先輩消失事件~ガクト探偵事務所 ミステリ編~
書三代ガクト
第1話 プロローグ
陸上部の掛け声を聞きながらガクトは校門の前で文庫本を読んでいた。
彼はふと顔を上げ背にある門を見る。駒山高校という看板が門にはめ込まれていた。依頼主から聞いた下校のピーク時間は外しているものの、それでもちらほらと生徒が出ては消えていく。
「ガッくん」
すこしむくれた声に、ガクトは目を向けた。顔を赤くした駒山キリが近づいてくる。八つの尾を持つ狐は銀色の耳を所在なさげに動かして、不満そうにしていた。
「どうでした?」
ガクトの呼びかけにキリは唇を尖らせて応えた。不安そうに自身のスカートを掴んでいる。
書店員の化け狐として配信活動をしている彼女。本を読む枠では読書そっちのけで、様々な姿を見せてくれるが、今日は紺色の制服に身を包んでいた。紺色のジャケットに、赤いチェックが入ったプリーツスカート。ジャケットの下には校章の刻まれたブラウスを着込んでいる。たまにメイド服姿や水着姿を見せる彼女も本物の制服は気恥ずかしいのだろう。
キリはスカートの裾から手を外してなでつける。ずっと抑えていたのか、軽くしわが出来ていた。
「多分、入れるよ。見回りとかいないし」
キリは顔をそらしながら静かに告げる。今回は学校の潜入調査。むくれながらもちゃんと仕事はしたみたいだ。
にしてもと、ガクトはキリをじっと眺める。白い肌と銀色の髪色、紺色のコントラスト。依頼主の妹から借りた制服を無理やり着せてみたのだが、彼女の儚げな印象がいつも以上に輝いていた。
「似合うと思いますけどね」
ぽつりと漏らした言葉に、キリの耳がピンと立つ。そしてスカートがもそもそと動いていた。布の向こうで八尾がぶんぶんと振られているのだろう。
それでもキリはガクトに目を合わせようとせず、顔をぷいっとそらしていた。意地を張りながらもうれしさを隠しきれていない彼女に、ガクトは苦笑する。
「まぁ、とりあえず入りますか。もし見つかっても保護者だと言い張ればなんとかなるでしょう」
「いやー、それは難しんじゃないか?」
目的の部室棟に向かいながらキリと並んで歩く。すれ違う生徒の視線を感じながらも、我関せずと歩を進めた。
そうして三階建ての建物の前に立つ。プレハブのような簡素な外壁。均等に並んだ窓から人影がちらちらと覗いていた。
「ここで起きたんでしたっけ」
ガクトの呟きに、並んだキリが静かに頷く。
「先輩消失事件」
ガクトは依頼主から聞いた事件のあらましを思い出していた。
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