起きるかわからずに緊張しているようだ。



「我が認める。互いの身分を違えることを同意し、下の者の心の臓に紋様を刻み永遠の証となれ。」


『奴隷契約』



魔法陣の溝を黒い何かが這うようにアリアに向かって高速で進み、足を伝って絡みつき、あっという間に胸に集まる。


アリアは苦しそうにしているが、死ぬほどではなさそうだ。


数秒アリアの胸あたりで蠢いたかと思うと、黒い何かが一滴だけ床に落ち、凄い速さで這って、一直線に俺の方に向かってきた。


「避けないでくださいね。」


回避行動を取ろうとしたのがバレたのか、奴隷商に釘を刺された。


黒い何かは俺の足に到着すると、登ってこないでそのまま浸透していった。


なにかが入ってきたのがわかる。


ステータス画面を見ると奴隷の項目が増えていたので確認をする。



奴隷1

アリアローゼ 8歳

人族LV1

状態異常:弱体

スキル なし

加護 『成長補強』『炎耐性』




俺のスキルの成長補強は加護として奴隷にも与えられるのか。

これは当たりスキルだな。いや、どの程度上がるかわからないんだから当たりかはわかんねぇか。


あとは奴隷の禁止事項の設定ができるみたいだ。

裏切りに当たるものは全部禁止だ。

あとは禁止事項に触れた場合の罰を選べるのか。

まぁ敵意を持って俺の不意をついた攻撃を仕掛けてきた場合は死を持って償ってもらうが、あとは胸の締め付けレベルマックスでいいか。


曖昧なのはとりあえず今は設定しなくていいや。


それと、今までスルーしていたパーティー編成を使うときがきたな。


この世界の奴隷なら裏切れないらしいからな。


パーティーは自分含めて6人までみたいだ。

とりあえずアリアを設定っと。

そういや冒険者ギルドでいっていた『チーム』とは何が違うんだ?

受付のお姉さんが話してるときは仲間なんていないから別にいいと聞き流してたが、ちゃんと聞いとけば良かったな。


また今度覚えてたら聞いてみればいいか。



「以上にて完了となりますが、先ほど入荷したばかりの奴隷を見ていきますか?」


「今は急いでいるからやめておく。」


処分間際の奴隷で銀貨20枚なんだから、今の所持金じゃたぶん買えないだろう。

金がないって断ってなめられるのも良くないしな。


「失礼いたしました。初めにお急ぎだとおっしゃってましたね。」


「ちなみに今の奴隷紋はどの程度の強度なんだ?」


前にレベルがあるっていってたしな。


「本来ならサービスなのでレベル1なのですが、お客様は戦闘奴隷をお求めと最初にお聞きしていましたので、特別サービスでレベル3を付けさせていただきました。冒険者を基準にしますとレベル50まではまず逆らえないでしょう。これ以上が必要になった場合は申し訳ございませんが有料となってしまいます。」


そのくらいになったらたぶんソロでも戦えるだろうから、別に問題ないな。


「最高レベルはいくつだ?」


「レベル5となります。5は特殊な力を持っていない限り、逆らうことは不可能といわれております。4でも今まで自力突破されたと聞いたことはありません。」


そのいい方だとレベル3までは自力突破されたみたいに聞こえるが…。


「御察しの通り、お客様が奴隷紋料を安くすませたせいで、戦闘奴隷が強くなりすぎて痛い目を見たという話はいくらか伺っております。」


それでレベル3までは今までのデータをもとに大丈夫であろう基準があるわけか。


「そっか、あんがと。じゃあもう行くわ。」


「またのご来店お待ちしております。」






奴隷商と別れて街の外に出るための門のところに戻ってきた。


俺は冒険者カードを渡して、アリアの奴隷紋を見せようと思ったが、今さらながら女の胸に奴隷紋って身分チェックのたびに胸を見せることになるのか…額にしてやるべきだったか?

