第7話




できる限り振動を与えないようにしたつもりだが、アリアローゼはさらに具合が悪そうになっていた。


まぁ思ったより長い時間走ってたからな。


奴隷市場の場所が城から近かったから大丈夫だろうと思ったけど、そもそも城から市場や冒険者ギルドまでの道がわからなかったからな。


確か城の裏側だった気がしたから、てきとうに走り回ってやっと到着したって感じだ。


今は昨日の薬屋の前にいるが、昨日と同じく扉が閉まってて、小さな看板が出ている。


もしかしてこれが閉店の看板なのか?

まぁいいや。


扉を開けると昨日の女が商品を陳列しているようだった。


「よお。昨日ぶり。」


今日は青っぽいフード付きローブを羽織っていた。

髪はカチューシャのようなものでデコ出しスタイルにしているみたいだ。


「はぁ。あんたはおばあちゃんがいない時間をあえて狙ってるわけ?」


やっぱりあの小さい看板が閉店と書かれたものだったのだろう。


「そういうわけじゃないんだけど、急用でさ。」


「急用って何?昨日の薬の量じゃ初めての冒険には心許ないから出発前に買い足そうってこと?」


小馬鹿にしたような返答をしつつ、興味がなさそうに商品の陳列をしている。


「いや、魔物狩りは昨日行ってきた。今日は…。」


「はぁ!?あの後街の外に出たの!?夜に外に出るとかバカじゃないの!?」


振り返って立ち上がり、驚きと呆れが混じったようにバカにしてきやがった。


「確かに視界は悪かったが、そこまで驚くことか?」


「はぁ。あんたは本当に何も知らないのね。バカなあなたに教えてあげる。夜は魔物が活性化するの。夜行性の魔物は強いやつが多いし、昼にいる魔物も夜になると冒険者ギルド基準のランクが1つ上がることもあるわ。それに今はゴブリンキングが山から下りてきているという噂もあるわ。そんな時間に外に出てよく生きていたわね。」


昨日も思ったが、こいつはよく喋るな。


「昨日は確かに死ぬかと思ったけど、なんとかたいした怪我もなく帰ってこれたよ。」


最初の一体以外は戦うよりも逃げてただけだがな。


「まぁ森から出てくる魔物は少ないからなんとかなったんでしょうけど、気をつけないとすぐに死ぬわよ。」


「忠告どうも。まぁあの巨大な石を投げてくる緑の化け物から逃げれたのは奇跡に近いと自分でも思ってるから、これからは仲間を増やす予定だ。」


「え?緑の化け物ってゴブリンキング!?森の外まで出てきてるの!?」


あれがゴブリンキングなのか?

まぁ王者の風格があったといえばあったのか?


「いや、森の中で複数の魔物から逃げてるときに巨大な石を投げてきやがっただけで、たぶん森の外までは追いかけて来なかったと思う。」


あの化け物はそこまで足が早そうではなかったしな。


「夜に森に入るとか本当に馬鹿なの!?」


うるせぇな!

こんな近距離で大声を出すなよ。


手に持っていたアリアローゼがビクッと跳ねた。


そういや忘れてたな。


「あら?ボロ布かと思ってたら子ども?うわっなに?スラムから連れてきたの?」


アリアローゼのボロボロ具合を見て露骨に嫌そうな態度をとる。

ひでぇなと思うが、偽善者ぶらないところはいっそ清々しいな。


「違う。奴隷市場で買った。」


「うわっ。こんな弱ってる小さい子が好みなの?気持ち悪い。」


今度は俺を見て露骨な態度をとる。

ちょっとイラッときたな。


「ちげぇよ。こいつの薬を見繕ってほしい。」


「仕方ないわね。待ってなさい。」


そういってカウンターの裏にいった女は水晶を持って戻ってきた。


水晶を左手で前にかざし、右手は添えるようにして、水晶越しにアリアローゼを覗いているようだ。


「我求める、自然の理から外れしものを戻す力の源を示し、必要となる導を示したまえ。」


『ダイノーシス。』


水晶が淡く輝き、何かが映っているようだが、俺の方からはよく見えない。

これが魔法か?

