第30話 幸福は遠方に輝く(四)
十八時に、十条は厳、ネロ、真田、寵を集め、会議が始めた。
十条は揃った人間を確認すると、真田がA四サイズの黒い金属板を全員に渡した。
真田が全員に金属板が渡ったところで、手を叩いた。金属版は先ほどのネロの手帳のように膨らんで冊子に早変わりした。
「私と真田で調べた、ニュイジェルマンのビジネス形態と資本関連を表したものだ。真田、説明を頼む」
真田が立ち上がり、説明を引き継いだ。
「ニュイジェルマンの収益構造に関する調査の結果、ニュイジェルマンの全ての製品の製造に幸福クローバー・インダストリーが関わっている事実がわかりました」
ネロが質問のために、手を上げ、十条は許可した。
「幸福クローバー・インダストリーって、あの大企業ですか」
真田が少し困ったような顔をして、ネロに風蓮五紀の常識の一つを教える。
「ネロさん。幸福は確かに、大企業に分類されます。が、風蓮五紀における売上高は二千八百億円。ターゲットとしては、中堅クラスです」
真田にピシャリと言われ、ネロはゆっくりと決まり悪そうに座った。
真田が何事もなかったかのようにスムーズに話し続けた。
「ニュイジェルマンの主力商品は、いわゆる人造霊の部品が九割を占めます。取引先は幸福と関連企業がほとんどです。ニュイジェルマンには幸福への売り上げがあります。ですが、幸福は、ニュイジェルマンから特許の使用料や、ライセンス料の名目で、代金を回収しています。ここまでは、表の幸福への金の流れです」
ネロが発言せず資料を見ているのを確認して、真田が話を続けた。
「次に隠れた金の流れがあります。ニュイジェルマンの事業報告書の『百年先の環境を思いやる不活性化ラスト事業』を分析しました。解析の結果品質には問題ありませんでした。ですが、今回の事件で新たに判明した事実を考えると、別の工程が見えてきます。ニュイジェルマンは活性化ラストを国外に持ち出し、不当に処分しています。ニュイジェルマンはベルイジュンで国際標準品質の不活性ラストを購入。製品の作りかけの状態である仕掛品として持ち返っているものと思われます。過程で上がった利益の行方は、不明です。が、幸福社側の資料と付き合わせますと、ベルイジュンにある幸福の現地法人を経由して本国に還流されていると思われます」
ネロが再び手を上げ、訳がわからないと言った表情で、疑問を投げ掛けた。
「そんな取引ニュイジェルマンにとって、メリットはあるんですか」
「ニュイジェルマンにメリットは、ほとんどありません。幸福はニュイジェルマンを支配しています。証明するのが、ニュイジェルマン資本関係です。筆頭株主がニコリファンド十二%。続いて、能率鉄道九%、松竹梅第一銀行八%、至福流通八%となり幸福インダストリーが七%と成っています」
「ニュイジェルマンは幸福の完全子会社ではない」
真田が首を振り、詳細を述べた。
「株式は能率鉄道が株式公開を主張して、公開されています。ですが、ニコリファンドと至福流通が事実上、幸福の支配下にあります。他にも現在裏付け調査中ですが、幸福は関連会社やファンドを使い、六十八%近い議決権を確保しているようです。隠された事業を洗うと、関連する企業の上流は、幸福と支配下にある企業。下流はニュイジェルマンとなり、一貫した体制を敷かれています。中心となっているのが、海外取引の活用なので、我々だけでは全容の把握は不可能です」
ネロが不満の声を上げた。
「それじゃあ、幸福まで追及できないって、ことですか」
真田に替わって、十条が立ち上がり、答える。
「普通にやっていれば、な。けれども、今回、ニュイジェルマン設立当初からやって来た事業に綻び生じた、とも考えられる。綻びから、どこまで探れるか、を調べるのが、我々の仕事だ。ニュイジェルマンは直近で一度、海外にラストを持ち出せず、不活性化ラスト処理を別会社に委託している事実が判明した。別会社から再委託という形で、引き受けたのが
今まで黙っていた厳が口を開いた。
「地民といえば、一年前、処理能力以上のラストを引き受けて問題になったやつだろう。俺も捜査に立ち会った。地民の処分場、どうやっても、これ以上は積めないだけラストが積んであった。とてもじゃないが、新たにニュイジェルマンで滞ったラストを処理できるとは思えんな」
十条は、地民の事件を、ネロのために総括した。
「厳が言うのは、もっともだ。㈱地民再生処理は、一年前に年間処理能力の十倍以上の廃棄ラストを引き受け、風紀に処分されている。捜査が入って以来、実際の業務は停止状態になっているはずだ。だからこそ怪しい」
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