第2話 誇り高きセカイ
ヒューズナイトと天とリンダは二日ほどかけてギラナダ王国に到着した。
当時のギラナダ王国は人族による完全統治国家であり、他種族を寄せ付けることなく優秀な人族のみでその国家を保っていた。
とはいえ、完全に人族のみでは国を守ることは不可能と判断した王国は特別措置として、最も優れた他種族を選別して民としてではなく騎士団の一員として加えていた。
そして、王国に入る他種族はいかなる理由があろうと検閲を義務づけられていた。ギラナダの王国の高い塀にある北の門でヒューズナイトと天は検閲を受ける。
リンダはヒューズナイトに言われ、天の体内にその身を隠していた。
門兵は慣れた様子でヒューズナイトに話しかける。
「ヒューズナイト様。此度はどのようなご用件でしょう?」
「あぁ。今回は騎士団の指導を国王に頼まれている。新しい団長の指導をとな。それと昔の仲間に会う予定だ」
ヒューズナイトは胸元から出した紙きれを差し出す。
「国王の書状ですか……。間違いないようですね。ですが、ヒューズナイト様。その少年も一緒ですか?」
門兵は汚い格好の天をじろじろと見つめる。
「彼は私の弟子のようなものだ。願わくば騎士団の訓練を見せておきたいと思っていてな。迷惑かな?」
「め、迷惑だなんてそんなことは。それではお通しします。国王もお待ちでしょう」
「すまないな。行くぞ。天」
ヒューズナイトは慣れた様子でギラナダ王国へ入国した。それに黙ってついて行く天。
――天様。ヒューズナイト様は偉いお方なんでしょうか?
――そんなこと知らねーよ……。
リンダは天に語りかけていた。契約した精霊はいつでも主の中へと入ることができる。そして、その繋がった心で会話をすることができた。
リンダを隠したのは闇の精霊を連れた少年。すなわち天の素性を隠すためだ。異世界者であることがバレないようにするため。当時はまだ得体のしれない存在は魔族の手の者として考えられていた。グロールで天が勘違いされたのもそのためだ。
周りを高い塀に囲まれたギラナダ王国の城下町は殺伐としていた。騎士団とみられる兵士たち。大通りを歩いているのは武装した冒険者たち。活気がない訳ではない。むしろ人は大勢いたものの、そのほとんどが全員武器を持っているため、これから戦争でも起きるのではないかと錯覚するほどだった。
「なぁ。おっちゃん。王国都市っていう割にはどこか物々しいな」
「ここ近年は魔族が増えてきているからな。時代が時代だけに仕方ないだろう。それより、これから一人の男に会ってもらうが……」
「な、なんだよ? 何か問題でもあるのか?」
「ふっ……。いや、ただ会ってくれればそれでいい」
二人が向かった先は大通りから離れたとある店だ。外観から何の店かはわからないほど派手な装飾が施されていた。ヒューズナイトはこれまた派手な色をしたドアを開ける。店の中にはカランカランと鐘の音が響く。
「よお。連れてきたぞ」
「いらっしゃーいっ」
店の中からは元気な女性の声が聞こえた。天はヒューズナイトと共に店の中に入った。五、六名は座れるであろうカウンターの前に立つ一人の美しい女性。その豊満な胸元を惜しげもなくさらけ出す色っぽい服。その後ろには大量の酒瓶や樽。見る限りでは酒場であろう。お洒落なバーといったところだ。
ヒューズナイトは慣れた様子でカウンターに座った。
「いつものをくれ。……どうした天? ここに座れ」
天は少し緊張した面持ちでヒューズナイトの隣に座る。
「かわいい坊やね。お酒はまだ早いかしら?」
「あまりからかうな。酒じゃないのを頼む」
「わかったわ。特別に美味しいのを作ってあげるわね」
女性はグラスも酒も用意することなく派手な色をした筆を取り出した。カウンターの上にその筆を走らせる。天はその様子を不思議そうに見ていた。そして、そこに二つのグラスが現れた。
「う、うわっ」
天は突然のことに驚き、声を上げる。
「色魔導は初めてかしら?」
「い、いろまどう?」
