第27話
俺たちは、これからどこに向かえば良いのか。
考えかねていると、長門がやって来た。
「……佐々木さんを探すべき。そして、SOS団と佐々木さんたちがそれぞれが涼宮ハルヒを探せば最小限の労力で済む」
なるほどな、と俺は感心した。
まあ、佐々木の閉鎖空間でもあるはずの超異界に佐々木がいるかは分からないが、もし見つからなくても人数は十分にいる。
ダメで元々。探せるだけ探してみれば良い。
「あ、でも朝比奈さんは牧場にいるから微妙に人手が……」
おれがそう言うと、タイミング良く朝比奈さんがやって来た。
「わ~い、キョンくーん」
やれやれ。
心強いのか心配の種なのか、それが問題だ。
☆
朝比奈さんと合流した俺たちは佐々木を探すべく、まずは港町で情報を集めた。
「いやあ、それにしてもよく俺たちがここにいるって分かりましたね」
俺がそう言うと、朝比奈さんはニパっと笑顔になり、
「禁則事項です♪」
と聞きなれた言葉で返した。
未来じゃなく未来牧場なのに、禁則事項ってなんなんだろうな?
まあ、朝比奈さんだから許せるような気もするけど。
港町での聞き込みでさっぱり収穫がなかった俺たちだが、藤原が「行きたい場所がある」というので、とりあえずそこに向かうことにした。
☆
山だ。
なんつーか、藤原に案内されてやって来たのは富士山並みの霊峰だ。
「明らかに標高、高くねえか?」
俺が戦慄の様相を呈すると、古泉がいつもの澄まし顔だ。
「んふ。こう言った山は五合目からが本番ですよ?」
それは富士山そのものの常識だ。
いや、明らかに頂上には雪が積もってるし、まさかのリアル富士山を異世界に再現したのか?
「――登山――期待」
何に期待してるんだ、九曜。
飛べよ。飛べるんだから登山してないで飛んで佐々木を探してほしい。
とにかく、藤原がどこかで買ってきた登山ファッションに身を包んだ俺たちは、やって来た登山バスに乗り五合目に向かった。
☆
いや、富士山だよな?
バスが五合目に向かうって、少なくとも日本国内では圧倒的なまでの富士山あるあるだろ。
まあ、これはこれでいいか。
何しろ、ワニとか巨大な牛とかとは無縁の平和な山登り。
俺が超異界に来て何日経過したか分からないが、なるようにしかならない以上はせめて富士山くらいは大いに満喫しておきたいという考え方もある。
「なあ、藤原。佐々木がここにいるんだよな。どの辺りだ?」
俺は藤原に、当たり前とも言える質問をした。
「えっ。佐々木がいるのか、ここに?」
あれ?
話が噛み合わない。
おかしい。佐々木を探す文脈で行きたい所なんて、佐々木がいる所以外にどこかあるのか?
☆
「いやあ、でもほら、こんなに神っぽい山には佐々木がいても不思議じゃないから……さ?」
いやいや、「さ?」ではごまかせてないぞ。
それにその理屈では、しょっちゅう佐々木が富士山にいるかのような富士山の住人説になるわけだが、藤原の思考回路は無事なのか?