ずいぶんと詠唱が短いんだな。


「なんか分かったのか?」


女は水晶から視線を俺に戻した。


「そうね。肉体的な病を1発で治したいなら神薬を飲むしかないわね。」


「シンヤク?」


新薬とは発音が違ったが…


「別名、神の薬や不老長寿の薬、奇跡の薬ともいわれているわ。まぁ万能薬の完全上位版といったところね。」


神の薬で神薬か。

この世界で漢字なんて見たことないが、なぜ名前と漢字が一致する?

この世界の言葉を俺が脳内でかってに日本語に変換してるだけなのか?

この辺は考えても疲れるだけな気がするからやめておこう。

今はアリアローゼの問題が先だ。


「その神薬とやらはいくらだ?」


「確か金貨100枚くらいだったと思うわ。それに扱ってる薬屋は限られてるわよ。城門通りの薬屋なら扱ってると思うけれど、もちろんここにはないわ。」


金貨100枚だと ︎

それは確かに奴隷に使える額じゃねぇな。

奴隷商はわかっていたから放置だったのか。


「他にはないのか?」


「もしかしたら最高品質の治療薬で治るかもしれないけれど、保証はできないわ。下手したらお金の無駄遣いになってしまうし。」


「それはいくらなんだ?」


「在庫があれば金貨1枚で売ってくれるわ。なければ作るのに時間とお金がかかると思うけれどね。最高品質の薬もこの街では城門通りの薬屋にしか置いてないわよ。」


「ありがと。」


礼をいって、次の目的地に向かおうとしたところで止められた。


「ちょっと待ちなさい。」


「なんだよ?」


「診察料、銀貨1枚。」


金とんのかよ!

ガメツイ女だな。


アリアローゼを器用に片手で抱え、財布から銀貨を1枚取り出す。


「ほらよ。」


「あら。素直に支払うのね。ならサービスで少しだけその子を預かっておいてあげるわ。こんな汚い子どもを連れてたら城門通りのお店には入れてもらえないだろうからね。」


確かにそうだな。

案外気の利くやつじゃねぇか。


「おばあちゃんが戻ってくるまでには戻ってきてね。」


「それってどのくらいだ?」


「さぁ?」


またイラッときた。


「とりあえず急ぐからアリアローゼをよろしく。」


そういって店を出て、城門通りに向かって駆け出した。


ブーツの加護のおかげか本気で走ると結構早い。

城までの道はさっき通ったからなんとなくわかっていたおかげで10分程度で薬屋だと思われる店に到着した。


「高級店って感じだな。」


場違いなことを承知しながら中に入る。


「いらっしゃいませ。」


さすが高級店というべきか、店員が複数人いる。

元の世界じゃ当たり前のことなんだが、この世界では今のところ1つの店に1人しか店員を見ていなかったからな。


「最高品質の治療薬を買いたい。」


「かしこまりました。それでは身分証のご提示をお願いいたします。」


店員は他の店員に治療薬を持ってくるように指示をしていた。


ってか身分証がないと買えないのか ︎

どんな高級店だよ。


昨日作った冒険者カードを渡す。


店員はそれを小さな水晶に近づけて情報を読み取っている。


「Fランクの冒険者様ですか。最近は冒険者業も稼ぎがいいのですね。」


「ん?まだ冒険者としてはほとんど稼いでないからよくわからんが、俺の場合はそこそこ元金があったからな。」


「元貴族様であられますか?」


なんでこんなに探ってくるんだ?

こっちは急いでるから早くしてほしいんだがな。


「そこまで話す必要があるのか?」


財布から金貨を1枚取り出しておいた。

それを見た店員が先ほど指示を出した店員に手招きをした。


「出すぎた真似をしてしまい、申し訳ございません。こちらが最高品質の治療薬でございます。」


こいつ、疑っていやがった。

俺が薬を奪って逃げるとでも思ってたのか?

小さな薬屋でもぼったくられそうになったし、けっこう冒険者の扱いって酷いのかもな。

まぁちゃんとしたのを売ってもらえればいいけどな。


識別を発動。


『本物』


「いくらだ?」


「金貨1枚でございます。」


識別を発動。


『無問題』


は?