女性は笑いながらさらに何かを呟く。すると、現れたグラスに液体が湧いてきた。一つは茶色がかった黄金色の液体。もう一つはきれいなピンク色をした液体。女性はそれを二人の前に差し出した。
「はい。どうぞ」
ヒューズナイトは黄金色の液体を一口で飲み干す。女性はすぐに何かを呟いてグラスに同じ液体を注いだ。それとは対照的に天はグラスに注がれた液体の匂いを嗅ぐ。
「アメリ。騎士団の様子はどうだ?」
「ヒューズナイトったら。心配なら自分で面倒見てあげたら? 特に問題はないわ。ここのところ大きな事件もないしね」
「それならいい。お前の団は?」
「あたしのところは相変わらずよ。全然人が集まらないわ。大体、人族だけの編制なんて無理があるのよ。何度掛け合っても聞かないんだから。そういえば……獣人族の若い子があたしの団に入りたいって来てたらしいけどね」
「仕方ないだろ。ギラナダは多種族を良くは思っていない。別にどうでもいい話だがな」
「…………」
アメリは天の目の前でカウンターに肘と胸をつける。天の目の前には強調された二つの大きな胸。さすがに年頃の天には目の毒なのであろう。天は顔を赤くして下を向いた。
「恥ずかしがり屋さんなのね? 坊やが異世界者なんでしょ?」
「……お、お姉さんは知っているのか? 異世界者ってやつ……」
天は恥ずかしさをこらえ勇気を出して聞いた。だが、ヒューズナイトは大笑いする。
「あはははっ! 天。こいつのどこがお姉さんだ。ただの化物だろ」
「だ、誰が化物だっ! この頑固じじいっ!」
「なんだと……? 誰が頑固だって? お前は化物だろうがっ!」
ヒューズナイトは立ち上がり、剣を抜いた。
「お、おい……おっちゃん。お、女の人にそれはまずいだろ……」
アメリもまた、怒りの表情で先程の派手な筆を取り出す。
「ちょっ! お、お姉さんも落ち着いてっ!」
二人に天の声は届いてはいなかった。カウンターを挟んで睨み合う二人の目は本気だった。
――天様。ここは離れた方が……。二人とも殺意剥き出しです。巻き込まれる可能性があります。
――こ、こんな狭い所でやる気なのか?
アメリは静かに口を開いた。
「……店の中は汚されたくないわ。外でやりましょう?」
「あぁ。勝手にしろ」
ヒューズナイトの言葉にアメリはカウンターにちょんと筆を触れる。すると店は一瞬で姿を消し、そこは更地となった。天は突然の出来事に驚く。
「あ、あれ? ど、どうなってんだ?」
キョロキョロと周りを見渡すも建物はすでに無く、不自然にも両隣の建物はそこに点在していた。そんな天の横でお構いなしに二人はやり合っていた。ヒューズナイトは素早い動きでその巨大な剣を振り回す。容赦なく女性を狙っているものの。その剣は全て空を切る。アメリの動きが特別素早い訳でもない。だが、かすりもしなかった。ヒューズナイトは休むことなく攻撃を続ける。そして、その速さをどんどん上げていった。
「す、すげー……おっちゃん。さらに速くなってるじゃねーか」
――天様。あのアメリとかいう男性は魔力の使い方がお上手です。ほらっ。今のとかも。
「お、おいっ。リンダ……。何言ってる? あのお姉さんは女の人だろ?」
――天様ったら……。あの方は男性ですよ? もし女性であれば……私の天様を誘惑した罪で極刑ものです。
天は目を凝らしてアメリを見るもその姿はどう見ても女性にしか見えなかった。豊満な胸を揺らし、ヒューズナイトの剣筋をかわすその動きは見事であった。
そうこうしているうちにヒューズナイトの剣はアメリを捉え始めていた。衰えを知らない素早い動きはさらにスピードを増していく。
「お、おっちゃんって本当に凄いんだな……」
呆然としながらも天はその動きを目で追っていた。
そして、ヒューズナイトの剣はアメリの筆を真っ二つにした。
地に落ちる筆。それと共にアメリは屈強な男性の姿へと変わる。それを見た天は大声で叫ぶ。
「どどど、どうなってんだ? お、お姉さんが男になったぞっ!」
――だから言ったじゃないですか。あれがあの方の本来のお姿ですよ?
