合流

「うぉっ!」


 ジュエルの眼の前を通り過ぎていく細剣レイピア

 その色は只の鈍色では無く、薄緑がかっていた。

 それが意味する所は、細剣レイピアの主は相当の手練れという事、そして見た目通りの威力では無いと言う事。


 轟々と唸る細剣レイピアに纏わり付く魔力。

 その細剣レイピアを隙無く構え、まるで貴婦人かの様に優雅に立つ騎士服の少女が一人立っていた。


「こんな街中で武技アーツぶっ放すなんて良い趣味してんなテメェ!」

「ワタクシ王都に巣くうゴミ虫共に掛ける慈悲は持ち合わせておりませんの。ごめんあそばせ」


 うふふふとか優雅に笑っているがコイツ正直頭ぶっ飛んでるだろ。

 何をどう見ていきなり背後から攻撃してくるとかどうなってるんだ?


「初対面のイケメン捕まえてゴミ虫とか嬢ちゃんどう言う教育受けて育ったんだ?俺様が親だったら草場の影で号泣しちゃうぜ」

「ご冗談、それにワタクシの両親は健在ですわ、勝手に殺さないでくださいまし!!」


 だらりと脱力した状態から、劇的な加速。

 眼の前の少女は一息で三連突きを繰り出してくる。

 ジョエルは大きくバックステップする事でその突きを躱すが、基本徒手空拳であるジュエルにとって間合いを開けるほど状況は不利になっていく。

 只それも、戦闘を行うのならばの話なのだが。


「そりゃすまんこって。只俺様にはいきなり騎士様に襲われる謂われが無い。何より善良な一般市民を守る為の王立騎士団じゃ無いのか?」


 間合いを開けた事によりジュエルは周囲を確認する。

 この一瞬のやり取りの間に、現れた時同様アーヴァインは闇に紛れその存在すら既に感じさせない。

 アイツのはこの事か。


「――――今日は厄日だな。全くツイて無い」


 両の手を広げ身を低く屈める。

 我流、所謂獣の本能の赴くままジュエルは身構える。

 丁寧な言葉の裏に見え隠れする狂気。

 まるで下水を流れるクソを見る様な眼。

 『今までワタクシ1000人程人を殺してますの』とか言われてもああ、そうでしょうねとしか答えられない。

 こんなのが王立騎士団王都警備隊の隊員なのか。

 この王国大丈夫?


「ええ、善良なならば身を挺して守りましょう。それが例え悪人でも王国民なら外敵から守りましょう―――――」


 ひゅうひゅうと風が吹き、眼の前の少女の短めの髪が揺れる。


「―――――それが私の騎士道ですわ。ですがを守る志など持ち合わせてございませんの」


 言うに事書いて俺様を人外だと?

 この嬢ちゃんゴリゴリの教会派じゃなーかよ!

 それにしても良く分かったな、この嬢ちゃん。

 シェリーの姉御やギルじいなんかだと見た目で即亜人種と分るんだが、俺様見た目ほぼ普人と変わらないのにな。


「全く、偶に居るんだよな。普人至上主義。そう言うのよく無いぜ?獣人だろうが地人だろうが人は人だろう?」

「何が人は人だ――――――獣風情が偉そうにぃいいい!!」

「やっべ!」


 何がどうなってこうなったのか全くもって分らないけど、触れちゃいけない所に触れちまったのか。

 眼の前の少女の細剣に纏わり付いていた緑色の魔力、その輝きが強くなり始めると薄かった緑色の魔力が美しい緑宝石色エメラルドグリーンに変わって行く。


(こりゃやべー奴に捕まっちまったな。)


 ジュエルは何時でも動き出せる様に踵を浮かしつつ、技能スキルを使う。

 使う技能スキルは―――――『合図』サイン

 合図サイン技能スキル、その効果は、予め定めた相手に自分の居場所を伝えるだけの技能スキル

 ただそれだけだが役に立つ技能スキルなのだ。


「王立騎士団王都警備隊第3隊副隊長―――――リュイ・ボウィット行きますわよ!!」

「ちょっとまて、人の話聞け!」


 この嬢ちゃんの武技アーツ、何の武技アーツかは分らないが、魔力を纏っている細剣レイピアを見る限り恐らくは武器強化。

 しかも見た限り俺様と同い年程度。

 それで副隊長とか結構な実力者じゃないか。

 斥候メインの格闘職である自分で相手取るには無理がある。

 

 ――――ぞくり。

 背中の毛がピンと立つ、そんな感覚に襲われジュエルはその場を瞬時に移動する。

 ジュエルが動いたほぼ同時にリュイから瞬速の突きが放たれる。

 

緑突牙エメラルドスラスト!!」


 ほんの一瞬前までジュエルが立っていた石畳がリュイによる細剣の一突きで深く穿たれる。


「うおっ!死ぬ、喰らったら死ぬって!」

「あら、上手に避けましたわね、さっすが、獣の血が混じっていらっしゃる殿方は逃げるのがお上手で」


 カチン。

 

「あのな!俺様は斥候なの。斥候。人には人にあった役割ってのがあんのよ?分る?いや、わっっかんねーか?頭の中まで筋肉で出来てるからいきなり人様の話も聞かないで武技放ってくるんだろ?オメーもし俺様がミゲル獣王国の王子とかだったらどうするんだ?国際問題だぞ?」

「うふふ。どうせ獣は死ぬのですから良いじゃ無いですか?身分だろうが為人だろうがどうでも――――――獣が人のフリをする事自体が罪なのです!!貴方が誰だろうかどうでも良いのです。兎に角―――――――死んで下さいまし」


(うっはぁーーーー!聞く耳持たん所か何もかもぶっ飛んでるな)


「折角可愛い顔してるのに持った無いない」


 ぞくっ。


緑突牙エメラルドスラスト!」

「うおっ!」


 問答無用の突きをジュエルは仰け反りながらも躱す。

 距離を取っては一突きで間合いを詰めてくるリュイにジュエルは手こずっていた。

 突きを躱し間合いを開けては瞬時に詰め寄ってくるリュイ。

 ジュエル自身今のままでは勝ちは拾えない事は自分でも良く分かっていた。


(もうぼちぼちのはず何だけどな・・・・・・・)


 ぞぞぞ!


緑突牙エメラルドスラスト!!!」

「うっは!」

 だからこそ神経を研ぎ澄まし、自分の勘を信じただ避ける。


「ちょこまかと―――――ならば・・・・・・『蓮華ロータス!!』」


先程迄リュイが放っていた緑突牙エメラルドスラストが威力重視の武技アーツだとしたら蓮華ロータスは速度重視の武技アーツ

 一呼吸で四連撃を面で放つ為、威力こそ大きく下がるが避ける事が難しい、すばしっこい獲物を弱らせる為の様な武技アーツだ。

 


 リュイから放たれた突きに、咄嗟に反応したジュエルだったが先程までの攻撃が点ならば今回の攻撃は面。

 初見で見切るのは至難の業。

  

「よけっ―――」


 切れない。

 そう思った時だった。


 ガキン!!


 金属と金属がぶつかり合う甲高い音が鳴る。

 それはリュイの細剣がジュエルのその身を穿つ音では無く、短剣によって細剣が跳ね上げられた音だった。


「ごめん。遅くなった」

「たいちょぉおおおおおっ~~~死ぬかと思ったわ」


 カル、合流。


 



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平民騎士見習いカルの苦難 黄金ばっど @ougonbad

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