俺のスキルがふざけていやがる。

意思でもあんのか?

それとも俺の影響とかか?

まぁ今はいい。


店員に金貨を1枚渡して薬をもらう。


「あんがと。」


「ありがとうございました。またのお越しを心よりお待ちしております。」


店から出たらまた全速力で小さな薬屋に向かった。


帰りは10分かからなかったが、ふとPPゲージを見ると半分以下になっていた。


かなり疲れたぞ…。


小さな薬屋の扉はまだ閉まっていて、小さい看板も出ている。

まぁ看板の文字が一緒かどうかは読めないからわからねぇけどな。


扉を開けるとカウンターのところに女が座っていて、その膝の上にアリアローゼが座っていた。

そして布かなんかで口を押さえられていた。


「何してんの?」


「あ、おかえり〜。これは店の奥に座らせたり寝かせたりしたら部屋が汚れちゃうから、膝に座らせてるんだよ〜。」


「俺が聞いてんのはそこじゃねぇよ!」


「ん?あぁ〜。この布は私が独自にブレンドした薬草を染み込ませてあってね。最高品質の治療薬で治る可能性を上げてあげてるんだよ。感謝してよね。」


やっぱりいいやつなのかもな。


「でも金は取るんだろ?」


「当たり前じゃ〜ん。一時預かり料と薬草代と布代、あとはこの子が座って使い物にならなくなったローブ代。一応少しだけサービスして、銀貨5枚でいいよ。」


識別を発動。


『味方』


予想外の結果が出た。

これはどういう意味だ?

嘘ではないってことだよな?


短い間だが、世話してもらったのは事実だから、金貨1枚を渡す。


「金貨なんて持ってるんだ。もしかして貴族様?」


さっきの薬屋でも聞かれたが、冒険者は金貨を持ち歩かないのか?

金貨の方がかさばらなくていいと思うけどな。

それとも稼いだ金はその日のうちに使う的な人間が多いってことか?