アメリはニヤリと笑って両手を挙げた。
「まいったわ。やっぱりヒューズナイトには勝てないわね」
「当たり前だ。魔力だけに頼り過ぎだ」
「そんなことより……せっかく新しくした筆をどうしてくれるのよっ!」
「そんなこと知るかっ。……たくっ。いつまでもそんな格好をしている方が悪い」
「人の趣味にケチをつけるなんて……心が狭いんだから」
天は話し込む二人を見て呆然としていた。
――天様。おそらくあの方は特殊な魔術であのお姿になっていたみたいです」
「と、特殊って……変わり過ぎだろ……」
アメリは天に手招きをする。それを見て恐る恐る近づいた。
「明日からあたしのところに仮入団することになったからよろしくね?」
「にゅ、入団って……。お、おっちゃん!」
「私から頼んでおいた。しばらくはアメリのところで世話になれ。こいつは化物だが、得るものはあるだろう」
「一言多いのよっ! ヒューズナイトっ!」
「…………。アメリ。天はお前に任せる。私は国王直属の騎士団の面倒を見ないといけないからな。その間だけでも頼む。ここでこいつの修行を止める訳にはいかないからな」
「任せておいてっ。坊やは私好みの男に仕上げてあげる……」
「本当に大丈夫か? 変な趣味を教えるなよ?―――」
―――――――――
翌日の早朝。二人が宿泊している宿に騎士団の馬車が停泊した。姿を現したのは女性の姿のアメリだ。ヒューズナイトは国王に招かれているとあって、王国の兵士たちと共にその馬車に乗り込んだ。
「おはよう。天君。今日からよろしくねっ」
「は、はいっ!」
天はアメリと共にある場所へ向かっていた。
「天君。王国の騎士団のことは知ってる?」
「い、いや。全然知らないけど……」
「まぁ、異世界者なら仕方ないか……。少し説明してあげるわ―――」
ギラナダ王国の騎士団の歴史は古い。とはいっても騎士団と名を変えたのはヒューズナイトがまだ冒険者だった頃だ。当時からギラナダ王国は閉鎖的で他種族と交わることはなかった。文化自体は発展を遂げていくも自らの魔術に頼るしか人族は身を守る術を持たず、王国はルメールから優秀な魔道士を雇い、モンスターや魔族から身を守っていた。
ギラナダ王国が他種族を近づけない理由は人族への反乱を恐れた結果だ。力や能力では人族は他種族に劣っていたために交わることを拒絶していた。
その中でも獣人族は身体能力が特化しており、自らの姿の獣の能力も使える。王国にとってそれは驚異であり、一つの不安要素でもあった。
それを決定付けたのはヒューズナイトのパーティーがドラゴン討伐に成功したと王国に知らせが届いたことが挙げられる。
◆◆◆
大臣は声を震わせ、国王へ伝えた。
「こ、国王様。じゅ、獣人族が北の地に住まうドラゴンを倒したと……」
「ふむ……。よりによって北の……。獣人族とはかように強いものなのか?」
「はっ。彼らは常人ならざる素早さと力を兼ね備えているとか……」
「そうか……。なぜ神は種を生んだのであろうな……」
国王の嘆きは五神への猜疑心を蘇らせた。人族のみによる統治の原因は五神の一人、アグニッチがギラナダ王国で暴れていたのが大きな要因であった。何が原因かすらわからずに街や城の一部が破壊されるのを黙って見ているしかなかった。圧倒的魔力に加えてアグニッチは自身の命の源である火の精霊を共に連れている。破壊された王国。果ては燃やし尽くされた。
抵抗すらできずに王国は灰の街と化したのだ。その時の被害は多少の犠牲者ではあったが次に同じことが起きた場合のことを考え、国王は学者や高名な魔導士。様々な分野のエキスパートを集め、対策を練った。
「何か意見のある者は申せ。これは人族の繁栄のためであり、ギラナダ王国。い
や……この世界の繁栄のためでもある……」
国王は集めた者たちに宣言をした。だが、国王の思惑通りには事は進まなかった。集まった者たちは自らの立場や権力を擁護するような意見しか出さず、それのどれをとっても解決に導く答えではなかった。
「国王様……。よろしいでしょうか?」
「うむ。意見を申してみよ」
皆が一同に曖昧な意見を述べる中、一人の男が核心めいた意見を述べた。その男は王国と共に寄り添い、王国のために自らの家中を犠牲にしているシュタイン家の男だった。
「私には結論ありきの決断に蓋をされては話にもならないと思います。彼らも事情はおありのようです。そこで国王。彼らの胸の内は全て覗いております。これから話すのはここにいる皆の意見としてお聞き願いたい。皆もよろしいかな?」