いや、あとで冒険者カードを作ってやればいいのか。


そんなことを考えていたが、アリアは特に恥ずかしがることもなく奴隷紋を見せた。


まぁ女つっても8歳だから問題ないか。




やっと外に出れたけど、もう俺の腕時計で15時かよ。あと3時間くらいしかねぇじゃねぇか。


とりあえず場所を決めなきゃな。

森からある程度離れながらもちゃんと森の様子を視認できる距離が妥当だろう。


整備された道の右側の草原を歩きながら、しっくりくる場所を探した。


最終的には街の外壁から1キロくらい離れていて、整備された道から500メートルくらい離れた場所にした。


荷物を置いていざ料理を始めるかと思ったが、薪も炭も食器類も買ってねぇや。

ここまで来たら森の木から作った方が早そうだな。


まだ昼だから大丈夫なはずだし。


「ちょっとそこの森から木片を取ってくるから、荷物を見ててくれ。」


「…。」


森に向かって歩き始めたところで、立ち止まる。


返事がなかったからだ。

どうしたと振り向くと、少し震えていた。


「どうした?」


「…ごめんなさい。」


「思ったことをいっていいぞ。」


「…連れて行ってほしいです。」


捨てられると思ったのか?

それなら自由になってむしろいいんじゃないか?いや、奴隷紋のせいで逆らえないから置いて行かれたらここから動けなくなるのか。

それは確かに怖いわな。


「まぁ少し目を離したくらいじゃ炊いてもない米や鍋類は盗まれねぇか。じゃあ連れてってやるけど、時間がないから俺が運ぶぞ?」


前に俺に運ばれて具合悪そうにしてたから、一応いっておく。


「…はい。」


マジックバックだけ持って、アリアを抱えて全力で走った。1キロないくらいの距離だが、1分もかかってなさそうだ。

だが、PPは10%くらい減ってる。


森の入り口付近で探したが、生きてる木ばかりで燃やせそうな物がない。


安全確認をしながら少しずつ奥に入ったところで結構大きな枯れた木片を見つけたので、丸ごと持って行くことにした。

あとはスプーンやオタマを作るために生きてる木からナイフで削り取った。


森についてからはアリアは自分で歩かせているが、すごく警戒しながら俺のそばを歩いている。



この辺りはなんか見覚えがあると思ったら、昨日俺が来たところのようだ。

そうそうここで初めての魔物狩りを…。


俺が倒した魔物だと思われるものの骨だけが放置されていた。


牙が片方ないからたぶんそうだろう。


つっても骨と歯とツノしかないがな。


周りを見回すと、少し離れたところに上顎と下顎が外れてる犬もどきの骨が2体分あるから間違いなさそうだ。


遅れて気づいたアリアは小さい悲鳴をあげた。


「こいつは俺が初めて倒した魔物だ。」


「…え?」


「倒したはいいんだけど、素材になりそうなものを取ろうとしてたら仲間っぽいやつらに襲われて、放置せざるをえなくなってさ。せっかくだから回収していこう。アリアは周りの警戒を頼む。」


「…はい。」


何かいいたそうにしていたが、けっきょく何もいわずに返事をした。


肉がないせいか思いの外楽に牙は取れたが、ツノは頭蓋骨に完全にくっついてるみたいだ。

めんどうだからこのまま持ってくか。

首のところでゴリっと無理やり取ったら、またアリアが小さい悲鳴をあげた。


まぁそのうち無理やりにでもやらせるがな。



2人とも立ち止まったことにより静かになったからか、かすかに水の流れが聞こえる気がする。


そんなに遠くはなさそうだったから、3体分の素材回収が終わってから足を運んでみた。



100メートルほど歩くと目視で川が確認できたので、近づく。


これって飲めるのかな?


識別を発動。




…。




無反応だと ︎



入って平気なのか?


識別を発動。


『無問題』


よくわからんが入るのは大丈夫みたいだ。

ちょうどいいし、アリアの汚い体をここで洗っとくか。


「アリア、服を脱げ。」


「…はい。」


ローブの結び目を解くのに苦戦してたから手伝って脱がせ、ボロ布は自分で脱いだ。

下着は着てなかったようだ。


ってか傷が酷いな。

もう全部古傷のようになってるけど、顔以外に傷がない部位がねぇんじゃねぇか?