それならイメージ的にも納得いく。

俺も既に金貨はなくなっちまったしな。


それにしても俺が貴族か。


「そんなわけないだろ。」


「ふ〜ん。まぁいいけど。」


納得いかないというような顔をしながら銀貨95枚を返してきた。


「治療薬は飲ませればいいのか?」


「そうだよ〜。でもちょっと待って。あと少しだけこの布を吸わせてあげた方がいいから。」


待っている間に昨日買った薬草図鑑を眺める。

やっぱり文字はわからないが、絵はまるで写真のように上手いからわかりやすい。

ただ、字が読めないせいで何の薬草かはさっぱりわからんがな。


でもこれらを採取すれば金になるっぽいから、見かけたら全部取ればいいか。


「お待たせ。多少は治る可能性は上がったけど、期待しないでね。」


「いや、十分だよ。ありがと。」


女の膝から下りたアリアローゼがトテトテと俺の方に歩いてきた。


アリアローゼの目線に合うようにしゃがんで、治療薬を渡す。


「この治療薬はもう買ってやることができない。だからちゃんと全部飲め。この薬で病気が治るかはお前次第だ。治ることを強く願って飲め。いいな?」


病は気からっていうしな。

神薬なんてしばらく買える気がしないから、これで治ってくれなきゃ金の無駄遣いになっちまうからな。


「…はい。」


薬の大事さがわかっているようにちびちびと飲み始めた。

もし一気に飲んでむせて吐き出されたらたまったもんじゃないから、その飲み方は正しいと思うが、こいつの苦しそうな顔を見るにクソ不味いんだろうな。

良薬口に苦しっていうくらいだからしゃーない。


治療薬を飲み終わったアリアローゼがポーッとした顔でこちらを見る。

風邪を引いた子どものようになった。

多少は目に生気が出てきた気がする。


カウンターから出てきた女が水晶をかざした。


「我求める、自然の理から外れしものを戻す力の源を示し、必要となる導を示したまえ。」


『ダイノーシス』


水晶が淡く輝く。



「治ったか?」


「完治はしていないけれど、うまくはいったみたいね。あとはご飯をちゃんと食べて、毎日治療薬を飲めば3日もしないで体の調子は治りそうね。」


「は ︎毎日金貨1枚だと ︎」


「今度の治療薬は品質普通で大丈夫よ。低品質でも本来なら大丈夫だけど、その子はだいぶ弱ってるから品質普通にしておくのが無難ね。」


どんどん金が飛ぶな。

早くアリアローゼを使えるようにして魔物狩りをしなくては。


「いくらだ?」


「ここで買ってくれるなら、今の診察代込みで品質普通の治療薬3本、銀貨1枚でいいわ。」


実質治療薬が無料なのか?

それともさっきの診察代がぼったくられたのか?

まぁ世話にはなってるし、そのくらいはいいか。


「何から何までありがとな。」


銀貨を1枚渡す。


「対価はもらってるから問題ないわ。じゃあこれが治療薬ね。あと…」


女がおもむろにローブを脱ぎ、キャミソールのような格好になった。

いきなり何やってんだ?


「はい、ローブ。ローブ代はもらってるのだからこれはあなたのよ。」


まだ温もりの残ったローブを渡されるって変な気分だな。

ローブを見ると観察眼が反応している気がする。


「もしかしてこれって加護付きか?」


俺の質問に女は驚いた顔をしていた。


「あら。あなたは目利きができるの?」


「目利きというか、ちょっと良いものかどうかがわかる程度だ。」


「それは炎耐性の加護付きよ。調合師には必須アイテムね。だけど所詮はただの布だから、装備としてはほとんど意味をなさないわ。」


でも装備なら持ってるだけで加護が付くはずだ。

なら防御力はあまり関係ないだろうとステータスを見るが加護は付いてなかった。

羽織ってからステータスを確認するとちゃんと炎耐性が付いていた。

ローブは着ないと加護が付かないのか。


「アリア!」


アリアローゼがビクッとしたあとに首を傾げる。


「アリアローゼだと長いから、戦闘時に呼びづらい。だからこれからは常にアリアと呼ぶ。いいか?」


「…はい。」


声のガラガラも良くなってるようだ。


「わかったらこれを着ろ。」


女からもらったローブを渡して、着せていたジャージを返してもらう。


女の身長に合わせているから俺が着るとパツパツだし、アリアが着るとブカブカ過ぎる。

でもパツパツよりはブカブカの方がいいだろう。


腰のあたりと肩のあたりで一度縛り、無理やり丈を合わせてやる。


「あらためて、いろいろとありがとな。また来るよ。」


「次はおばあちゃんがいるときに来なね。」


そういやこいつは店員じゃないんだったな。


女に別れを告げて店を出る。





本当ならとっとと魔物狩りに行きたいが、まだアリアは使い物にならないから、とりあえず昨日手に入れた魔物の牙でも売りに行くか。

宿も冒険者ギルドの隣が安いっていってたし。

目的を定めたので冒険者ギルドに向かって歩き出す。


おっちゃんの店はけっこう人気があるようで並んでる。

邪魔しちゃ悪いから後で寄ろうと思ったら、アリアがガン見していた。


「食べたいのか?」


アリアは首を横に振った。


違和感があったので識別を使ってみた。


『ダウト』


なんでこんなことで嘘をつくんだよ。

まぁワガママをいわれるよりはマシか。


列の最後尾に並ぶとアリアが困惑していた。




「おっちゃん!特上2本くれ!」


「毎度!ってあんちゃんじゃねぇか!昨日は魔物狩りに行けたのか?」


「一応行ったけど、死ぬかと思って逃げてきた。」


「そりゃあ情けねぇ話だな。」


おっちゃんが楽しそうに笑う。

俺はマジで笑えない状況だったんだがな。


「そっちの子は兄弟か?」


ローブでスッポリと顔まで隠してしまっているアリアを見て質問してきた。


「こいつは奴隷だ。」


「うぉ!?あんちゃんはこんなちっこい子が好みなのか?」


この世界では奴隷イコール性奴隷なのか?


