第八章 祭りの終焉と各プレーヤーの勝敗

第52話 祭りの終焉と各プレーヤーの勝敗(一)

 委員会ビルに戻って仕事をしていた。夜にバイク便で、十条宛にオリーブの木を型どった蝋の封印がしてある手紙が届いた。内容は二行だけだった。


『パースィマンからのお誘い。

 明日十二時にエキドナ山麓の駅で』


 十条は内容を確認すると、まだ残っていたネロに声を掛けた。


「ネロ。明日の十二時に、地下鉄駅に行かなきゃならない用ができたんだが。送っていってくれるか」


 十条は剥がれたオリーブの木をかたどった蝋の封印を見せた。

「重要参考人からのお誘いだ」


 オリーブの封印を見て、ネロの顔が引き締まった。

「俺も一緒に行ってもいいんですか」


「構わないだろう。一人で来い、とは書いていなかった」

 手紙をシュレッダー送りにすると、手紙はモーター音を立てながら子気味良く裁断されていった。


 帰り際に枝言霊を取り出すと、メールが一件、あて先はリンダからで、内容は画像が二枚。


 一枚はクラブの概観の写真。

 二枚目は小人族で溢れるクラブ内の写真。


 二枚目のクラブ内の写真には、グロサムが写っていた。

(今度は、保険が掛かったな。もし、パースィマンが来なくても次の手が打てる)


 枝言霊をしまい、エレベーターに乗り込んだ。

 翌日、十条がネロと私服で駅の改札前で待っていると、ムスッとした顔のグロサムがやって来た。


 グロサムに陽気に声を掛けた。

「よう、元気かい」


 十条の声には答えず、グロサムは不機嫌そうに、二枚の列車の切符を渡した。

 グロサムは黙って、駅に併設された反対側のショッピング・センターへ歩いていった。


 一枚をネロに渡し、有人改札口からホームへ降りた。

 切符に示された車両は、一号車。列車では、個室のグリーン車に当った。


 ホームに下りると、ベンチに座り、グリーン車に乗る人の列を監視した。

 列車が到着すると、列の最後尾に並び、二両目から一両目の車両に移動する人物がいないかチェックし、乗り込んだ。


 指定された部屋の前を通り、誰もいないのを確認した。

 車両の入口付近に、戻りネロを見張らせてから、グリーン個室の扉の横にあるセンサーに切符をかざし扉のロックを解除して入室した。


 木目調の内装の部屋で、向かい合わせに四人がゆったり座れる赤いシートがあった。


 十条はすぐ列車の窓のカーテンを下ろし、シートの隙間や入口のクローゼットを開け、盗聴器の類をチェックして座って待つ。


 列車が動き出し、エキドナ山を抜ける長いトンネルに入っていった。

 ネロがパースィマンを伴って個室に入ってきた。


 パースィマンは以前、地下で会った時と同じように、黒色のシリコン迷彩のフード付きジャンパーとズボンとストーキング・シューズという格好をしてきた。


 十条とネロも、地下鉄の犯行現場に乗り込んだ時と同じ格好をしていた。

 パースィマンが十条の向かいの席の前に立った。パースィマンが柔和な笑みを浮かべて、丁寧に挨拶をした。


「また、会いましたね。十条さん」

 パースィマンの顔には余裕が浮かんでいた。


 パースィマンの態度に疑問を持った。パースィマンは以前地下鉄であった時より明らかに大物に見えた。


(別人か。いやでもこの感覚、確かに一度会った過去があるのは間違いない)

 目の前のパースィマンは別人かとも思った。とはいえ、別人なら別人でも良かった。取引相手に格下が出てくるなら問題だが、格上が出てくるなら問題なかった。


 パースィマンと相手が名乗るなら、パースィマンとして扱う。

「もう会わないつもりだったのか」


「シナリオによってはね。世間話は抜きにして、本題に入りましょうか」

 パースィマンが席に着いた。けれども、ネロは立ったまま、入口の付近で、外が見える位置に立ち、警戒をしていた。


 パースィマンをしっかりと見据えて、聞いた。

「このシナリオ、お前が書いたのか」


「私だけじゃない。私も末席にいますが“楽園の求道者”が書いています」


 いきなり大物の名が出た。だが、理解できない事態ではなかった。“楽園の求道者”なら戦い慣れた小人族の傭兵を動員するのも、銃や傀儡助を風蓮五紀市に持ち込むのもわけがない。


「その名が出るとはね」

 パースィマンは明言しなかったが、“楽園の求道者”は主犯ではない。“楽園の求道者”が絡んでいるのは間違いないが、犯罪者集団だけではここまでの仕掛けはできない。


 パースィマンはおそらく黒幕と袂を分かった、敵の敵だ。

 戸口のネロがパースィマンの言葉に反応した。


「小人族の犯罪組織が絡んでいるのか」

 ネロの発言にパースィマンではなく、十条が即座に異を唱えた。


「それはチョット違うな」

 パースィマンとネロ視線のが十条に向いた。


「そう、ただの犯罪組織とは少し違う」


 ダウアリルの災害を引き起こした企業の側にいた十条には、”楽園の求道者”に対しては世間とは別の感情を持っていた。

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