体はボロ布でスッポリ覆われてたうえに布から出てる手足部位はそこまで傷が目立ってなかったから気にしてなかったけど、あらためてよく見ると腕や足まで傷だらけだ。

特に背中がヤバい。

2日前の俺なら目を背けるレベル。

犬もどきの顔を潰したグロさを見たおかげか、今は酷いなと思う程度で済んだ。

グロ耐性0のやつが見たら吐くかもな。



「そしたら川に入れ。」


「…。」


怯えた目で俺を見てきた。

どこぞのCMのチワワみたいだな。


「体を洗ってこい。」


まだアリアは動こうとしない。


「しゃーねぇな。俺も浅いところまでなら入ってやるからそこで綺麗にしろ。」


面倒だったがブーツと靴下を脱ぎ、スウェットを膝まで上げて水に入る。

アリアも俺に続いて入ってきた。


川の水って意外と冷たいな。

これは深いとこに入って洗えってのも辛いか。


「髪を洗ってやるからそこで仰向けに寝て水に浸かれ。体は自分で洗えよ。」


寝ないと浸かれない浅さだからといって幼女を全裸で仰向けに寝かせるとか通報ものだな。


でも本人は恥ずかしいとは思ってないのか、素直に従う。


まぁ8歳なんて一部の変態以外は性別を意識なんてしないからな。

本人が平気なら問題ないだろ。


俺は浅瀬に足を入れ、アリアの髪を洗おうとしてビックリした。髪がぬとっとしていて、ぶっちゃけ気持ち悪い。


体は本人が一生懸命手でこすっている。

垢すりなんか使ってないのにポロポロ剥がれた皮が流れていくのが見える。


どんだけ風呂に入ってねぇんだよ。


まぁ臭いでなんとなくわかっちゃいたけど、ここまでとはな。


我慢して髪を水の中で洗い続けたら、ちょっとマシになってきた。


本人はまだ一生懸命体を洗ってるから、その間は髪を指で梳き続けた。


10分くらいしたらアリアの動きが止まった。


「…ご主人様。」


かなり背中がむず痒くなった。

鳥肌までたってやがる。

ご主人様とか実際に呼ばれるとゾワッとするな。


「俺は神野 力だ。力が名前だ。」


「…ごめんなさい。リキ様。」


様もなんか恥ずかしいが立場を勘違いさせないためにも受け入れるべきだろう。


「どうした?」


「…背中が届きません。」


「しょうがねぇな。」


髪を梳いてた右手をそのまま背中に回し、擦ってやる。


「痛かったらいえよ。」


「…はい。ありがとうございます。」


それにしてもめっちゃ垢が取れる。

いっそ清々しいな。

ただ素手で洗ってるから傷痕が生々しいがな。



思いの外時間を使ってしまったため、そろそろ上がろうと思ったら、タオルがねぇ…



せっかく体を洗ったのにもう一度ボロ布着せるのも嫌だしな…

服とタオルも買っておけば良かった。


とりあえずボロ布を川の水で洗って絞る。


1度洗ってもまだ臭いから何度も洗ったが、汚れが落ちきる気がしねぇ。

ある程度マシになったところで絞ってタオル代わりにしてアリアを拭く。


裸の上に直接ローブを着せる。

俺の足もアリアが着てたボロ布で拭いて靴下とブーツを履き直して、草原に戻ることにした。




腕時計を確認すると16時を過ぎていた。


身体を洗ったりオタマやスプーンの代わりになるようなものを木から作ったりとしていたから、けっこう時間が経っていた。


急いで飯を作らなければ夜になってしまうから、荷物のとこに着くなり、買ってきた水で米をといで鍋に入れ、買ってきた肉や野菜類を(俺の技量の範囲内で)出来るだけ細かく切って鍋に入れ、水を鍋いっぱいに入れる。

あとは味付けだが、調味料も買ってねぇや…。



うん、弱ってるアリアに取っては素材を活かした薄味の方がいいだろう。

ということで鍋にフタをして、準備OK!


だからあとは火をつけるだけなんだが、これも持ってねぇ…。


「ダメダメじゃねぇか!」


俺の独り言にアリアがビックリして肩を跳ねさせた。


「悪い。今さらだが、火がないから作れねぇ…。」


ここまできたら適当に魔物狩りしてレベルを上げて、炎系のスキルを覚えた方が早そうだな。


するとアリアがローブのポケットから黒いビー玉みたいな物を取り出した。


「…たぶん、火の出る魔道具です。」


なぜ奴隷が私物を持ってる?


「どこで手に入れた?」


「…薬屋のお姉さんにもらいました。」


俺が薬を買いに行ってるときか?

こうなることを予想していたのだとしたら凄いやつかもしれない。

玉を受け取り観察する。

透明感はあるが、中が暗くなっててよく見えない。


「なんていって渡されたんだ?」


「…。」


なぜ黙る?