「違う。戦闘奴隷だ。」


「もしかして見た目にそぐわず強い魔術師とかなのか?」


「戦闘力はわからんが、死にかけてた子どもだ。」


「もっと酷えな!?」


おっちゃんがちょっと引いてる。

これは良くないな。


「ちゃんと働いたら奴隷解放してやる約束で、こいつが自ら選んだんだ。だから問題ない。」


おっちゃんはキョトンとした顔で俺とアリアを交互に見て、何かに納得したような顔をした。


「なるほどな!素直じゃねぇなあんちゃんは!」


勝手にいい方に納得してくれたみたいだ。


おっちゃんが焼きあがった肉串を2本渡してきた。


「ほらよ。特上2本だ。」


銅貨を20枚渡して肉串を受け取る。

1本はアリアに渡した。


「ほら、肉串だ。熱いから気をつけて食べろよ。」


「…え?」


「アリアには早く治ってもらわないとならない。だから飯を食って栄養を蓄えろ。」


「…ありがとうございます。」


アリアが急に泣き出した。

そしてそのままがっついたと思ったら、吐き出した。


病人に肉串は重すぎたか。


大丈夫かと声をかけようとしたら、アリアがしゃがんでから両手両膝を地面につけ、顔を近づけた。


「止まれ!」


アリアはビクッとしたあと硬直した。

俺はアリアが何をするつもりかと思う前に制止させていた。


「おっちゃん悪い。ちゃんと掃除はするからちょっと待ってくれ。」


「お、おう。」


俺はアリアに近づいてしゃがんだ。


「今、何をしようとした?」


「…ごめんなさい。」


「もう一度聞く、何をしようとした?」


「…ごめんなさい。せっかくいただいた物をごめんなさい。ちゃんと食べますから許してください。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…。」


そういや最初に買ったやつのところで精神的に病んだようなことを奴隷商がいってたな。

奴隷商は教育が云々いってたけど、どうせ買ったやつが異常なことをしてただけだろ。

まぁ奴隷の扱いなんて普通はそうか。とくにこの世界の奴隷には人権なんてものはないみたいだしな。


「別に怒ってないし、吐いたものを食べる必要もない。病人に油っこい物を食べさせた俺も悪いしな。あと、謝罪は心から謝っていれば一度だけでいい。何度も謝られるのは不快だ。それと、俺の言葉はちゃんと聞け。わかったか?」


「…ごめんなさい。」


アリアの肩を両手で掴み、目を合わせる。

アリアの肩がビクッと跳ね、まるで小動物のように怯えた目をしていた。


「俺は許した。だから謝罪はもういい。わかったのかどうかに返事をしろ。わかったか?」


「…はい。」


アリアの頭を撫でる。

フードをかぶってるからフード越しにだが。


「俺に良くしてくれてるおっちゃんの店先を汚してしまったから掃除をしなくちゃならないんだが、雑巾とか持ってないんだ。あとでアリアの服を買ってやるから、奴隷市場で着てた服を使っていいか?」


「…はい。」


さて、こんな街中でローブを脱がして服も脱がすのはいくら子どもといってもさすがにかわいそうだ。

だから仕方なくローブの中に手を突っ込んで服を破くことにした。


「あんちゃん。これ使ってくれ。」


俺がアリアと話をしている間におっちゃんはバケツに水を汲んで布まで持ってきてくれていた。

すげぇ迷惑をかけてしまった。


「悪い。すぐに綺麗にする。」


アリアのローブの中に突っ込んでた手を引き抜き、掃除を始める。


「気にするな。俺とあんちゃんの仲じゃねぇか。」


ふざけた調子で流してくれるおっちゃんはマジで男前だ。


「おっちゃん、重ね重ね悪いんだけど、この辺で消化の良さそうな飯を出してるところってないか?」


「消化の良さそうなものね…悪いが俺はガッツリ食えるものしかわからねぇわ。」


「そうか。ありがとな、おっちゃん。」


「おう!力になれなくて悪いな!」


そうしておっちゃんと別れた。



さて、どうするかな…。

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