皆は落ち着かない様子を見せるも一同に首を縦に振った。
「では、国王。はっきりと申し上げます。このギラナダを守るためにはもはや他種族と手を組むより他はないでしょう。ここいらで王国の方針の転換をお決めなされよ」
「…………だが、民が納得するかどうか……」
「急にそれを行うのはさすがに無理があります。ですが―――」
ボーンシュタイン。彼は一族の中でもその力が強く、若くして王国のお抱えとして登用されていたシュタイン家の者。
その彼が提案したのは王国専属の冒険者集団。つまりは騎士団の礎とされた王国が管理する冒険者たちを一つにまとめるというものであった。ボーンシュタインはその集団に人族以外の種を率いれることを提案した。あくまでも人族の管理の下として。
国王はそれをやむを得ず承諾。そして、その決断は閉鎖的なギラナダ王国にとってまさに転換期となった。
◆◆◆
「要するに騎士団はヒューズナイトが作ったってことよ」
「おっちゃんが? で、でも……もともとは王国の管理下なんだろ?」
「バカねぇ……。ヒューズナイトがあたしら人族なんかに負けると思う?」
◆◆◆
王国の城門前に集められた若き精鋭たち。王国の兵士の他、集まった冒険者。そのほとんどが人族であり、闘志を剥き出しにして勇ましい姿で立ち並んでいた。
その後ろに一際大きな剣を背負った若き日のヒューズナイトが退屈そうにあくびをしていた。国王の登場にもひょうひょうとした様子を見せる。
「皆の者。よくぞギラナダ王国のために集まってくれた。王国を代表して礼を言う」
国王の言葉にそこにいた全員が胸に手を当て、頭を垂れた。ただ一人を除いて。
「そこの獣人族! 国王に頭を下げよっ!」
国王の隣にいた大臣が大声で叫ぶ。だが、ヒューズナイトは態度を変えなかった。そして、不敵な笑みを浮かべ、口を開いた。
「この世界は強い者が一番偉いんだよ。それを証明するためにここにいる全員倒してやろうか?」
ヒューズナイトの一言によって殺気立つ城門前。そして、その言葉にうろたえる大臣。そこに一人の屈強な男がヒューズナイトの前に立った。
「お前さっきから目障りなんだよ。犬ころがキャンキャン吠えるなっ!」
ヒューズナイトを見下ろした男は王国の兵士団長。ギラナダ王国のために仕え、国王に心服している彼は腰の剣を抜いた。
「全員倒せると言うならまずは俺を倒してみろ。その背中の剣は飾りか? 抜けっ!」
ヒューズナイトは一つため息をついて自らの手を差し出した。それはまさに獣の手。毛深い指の先から鋭い黒い爪を伸ばした。
「お前ごときにこの剣を抜くつもりはない。この爪で十分だ」
「き、貴様……。国王! 大臣! 国王への侮辱は死罪です! この男をこの場で処刑する許可をっ!」
国王は何も言わずヒューズナイトを見つめていた。大臣がすかさず団長に言い放った。
「その獣人族を処刑しろっ! イスタミナル団長っ!」
ギラナダ王国兵士団長のイスタミナルはすかさず剣を振り下ろした。だが、ヒューズナイトはその場から姿を消した。慌てるイスタミナル。周りにいるものも何が起きたのかわからずに戸惑っていた。あたりを見回すイスタミナルは高笑いをし始める。
「ふっ……ふはははっ。逃げたぞ! 死罪を恐れて逃げたのだっ!」
自らの剣を高々と上げるイスタミナルは何か違和感を感じて下を見下ろすと五本の指が腹部に突き刺さっていた。もちろん、ヒューズナイトの指だ。突如として姿を消し、忽然と現れたヒューズナイトはゆっくりとその指先を抜いた。
「遅いんだよ。死にたいのなら止めを刺すぞ?」
「き、貴様っ!」
イスタミナルはそのまま剣を振り下ろした。だがヒューズナイトはイスタミナルの手首を掴んでその動きを止める。その力の差は圧倒的だった。片手で掴まれた手を動かそうとするも微動だにしなかった。
「ぬ、ぬぐぐ……」
「もう諦めろ。実力は明らかだろう。それにしても人族とはここまで弱いものなのか?」
それを見ていた一人の魔導士が小声で詠唱を始めるとイスタミナルの影から無数の手が現れる。その手はヒューズナイトの足を掴んだ。
「ちっ!」
ヒューズナイトはそれを振り払うように空高く飛び跳ねた。それを見た魔導士はさらに詠唱を始める。現れたのは魔方陣。ヒューズナイトの頭上に現れた魔方陣は檻に姿を変える。当然、ヒューズナイトは閉じ込められ、檻は空中で静止していた。
