第38話 夜明けと決戦(五)
人造霊と同調を保ったまま、現実の肉体を強く意識して目を開けた。
ネロが横目で、心配そうに見ていた。
「大丈夫ですか。何か、目が変ですよ」
同調状態で現実を認識する時に憶える、軽い陶酔感を覚えながら、指示を出した。
「霊との同調に酔っているだけだ。それより、ライトを消せ」
どちらかが、味方とは限らない。両方的の場合、最悪両方から攻撃され、挟み撃ちという状況になれば目も当てられない。
ネロが前方を凝視し、アクセルを踏み込んだ。ネロが現場に急ぎながら、返答した。
「無線を聞いてから、ライトはすでに消していますよ。下手をすりゃ、両方から攻撃されかねませんからね」
車を飛ばす間にも、角から状況を知らせる無線が、断続的に続いた。
「処分場側の奴らが、何人かやられている。いや、また新たに出てきた。動きを見る限り、傀儡助だな。しかも、戦闘用だ」
傀儡助を危険な作業に使うことはあるが、費用の面からいえば、労働者を雇ったほうが費用は安い。
戦闘に使える傀儡助となると、もっと価格に差が出るから、戦闘用を常時、処分場に置いておくのは合理的ではない。
(処分場は襲撃に備えていた。もしくは、風紀を待ち伏せしていたのか。なら、今ここで処分場を襲っているのは何者だ、仲間割れか)
ネロが車の振動に負けじと、声を上げた。
「もしかして、角さんたちを襲撃した奴ですか」
角は投げやりに返事をした。
「さあ、わからん」
傀儡助を複数体操れるのはある程度訓練を受け、資金を持っている人間だ。フリーランスの傀儡助使いで、風紀を敵に廻そうとするなんて、奴はそうそういない。
(敵は以前、厳を襲った奴と同一かもしれないが、厳は慎重な男だ。断片的な情報から決め付けたりしないから、わからん、といったのだろう)
警戒段階が終わったと判断した。精霊と感覚を共有する同調から、人造霊たちに即時命令ができるよう、体勢を切り替えた。
十条に水面から浮かび上がるごとく、肉体に感覚が戻り、車に揺られている感触が戻ってきた。
装甲車で一緒に映像を見ているであろう厳に、意見を求めた。されど、感覚が戻らないためか、口調がどこか、ゆっくりになった。
「厳、ウチらが到着するまで、処分場は持ちそうか」
無線の奥から、機械で変換された厳の声が返ってきた。
「激しく攻撃を受けているが、俺たちが到着するまでは、落ちそうにない」
ネロが前方を凝視しながら、大きな声で聞き返した。
「何で処分場がそんなに堅いんですか」
残っていた陶酔感が抜けてくるのを感じていた。
(感覚が完全に元に戻るまで、後三分くらいか。充分だ)
ネロに処分場の状況を、教えようとした時には、口調はいつもどおりに戻っていた。
「違法な処分場は外から見えないように、周囲を頑丈な鉄板で囲った目隠しの高い壁がある。強制捜査に備えて、アチコチにカメラを仕掛けてあって、奇襲にも備えられるのさ」
厳が十条の言葉に付け加えた。
「それだけじゃねえ。事務所の周りは搬入口以外、ゴミを埋める穴で足場が悪くて、まともに歩けやしねえ。攻めるとなれば、正面から行くしかない。どこから攻めて来るかがわかれば、心得のあるやつなら簡単にはやられねえ」
人目に付かない、違法な処分場という条件だけに絞ってみれば、国には幾つか物あった。だが、地民のように、待ち伏せ場所が多く、逃走経路もあり、なおかつ襲撃に備えられるといった条件の物件は少ない。
(黒幕は仲間の裏切りを込みしていた。とすると、風紀に立入検査も想定済みだろう。労多くして、実入り無しになるかもしれない)
処分場が近づくにつれ、十条にも朝焼けの中に点滅する無数の光が見えてきた。
人造霊との繋がった状態を保ったまま行動するのに、問題はなかった。
厳が指示を求めてきた。
「それで、どうする十条。抗争現場に飛び込んでいって、全員の検挙は難しいぞ。もっとも、相手方はお互い前方に夢中だから、殺すつもりで奇襲を懸けるなら、やれなくもないが」
せっかくやってきてくれた手掛かりを、潰してしまっては元も子もないが、向こうさん方は手加減無しだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます