Notice a Monster

大所帯で基地……と言っても民間人も大量に住んでいるこの防衛拠点では、当然民間人の生活の為のスーパーや娯楽施設などが山ほどある。当然って言うのも、元々こんなご時世だし娯楽は必要ないだとか、食料は栄養になるものを固めた固形物でいいだとか色々と意見があったが、結果暴動の危険性や不満の爆発による自殺、離脱などが起きたためだ。俺から言わせりゃ最初に気づけよって思うけどな。


「ねぇねぇ!これとか欲しくない!?」


ツーが俺に見せてきたのはねずみのヌイグルミとねこのヌイグルミだ。その二つは昔やっていたアニメを想像させるが、それももう遠い過去のように思えた。ねずみの顔は少し馬鹿っぽくて可愛らしかった。ねこの顔はどうにも締まらない顔で何故かキス顔をしていた。どういう意図の人形なんだこいつらは?


「あ~いいんじゃねえの。娯楽も必要だしな」

「やった!」


そう言って俺のカゴに人形を放り込まれる。……これ俺が買うことになるのか。まぁ、別に大した出費じゃないし金は有り余ってる。いつ死ぬかも分からない世界だと言うのに金はたまる一方だ。金と言ってもこの拠点でしか使えないし価値もないトークンのような物だ。隣の店ではバカップル達が何やら話してるのが聞こえる。


「ササちゃん。これとか着てほしいんだけど、どう?絶対似合うと思うけどな~オレ」

「……うん。かわいい。これ着て、がんばる」


いったいナニを頑張るんですかねぇ?うらやまけしからん事で、ほんと。

他人の日常に首を突っ込むつもりはあまりないし、好きにやってくれていいとは思う。他の連中はどんなものを買ってるんだ?


「酒だ酒だ酒だ!ワシは酒を飲むんじゃ!」

「チョコ!スナック!アニメ!チョコ!スナック!アニメ!」


な~にやってるだあいつらは。冷蔵庫に入れるものだって言ってんだろ!ソレ即ち食料だよ!食料!!酒とチョコとスナックをカゴいっぱいに入れるな!もうあいつらはダメだ。あと残ってるのは最後の良心ことクソガキのニルだけだ。頼む。


「……」


何やら鍋の材料を買ってるようだった。もくもくと野菜を見比べたり肉を見比べたりしてカゴに入れていくが、重くなってきているのかヨタヨタとし始めた。俺はその姿にうんざりして側に行く。


「おい、ニル。俺が持ってやるから買うものはお前が選べ。他の馬鹿どもがまともに食料を買ってないせいでお前だけが頼りだ。頼むぞ」

「うん……」


クソガキはそれ以上喋らず、ツーと俺の会話をただ聞くのみだった。ツーはひたすら鍋の具材に入れてほしいものだったり、好きな味付けだったりを一人でぺちゃくちゃと喋っていた。すぐ俺に会話を促してきて普通にうざい。


「やっぱ寒いときには鍋!そして閉めには麺類!雑炊もありだけどやっぱり麺類がいいよね~?ねぇねぇ!、ヤクはどう思う?ヤクはむしろ何が好きなの!?」

「んあ~?俺はそうだなぁ、ミルフィーユ鍋だったり辛くない鍋なら何でも好きだな」

「へぇ~何か以外。こんな話乗らないと思ったのに」

「お前が答えるまで言ってるからだろ!?」

「あはは~」


ほんとこいつは面倒くさい!何を言ってもヒラヒラとまともに話を受けようとしねぇ!もういいよ。早く帰ってのんびりとしたいわ。やりかけのゲームもあるしな。

あらかた食料選びも終わりレジで会計を済ませて袋に詰めていると、ニルがボソッと言った。


「ニル、物持てます」


小さい手を伸ばしてくるがとても何かが持てる力があるとも思えなかった。

俺はわざと小さい袋に肉や野菜を少し詰めてやり手渡してやると、満足そうに頷いて俺を待たずにスタスタと帰って行った。


「ふ~ん?案外優しいところあるんだ?」

「なーにがだよ。ニルがやりたいって言うんだ。やらせただけのことだろ」

「……」


そう言うとツーは黙って袋詰めを手伝う。優しさなんて本当になかった。ただ、やりたいと言うならやればいいと思っただけだ。


「よし、こんなもんか?行くぞ」

「は~い」


部屋につくとニルが荷物を冷蔵庫に詰め込んでいた。それにしてもこの冷蔵庫デカすぎないか?俺ですら脚立がないと一番上に手が届かないぞ。3メートルぐらいあるんじゃないか?6人用にしても大きすぎる気がするんだが……。


「ニル、どけ。後は俺がやっておく。お前に指示を出す。ここは使い捨てのある宿舎に少し手を加えただけの場所だ。まだ荷物もほとんど設置されていないからお前が手配し、掃除なども粗方終わらせろ。行け!」

「分かりました隊長」


俺の目をみてそう言うと、ニルは荷物を置いて俺に頭を下げ走っていく。

面倒なこと押し付けられてラッキー!とニマニマしながら荷物を入れていく。

ツーが俺の側に荷物を置いて声をかけてくる。


「小さい子に対しての意味のない優しさは偽善?」


ゾクッとした。触手に体を舐めまわされるような感覚。体が強張る。汗が噴き出る。


「その優しさが部隊を殺した理由?それとも……」

「違う」


感覚が研ぎ澄まされる。強張った体が蘇る。触手に絡めとられたような感覚が少し和らぐ。


「俺がしたことは偽善なんて生易しいものじゃない。俺は俺の正義を貫き通しただけだ。あの感染型の化け物に感染したら元には戻れない。人間のまま俺は殺したかっただけだ。あいつらの為じゃない。お前も知ってるはずだろ【化け物】」

「ふふっ……そうかもね。でも、君の表情はそうは言ってなかったと思うけどね。まぁ、今はそういうことにしておいてあげる。ふぁぁ、私は眠いからもう一眠りしてこよ~っと」


スッと絡まれたような感覚をした体から何かが遠ざかる。あれがあいつの力なのか?