「王国の掟は絶対よ? あなたが強いのは認めるけど……団を組む以上はルールは守ってもらうわよ?」
ヒューズナイトは檻の中からその女性を睨みつける。
「私は王国のものではない。誇り高きグロールの獣人族。イナビ神の子だっ!」
ヒューズナイトは素早く背中の剣を抜き、目に見えぬ剣さばきでその檻を破壊した。
「あら? 獣人族のくせに恐ろしい魔力ね? それにそんな太くて固そうな大きいものを出しちゃうなんて……たまらないわ……」
「なんという卑猥なことを。イナビ神の加護を受けたこの力を受けるがよいっ!」
ヒューズナイトは檻から飛び出した勢いでその魔導士めがけて勢いよく降下した。
その時、ずっと沈黙を保っていた国王が口を開いた。
「そこまでだっ!―――」
その声の威圧にヒューズナイトは剣を止めた。決して声が大きかった訳でもない。ヒューズナイトは直感的にそれを止めた。もちろん、その魔導士も詠唱を止めていた。
国王はヒューズナイトを見つめ、語りかける。
「獣人族の誇りを侮辱してすまなかった。だが、人族にもこれまでの経緯もあり、相応の定め事があるのだ。これは人族のみならず、この世界のためでもある……」
国王の言葉にその場は静まり返った。
だが、ここでヒューズナイトが取った行動はその静けさを暴動にでも変えるもの
でもあった。
「ギラナダの国王よ。主らが人族を中心に考えてる時点でこの世界は終止符を迎えるであろう。何故、自らの弱さを認めないのだ。人族のみで五神に立ち向かえるとでも本気で思っているのかっ」
あろうことかヒューズナイトは国王に牙を剥いた。だが、国王はその言葉に笑みを浮かべる。
「認めたからこそお前を呼んだのだ……」
「なるほど。私がここに来るように仕向けたのは国王だったか……」
国王は手を目の前に突き出す。それを見た集まった者たちは一斉に整列をする。
「皆の者よ。これより……ギラナダの守護をヒューズナイトを筆頭として徒党を組んでもらう。ふむ……そうだな。ヒューズナイトのナイトの名を借り、これを騎士団と命名するっ!」
国王の突然の発言に周りはざわつく。当然のように大臣は国王に物申した。
「こ、ここ国王……。それはさすがに……あやつは死罪を受けた者でして……その……なんというか」
「大臣よ。その死罪をこの私が許可したか?」
「い、いえ……」
「ここにいる誰もあいつには勝てぬ。強い者が偉い訳ではないが、強い者がこの世界を救うのだ。そして。救った者が偉いということだ。見てみたいものだな。あの男が神を倒す瞬間をな……」
「こ、国王の仰せのままに……」
国王はヒューズナイトに向かって言い放った。
「先程の答えを申そう。人族の知恵。獣人族の能力。それが一体となれば五神などたやすいであろう。どうだ? 私の考えは間違っているか?」
ヒューズナイトは笑みを浮かべた。
「いや……。国王が今の現状を認めたのなら問題はない。我ら獣人族も口にはせずともずっと望んでいたことだ。だが、知恵と言っても国王以外は馬鹿が多いようだ。そこはどうする?」
「ふっ……。言ってくれるものだな。知恵ならそこの魔導士が持っているだろう。お前の名を申せ」
国王は先程、ヒューズナイトと一線を交えた魔導士の女性に目を向ける。
「はっ! あたしの名はアメリアナギガントと申しますっ」
その名を聞いた国王は少し溜めをつくり、口を開いた。
「ふむ……。お前の魔術には素晴らしい発想と実力がある。どうだ? ヒューズナイトと共に王国を守ってくれぬか?」
「もったいないお言葉でございます。是非ともそのお役目を!」
アメリアナギガント。その女性。いや、見た目が女性といっておこう。それは若き日のアメリであった。彼は国王に認められた喜びとヒューズナイトの真の実力を見極めてそれを承諾した。
かくして、ヒューズナイトの無作法ぶりによって騎士団は誕生し、ギラナダ王国は新しく生まれ変わった。
国王はヒューズナイトとアメリを気に入り、騎士団と魔導騎士団を設立。
二つの騎士団は国王が思っていたよりもその実力をいかんなく発揮し、成果を出していた。
互いはぶつかり合いながらも共に成長し、ギラナダ王国はもちろんのこと、グロール。ニースやルメールに出向いては魔族やモンスターを討伐し、ギラナダ王国。騎士団の名を轟かせていった。
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