第28話 幸福は遠方に輝く(二)
一同を見回し、方針を伝えた。
「ネロ、お前は今日から制服で勤務して、そ知らぬ顔で一課の捜査会議に全て出席してくれ。一課の動きと捜査内容の報告を第一とし、空いた時間で、向井他五名の足取りを追え。真田は私と一緒に、ニュイジェルマンの資料を分析する。厳と角は、襲撃犯時の画像解析を頼む」
襲撃犯と聞いて、厳が何かを思い出したように口を開いた。
「俺を襲った襲撃犯の三人の死体だが、細工がしてある傀儡助だった。もっとも、首から上の部分だけは精、巧に作られている変わり物のギミックだったがな」
ネロが驚きの声を上げた。
「え、あれが、傀儡助」
ネロが驚いたような声を出したが、十条もネロの驚きに共感した。
(死人の顔は、近くで見ても、一見しただけでとは人間との区別は付かなかった。だが、作り物なら、海洋庁に船員がいた事実には説明がつくが、動機が見当たらない)
厳は神妙な面持ちで、話を進めていった。
「俺も長年、兄貴と一緒に傀儡助を見てきたが、鑑定結果が出るまで、生首だと疑わなかった。妙な点が一つ。敵の傀儡助の首から下は、戦闘用の傀儡助だが、首から上だけが、なぜか特殊部品に置き換わっていた」
厳の説明は、十条にも不可解だった。
(頭だけ? なんで、そんな余計な手間を掛ける)
傀儡助に詳しくない真田が、当然の疑問を口にした。
「それって、意味があるんですか」
厳が真田にわかるように、易しく説明を続けた。
「頭部を交換しても、調整を掛ければ戦闘に支障を来たさない。人間そっくりの顔にしたからと言って、戦闘能力が上がるわけではない。首から上だけの交換なんて、互換性の不備があれば能力は下がるから、普通はしない改造だ。効果は本当に、顔が人間そっくりに見えるというだけだ」
真田が不思議そうに厳に尋ねた。
「じゃあ、なぜ、そんな首の付け替えをするんでしょうね」
厳にも理由はわからないようだった。
「さあ。身代わりにしちゃあ、意味がない。結局、一日で露見した。まあ、襲撃犯の中に生身の奴がいて、傀儡助の扱いや操縦に関して腕がピカイチというのは確かだ」
死体の解剖に何度も立ち会った過去があった。
人間の首の断面もじっくり見た経験があった。厳の言葉でなければ、首が作り物だとはすんなり受け入れられなかっただろう。
首が完全にもげた向井の死体を思い出して、一つ疑問を感じた。
「待て、厳。首がもげた奴もあったが、断面には配線はなかったはずだ」
厳が思い出しながら、答えた。
「断面に特殊メークを施してあった。損傷の具合からいっても、戦闘に参加せず、誰かが首だけを置いていったと考えられるって、兄貴が言っていたぞ」
(偽の向井の首を転がし、向井が釈放される。いったい何のためだ)
しっくり来る回答は浮かばなかった。十条以外にも答えがわかる人間がいないらしく、解答を口にする者はいなかった。
(こうなると、やれるとこからやるしかないか)
十条は号令を掛けた。
「傀儡助のギミックは、おいおい考える。各自、仕事を始めてくれ」
ネロが新人としては、当然と言えば当然の意見を述べた。
「待ってください、十条さん。係長に話を通さなくていいんですか。海洋庁への抗議は」
「組織同士の申し入れと、方針については、私が伝えておく。他に質問は」
十条は一同を見回すと、発言する者はいなかった。
おそらく、誰一人事件解決の道筋は見えていないが、解決しないと思ってもいない。どこまで、行けるかはわからない。わからないなら、答えは探すまでだ。
「では、よろしく頼む」
十条の声で各自が、与えられた仕事に取り掛かった。
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