町への潜入
町の周囲は切り立った崖になっていて、関所以外からは出入りが困難に見えた。
アルヒやタラサでは木材で作られた建物が中心だったが、ここでは石材で作られた建物が並んでいる。
緑や橙など、色とりどりの民族衣装のような服を身につけた人たちが通りを行き交っていた。一見した感じではモンスターの支配があるとは考えられなかった。
「俺たちの服装は目立つから表通りを歩くのはやめない?」
「たしかにそうですね。人通りの少ない道を選びましょうか」
俺とメリルは方向転換して、移動を開始した。
中心の通りを離れるだけで、通行人の数はずいぶん減っている。
周囲を観察していると、ところどころに露天商の姿が目に入った。
「町の真ん中に比べると治安が悪そうだ」
「モンスターの姿は見えませんが、雰囲気がいいとは言えなそうですね」
メリルは固い表情になっていた。
辺りの様子を警戒しているのだろう。
視線を受けるのを感じながら裏通りを歩いた。
見慣れない格好の俺たちを物珍しく思っているようだが、特に危害を加えてこようとする様子は見られなかった。
露店では食べ物や雑貨のような物が並べられ、買い物客がちらほら目に入る。
日常的な光景に見えるものの、彼らのほとんどが訝しげな視線を向けてきた。
「……早く通りすぎましょう」
「そうだね」
俺たちは裏通りを抜けて歩き続けると、人気のまばらな高台についた。
あえてたずねることはなかったが、メリルはどこに行くべきか定まらないようで、漠然と道なりに歩いているような雰囲気だった。
「この町にも組織の仲間が潜伏しているはずなのですが、人口が多いところなので見つけるには時間がかかりそうです」
メリルの言葉から戸惑いを感じた。
ここからは町の様子を見渡すことができるが、建物の数が膨大で一軒一軒回るのは現実的とは言いがたい。合流するのは至難の業だろう。
「仲間同士で連絡を取れる手段があればいいのにね」
「……連絡ですか?」
彼女はよく分からないといった様子で、不思議そうな顔をしていた。
ウィリデやフォンスほど文明が栄えていないので、そのような手段は存在しないのかもしれない。
「いや、何でもない。忘れて」
俺は曖昧に笑みを浮かべて、気まずさから逃れようとした。
――とその直後だった。
どこかで爆発音がして、複数の悲鳴や叫び声が聞こえてきた。
「――カナタさん」
「ああっ、行こう」
俺たちは高台を離れて、音のした方へ走り出した。
最初は大まかな方向しか分からなかったが、煙が上がり始めたのでその方角に向かった。
「戦いが始まったぞ!!」
「早く逃げなきゃ!!」
多数の通行人がこちらに向かって逃げてくるので上手く進めない。
ほとんどの人たちがパニックになっていて、勢いで弾き飛ばされそうだった。
俺とメリルは人通りの少ない道を選びながら、急いで目的地に向かった。
やがて、それらしき現場に到着すると、すでに戦闘が始まっていた。
「メリル、これは……」
「はい、始まりの青の仲間とモンスターが交戦中です」
複数の戦士がモンスターと戦っているが、彼らがメリルの仲間なのだろう。
すでに負傷者が出ており、モンスターの死体やケガ人が見受けられた。
「わたしたちも戦いましょう!」
「ああっ、もちろん」
俺はマナの密度を高めながら、右手に意識を集中した。
「――危ない!」
一体のコボルトが剣を振り下ろしてきたところで、メリルが割って入るようにして攻撃を防いだ。
反撃のためにすぐさま氷魔術を放つと氷漬けにすることに成功した。
他にも敵は大勢いて、こちらに向かってくるモンスターが視界に入っている。
「これは気が抜けそうにないね」
「何とか切り抜けましょう」
俺とメリルは二人で連携するようなかたちで迎撃体制に入った。
獲物を見つけた獣のようにモンスターが迫ってくる。
戦いの最中で冷静さを失うとどうなるかは、カルマンとの戦いで教えられた。
肌の上を冷たい何かがつたうのを感じながら、魔術の発動に意識を傾けた。
メリルや友軍を巻きこまないためには、出力を抑える必要がある。
まずは各個撃破するつもりで戦わなければならない。
そうこうするうちに、近くにきたゴブリンとメリルが剣を交えた。
続けてその間に、他のモンスターが接近している。
まずは彼女の援護をしなければと狙いを定めていると、数秒後にゴブリンがその場で崩れ落ちた。
「やりました!」
「まだ来るよ、油断しないで」
「――はい!」
今度は突進してくるオークに狙いを定めて火球を放った。
直撃すると短い悲鳴を上げて、そのまま倒れ込んだ。
俺とメリルは同じ場所で戦闘を繰り返した。
何体か連続して倒したものの、まだまだ敵がいる。
「このままではキリがないな」
「今までとは比べものになりませんね」
次第にモンスターを追い払うまで戦う決意が固まってきた。
長い戦いになりそうだった。
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