「正直にいえ。」


「…リキ様が変なことをしてきたら、ローブを羽織って、この玉を地面に叩きつけるようにとです。」


あのガキ…。


まぁ確かにそのローブを着て使えってことは炎系の可能性は高いな。


意識が玉からそれたとき、手からポロっと落下した。


あ…と思った瞬間、直感がうるさいくらいに危険だと告げている。

音が出てるわけではないが、気分的には警報を耳元で聞かされる感じに近い。


どうするかなんて考える前に身体がほとんど勝手にマジックバックとアリアを抱えて力の限り飛び退いた。


後ろで鍋の蓋の上に落ちた玉からだろう、ピキッというヒビが入ったような音が微かに聞こえたと思った瞬間、ゴオッという轟音が響いた。


PPが一気に80%も消費されるほどの漫画みたいな跳躍だったにもかかわらず、背中が熱い。


燃えてはいないだろうが、異常な範囲の炎が立ち上り、わけわからん熱量をさらに広範囲にぶちまけていた。


炎は15秒ほどで消え、それに合わせて熱さもおさまったが、さっき持ってきたけっこう大きめの枯れ木の残りは跡形もなかった。一応の存在証明かのように置いてあった場所に影のような黒い跡があるだけだ。


草原の草すらこの辺りは燃えてなくなっている。


さすがに鉄でできてる鍋は燃えてはいなかった。


魔物の頭蓋も無事みたいだ。

若干黒くなってるが、多分焦げたわけではないだろう。骨だし。



燃えるものは燃やし尽くしたように見えたが、まだ何ヶ所かで微かに火が残っている。


マジックバックから食材を出したときにバックにさっき作ったオタマやスプーンと大きめな布をしまっておいてマジで助かった。


ってかなんつーもんを俺の奴隷に持たせてんだよ!


「…ごめんなさい。」


「いや、べつにアリアは悪くないだろ。手を滑らせた俺と、そもそもこんな危ないものを持たせたあの女のせいだから気にするな。火傷はないか?」


「…熱くなかったので、大丈夫です。」


炎耐性っていうのはその熱も含まれるわけか。


こんなところに突っ立ってても仕方がないし、鍋のとこに戻るか。


鍋から湯気が出ている。

ガントレットを装着してフタを開けると、若干焦げた臭いもあるが、見た目は白い。

水分が飛びすぎて、このままだとカピカピになりそうだ。


俺はマジックバックから残った水を取り出し、おもむろに鍋に入れてみた。


ジューーーーッという音がした後、グツグツと煮え始めた。


どんだけ加熱されてんだよ。


でもそのおかげでリゾットができた。

食べたことないけど、これがこの世界のリゾットということにしておこう。


一口食べてみる。


うん、苦味はないな。

味もないけど。


かなり集中して食べれば微かに野菜の味なんだろうなって味はするが、薄味とかいうレベルじゃない。

まぁ食べるのは俺じゃないからいいか。


マジックバックからさっき作ったスプーンを取り出して、アリアに差し出す。


「ご飯が出来たから好きなだけ食え。鍋はかなり熱いから、絶対に触るなよ。あと、少し食べたらすぐに腹がいっぱいに感じるかもしれないが、そしたら無理せずいったん休め。そのあとまたお腹が空いたら食べろ。それをゆっくりと時間をかけて繰り返せ。休んでもお腹が減らなそうだったらそこで終わりだ。俺はその間寝てるから、終わったら必ず起こせ。あと、何かあったときも必ず起こせ。飲食以外の勝手な行動は許さない。わかったか?」


「…はい。」


アリアが理解したことの確認を取り、バックから大きめな布を取り出す。


ナイフで布を少し破き、もう使わなくなった木のオタマと味見に使ったスプーンにそれぞれ巻きつけて、近場の微かな火をオタマの方に燃え移させる。


そのオタマを鍋の近くにブッ刺して、そのオタマに布巻きスプーンを立てかける。


もっと木が欲しいけど、ここを離れるとしたらアリアまでついてきそうだしな。

アリアには夜になる前に飯を食ってもらわないと困るし、まぁ火が消えたら消えたでいいか。


俺は焼け野原跡に横になり、少し眠ることにした。


今日は本当に疲れたのだろう。


あっという間に意識が持っていかれた。

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