まあ厳密には富士山(仮)だけど、余計に佐々木がいるかどうか不安になってきた。
「そもそもで言えば、佐々木さんを探すのを手分けするべきだったかもね」
朝倉。それはそうだが、ふもとでちゃっかり購入したポテトスナック菓子を頬張りながらはマナーが悪いぞ。
「あ、それを言うなら、アタシや九曜さんが飛んで捜索すれば良かったのか!」
気付いてなかったのか。
なんとなく強キャラな二人だから何か考えがあるのかと遠慮していた俺って一体。
☆
「よし、五合目に着いたぞ。みんな」
リーダーでもなんでもないが、勇者風味だからと俺が率先してそんな風に声をかけた。
バスを降りると、そこからは超異界の展望を満喫出来た。
意外と風情があり、この世界に住み慣れた者には悪くない気分転換になるかもしれない。
「高い山なのですね」
橘はそう言いながら仕切りに駆け寄った。
超異界の住民は富士山を知らないのかもしれない。まあ、超異界だからな。
橘はそこから景色を愉しみ、他の者たちは土産物の店にそそくさと入っていった。
「ったく、どいつもこいつも旅行気分だな」
とは言っても、見つかるかどうか分からない佐々木をあんまり深刻な気持ちで探すのも気が滅入るしな。
みんなが適当な方が、少なくとも気は楽だ。
☆
「そろそろ登りますか」
俺たちは富士山(仮)を登り始めた。
なんとなくだ。
でもまあ、佐々木がいそうな所なんて俺にも分からないのだから、見つけたいなら動いていくしかない。
余りに非効率だとしても、人生にはそんな一面がある。
「鬼が出るか、蛇が出るかですね」
確かに何が出てきてもおかしくない、自然の厳しさを備えている光景だ。
旅慣れた者や純粋な子どもには楽園に、無理に登らされる者や反自然主義には地獄に見えるだろう。
(どこまで行っても、見える景色なんて人それぞれだ)
俺たちは若いからまだ大丈夫だけど、年老いてくると日ごとに同じ景色が違って見えるらしい。
☆
「ひいっ、ひいっ、ふうっ」
すっかりラマーズ法で呼吸する人と化した朝比奈さんだ。
ラマーズ法は確かに効果的に力を込める呼吸法だが、朝比奈さんはおそらくそこまでしか知らないのだろう。
(ん? でももしかして、これは……)
俺たちが団活で訪れたアスレチック・コース。
そこでの朝比奈さんも、確かラマーズ法を勘違いしていたような気がする。
「ハルヒのやつ、あの辺りから見てたんだな」
おそらくは、そう言うことなんだろう。
だからこの世界の朝比奈さんもラマーズ法の人なのだ。
なんのこっちゃと言いたいが、つまりハルヒは俺に……。
☆
「さあ、七合目が見えて来ましたよ」
古泉が異常なまでに爽やかに、七合目到着をみんなに告げた。
ま、頂上を制覇とかでもないから疲れはないが、もう少し厚着でも良かったかなと思えるほどに冷え込んでは来た。
売店があるようだが、五合目よりかは幾らか小さめだ。
だからか、藤原が足を踏み入れる以外は、ある者は売店のすぐ外に備え付けられたテーブルに腰を下ろし、またある者はなんとなくそこらをぶらぶらとした。
「全然いないな、佐々木」
「――発見――予感」
なんで九曜に振ったのかは俺自身にも分からないけど、九曜はどうやらここに佐々木がいると考えているらしい。
☆
「ただ、佐々木さんはあなたに会いたくないでしょうね」
古泉はどこかで聞いたようなセリフを俺に向けた。
「ああ、そうかもな。でも今の俺はアイツから直接、それを聞いた俺だ。だから、きっと大丈夫なんじゃないかって思う」
この世界に来る直前のほんのわずかな時間ではあるが、確かに俺は佐々木やハルヒが俺に会いたくないという事実を改めて知った。
そしてこれは、あくまで一般論だけど「知っている」という事は「知らない」という状態よりも成長しているって事だ。
だからって、会いたくないなんて知った俺が成長したかは分からないけどな。
「大丈夫だよな、佐々木……?」
うん。我ながら、やっぱり少し不安だ。
☆
「最悪の事態は、佐々木がアンタの敵になることだ」
売店から出てきた藤原は、まるで俺たちの会話を全て聞いていたかのように、そう言った。
「佐々木が、俺たちの?」
「いいや。アンタの、だ。もし佐々木がアンタの敵になるなら、俺たちもアンタの味方をするわけには、いかないと思ってくれ」
あくまでも俺だけに対する佐々木の決断を言っていると強調した上で、つまりこの世界でも藤原は佐々木のがわに付くのだろう。
「なんだか主体性に欠けるな。アンタ」
俺は皮肉を言ってやったが、橘も九曜もきっと俺を睨んだ。
どうやら佐々木の団は、こちらでも健在というのが真実らしい。
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