第2話 探偵事務所
「先輩がいなくなった?」
依頼人の話を聞いていたキリが叫ぶ。依頼人はびくっと肩を跳ねさせてから、静かにうなづいた。
薄暗いガクト探偵事務所に依頼人がやってきたのが十分前。学ランに身を包んだ彼は所在なさげにソファーに座っていた。久しぶりの依頼に浮き足立つキリがお茶を出すと、彼は一口飲んでゆっくりと語り始めた。
部室から一つ上の先輩がいなくなったのだと。
ペンを持っていたガクトは自身の汚い文字を見ながらゆっくりと口を開く。
「先輩はそれ以来見てないのです?」
「いや、一時間後にはいました」
ころりと主張を変える依頼主。キリが首をかしげた。依頼主は言葉を続ける。
駒山高校に通う依頼主は文芸部所属。先輩と二人だけの部活だ。
ある日、部室で話していると先輩が「喉乾いた」と騒ぎ始めた。そこでじゃんけんをし、負けた依頼主は自販機でお茶を買ってくることとなった。
駒山高校の部室等は各階に自動販売機がある。依頼主は部室を出て、三階にある自動販売機でお茶を二本買った。
そして部室に戻ると先輩がいなくなっていた。
「多分、一分もかかってないと思うんですよ」
しかも部室等は一本廊下が通っており、部室の扉は廊下側に開く。鉄の扉は重く、軋むらしい。
「それだけなら、窓から飛び降りた可能性もあるんです。アグレッシブな先輩ですし、いつだって僕を驚かせようとするから」
唇を尖らせる依頼主。けれどまんざらでもなさそうな色がうかがえた。
「そのあと、お茶を飲み終えてしまって、自販機横のごみ箱に捨てに行ったんです」
部室を出て、三階の自販機へ。ゴミ箱にペットボトルを差し込んで、部室に戻ると。
「先輩がいたんです」
やほーと手を振る先輩。涼しげな表情で、いつも通り、いたずらめいた笑みを浮かべていたという。
話を聞き終えて、ガクトは書き取ったメモを見る。自身でも解読できない線にペンを放り投げた。
キリはむふーと息を吐きだした。事務所の天井を眺めて、「んんん~」と左右に揺れている。
ガクトも目を閉じて考え込んでいた。そして時計の音だけが事務室に響く。
「行ってみるしかないかな」
ガクトがぽつりと漏らした。そのまま依頼主に予備の制服の有無を聞く。
「あるにはありますけど、着れないですよね」
依頼主はじっとガクトを見つめて、戸惑うように答えた。ガクトは天井を見つめながら「うが~」と叫ぶキリに尾を向ける。
「制服貸してくれそうな女の子、知らない?」
依頼主は妹のならと答える。状況を把握したのか、キリは依頼主とガクトを交互に見て、「ホワーッ」と叫んだ。
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