ツーはどうにも俺を値踏みしてるように感じる。あの女狐から何か命令されているのか?あの時の事件で俺を揺さぶろうとしやがって……クソッ。


それから数十分かけて冷蔵庫に物を入れて、コンセントを刺して電気を通す。

ブーンと言った音をたて、冷蔵庫は中身を冷やしていく。

それを確認して朝飯の残骸をでかいゴミ箱に放り込み蓋をする。

手を洗ってる最中に買い物遅れ組の3人が帰ってきた。


「おっ?リーダー、朝飯片付けてくれたんっすね。ありがとっす。オレ達は保存食と、皆の服とか買ってきたっすよ」

「……リーダーの、好み分からなかったから。……適当だけど」

「ワシは酒じゃ!酒!お前さん達がどんなもの飲むか分からなかったんで適当に買ったんじゃが大丈夫じゃろ!そこらへん置いとくぞ」


何だかんだで馬鹿じじい以外は色々と考えて買ってきてくれたらしい。馬鹿じじい以外。


「あぁ、助かった。保存食の事は頭に入れてなかったな。前までは会社が用意したものを持っていくシステムだったしな。俺の昔の仲間が教えてくれた美味い保存食の作り方があるんだ。後でお前らにも教えてやるよ」


【昔の仲間】その発言を聞いて全員の顔が強張るが俺がお構いもせず話す。俺のことにしろ自分の事にしろ聞かれたくない、今はまだ割り切れない事もあるんだろうが、俺をリーダーにした時点でそこを考慮するつもりはない。


「そこら辺において、お前らはニルと一緒に掃除と部屋に割り振りでも考えといてくれ。今のところツーが勝手に決めたツーの部屋以外に部屋割りが決まってねえんだ。

夕飯は俺が作るから昼飯は出前でも取ってくれ」


込み入った話が出ないことに安堵した顔をした3人は各々返事をして、荷物を冷蔵庫に側に置くと朝飯を片付けて綺麗になった会議机で部屋割りを話し始めた。それから1時間後ほどでニルが帰ってきた。


「隊長。これ」

「ご苦労。お前は今日はもうゆっくりしておけ。指示があればまた言う」

「はい、隊長」


そう言うと3人が話し合ってる場にちょこんと座りジッと3人の会話を聞いて頷いたりしていた。あまり口数は多くないが受け答えはしっかりしてるし、適応力も悪くないんだよなぁ、クソガキ。手渡された紙を見てみると、業者の来る時間や掃除の所要時間などが書かれていた。中々に手際が良い。


数分後、紙に書かれていた通りに業者が来たため掃除やなかった家具の設置などを任せる。俺達を見る目はどれも蔑みの眼差しで、仕事を早く終わらせて出ていきたいと言う気持ちがヒシヒシと伝わってくる。が、全員慣れっこな為特に気にもせず部屋割りなどを決めていた。俺はどこでもいいので本を読んでいる。


2,3時間後、業者のリーダーが終わったことを俺に告げそのまま部屋を後にする。

最初の埃まみれの部屋が見る影もないぐらい綺麗になっており、キッチンに風呂やトイレなども新品が設置されていて気分が良い。それは他の4人も思っているのか心なしか澄んだ顔をしていた。


部屋割りも決め終えたようで、各自決めた自分の好みの部屋へと自分の荷物を運び入れているようだった。俺も決められた部屋に行き荷物を片付け始めた。箱に詰め込んでいた荷物が半分近くなくなったところで部屋のドアが勢いよく開かれる。


「逢引きにきました!」

「きてないきてない」


言うまでもなくツーだ。アホみたいな事を言いながらズカズカと部屋に侵入してくる。こいつほんと遠慮ないな。


「もぉ~~~ツレナイ!ツレナイよぉ~~。お・ね・が・い!」

「分かった分かった。それよりも馬鹿な事言ってないで暇なら手伝え」

「は~い」


やけに素直に俺の荷物を丁寧に俺の指示通り置いてくれた。たまには役に立つな。

箱に詰めていた荷物が完全に片付き座ったり立ったりをを繰り返して痛めた腰をさすりながら部屋を見渡すと中々良い感じに仕上がったと思われる。


「ふ~ん。中々いい感じの部屋になったね」

「まぁ、部屋にあった荷物並べ替えただけみたいになってるけどな。俺からしたら」

「じゃ!やろっか!!」

「ちょっ!おま、待て待て!脱がそうとするな!うおあああああ!」


俺の処女が奪われそうになっている現場に似つかわしくない丁寧なノック。


「は~い」


何故か部屋主でもない馬鹿女の返事。


「あのぉ……リーダー、夜食用のお菓子とか暇つぶしのアニメとかって、きゃああああ!!!ななななな、何!?何してるんですか!?え?これは夢?幻?」

「助けろ!トロ女!!犯される!!!!」

「最初だけだから!痛いのは最初だけ!後は気持ちよくなるから!!」


騒がしい一日はまだまだ続く……。

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