桃色吐息
ギシッ・・・・・ギシッ・・・・・・。
古ぼけた階段を上っていくと、今にも抜けそうな床、傾き掛けた箪笥や本棚と言った家具類。
そして何より目を引いたのは散乱した本、本、本。
「何コレ?まるで家捜しされた後みたい・・・・・・」
「後みたい・・・・・じゃなくて、家捜しされた後なんじゃ無い?シェリーさん」
僕達の眼前には足の踏み場も無くなるほど乱暴に荒らされた跡。
『モンテージ古書堂・・・・・・そこに行け。婆が居る。』僕の頭の中にイザムの言葉が思い浮かんだ。
「ねぇ?シェリーさん・・・・・・」
お婆さんは一体何処に居るんだろう?そう話そうとした時だった。
ザッザッサッ・・・・・・。
表の細い通りの奥から足音が響いてくる。
それも大勢の足音。
そっと側の窓から外を見てみると銀色に輝くブレストプレートに青いケープ、少し遠くて判りにくいが、肩の留め具は黄金の剣を模った物。
―――――王立騎士団王都警備隊。
僕等の同僚、だけどお互い顔も名前も知らない。
そりゃそうだ僕等
その存在を知るのは、僕等
そうなって来ると、彼らの目的が分らないけど今この家捜しされた後みたいな現場に冒険者然とした僕等がいる事って、大変不味いんじゃないだろうか・・・・・・?
まぁ彼らが王都内をパトロールしている程度だったとすれば態々此方から存在を知らしたりしなければ大丈夫か・・・・・・・・・。
「うっ・・・・・・・・何だこの臭い・・・・・・」
どうして今まで気付かなかったのか何か腐った様な腐敗臭が部屋の中に漂う。
窓を通って外から風が吹き込んで来たからか。
「―――ひやぁっ」
突然聞こえたシェリーさんの引き攣った悲鳴が僕の思考を掻き消す。
部屋の反対側に居たシェリーさんの方に向かうと、そこには大きな机がありその机の向こう側にあるはずの椅子が倒れている。
そして椅子の倒れている周辺には赤黒いシミがありそのシミは机の下を中心に広がっていた。
シェリーさんの顔を伺うと、何時も雪の様に白い肌は蒼白に染まりその瞳は慌ただしく揺れていた。
しかしその視線は結局一点に向かうのだ。
シミの元である机の下―――――
僕も覗き見る、机の下を。
「うぅっ―――――」
覗いた先には、真四角に固められた老婆がこっちを見ていた。
いや、実際には生きていないから見てはいないのだが。
凄惨に折れ曲がった背骨、曲がらない方向に折られた手足。
無理矢理折り畳まれた身体の中心に丁度顔がある。
瞳は裏返り白目を剥き、舌は無理矢理引っ張り出されたのか舌先に指の跡がある。
「なんて酷い・・・・・・悪魔の所業だ」
死体を見た事自体初めてじゃ無い。
だけどここまで酷いのは初めてだ。
普通なら此処で声を挙げたり、あまりの惨さに腰を抜かしたりするかも知れない。
死体の気味の悪さや、肉の腐敗した臭いで嘔吐いたりするかも知れない。
だけど僕が感じたのはそんな物吹き飛ばすほどの――――――怒り。
見ず知らずの老婆に過ぎないかも知れない。
名前すら知りやしない。
でも此処まで酷い殺し方する必要なんて何処にも無い!
この老婆の死体に在るのは『愉悦』・・・・・・犯人の快楽、そして悪意が老婆の死体を通して見えてくる。
僕は指でそっと老婆の瞼を閉じた。
「許せない―――――一体誰が」
どっごーーーーーーーん!!
「え?」
「何!」
階下である本屋の方から大きな音が聞こえた。
恐らく玄関扉でも無理矢理蹴り倒したんだろう。
乱暴な奴らだな。
「けど・・・・・・・・ヤバいな。さっきそこの窓から外を覗いた時に居た王立騎士団達だね」
「え?じゃぁ同僚さん?それじゃこのお婆さんの事を報告すれば良いんじゃない?」
「向こうも同僚だと思ってくれたら良いんだけど―――――」
「あ~~~、そう言えばまだ私達正式に発表されてないんだっけ?」
「そうだね。『やぁ僕達王立騎士団王都警備隊
「―――――――――十中八九無理ね」
『おい、あっちに階段があるぞ』『私もそっち行きます』『ミネルバは引き続き1階を探せ』『承知しました』
4人・・・・・・か。
小隊の1班規模か、不味いな。
本当に不味い。
どうやら彼らは此処に何かしらの捜し物があるようだ。
既に家捜しされている目的地、そんな状況下で未発表の小隊を名乗る不審な人物二人組―――――僕なら有無を言わさず取り押さえるな。
―――――ギシッ、ギシッ、ギシッ。
「「よし、逃げよう(ましょう)」」
二人同時に決断し、僕とシェリーさんは同時に同じ方向に向かう。
その先には少し大きめの窓がありおあつらえ向きに窓は開いていた。
此処は2階。
勿論窓の外に階段なんて在るはずも無い。
だけど此処で捕まる訳にはいかなくて・・・・・・。
僕は躊躇せずに窓枠に足を掛ける。
「悪戯な風の精霊よ―――――我等の翼と為れ・・・・・『
「流石っ!」
馴れない浮遊感に戸惑いながらも僕はふんわりと地面へと着地した。
続いてシェリーさんも降りてくる。
見張りも居らず、丁度裏手に降りれた僕達だがこのまま此処に居ても上の窓から覗き込まれたら微妙に不味い。
それをシェリーさんも感じているのか、着地と同時に僕の手を取り眼の前の路地へと入って行く。
路地に入った瞬間、シェリーさんをが急に僕を思いっ切り引張ったと思ったらそのまま覆い被さって来た。
―――――ドンッ。
「――――んっ」
何故か僕の背中は壁に押しつけられ、僕の唇はシェリーさんの柔らかい唇に塞がれていた。
ぴちゃっ。
ちゅっ。
(え?え?え?)
「――――あむ」
柔らかいシェリーさんの唇が僕の唇を啄んでくる。
(アレ?あれ?あれーーーーー?)
――――全てが甘い。
――――シェリーさんの暖かい吐息。
――――シェリーさんの柔らかい肌。
(どうしてこうなった?)
彼女の細い足が僕の股の間に差し込まれると僕の髪を搔き毟る様に腕を回してきた。
「っ、シェっ」
(黙って・・・・・・私に併せて)
「んむぅ」
(良いから)
何が何だか分らないけど僕の頭の中はしっかりとピンク色に染まりつつあって・・・・・・。
僕の手は知らず知らず勝手に動き出し、シェリーさんの腰の辺りにゆっくりと優しく回して行く。
そして服の上からさっき見ていた柔らかいお尻を摩る様に撫回して行く。
「あむっ・・・・・・」
「んんんっ」
「・・・・・ぅむちゅっ・・・・・・はむっ・・・・・・ちゅっ」
「あぁぁ・・・・・・う・・・・・あんっ」
少し強く揉み出した所で誰かの気配がする。
その気配は僕等の少し向こうで立ち止まり「ちっ」と吐き捨てる様に短く舌打ちすると立ち去って行った。
それと同時にシェリーさんの唇も離れて行く。
「ぁぁあっ・・・・・・」
甘い吐息を吐き出すと、混ざり合った唾液が糸を引く。
艶めかしい表情のシェリーさん。
潤んだ瞳がとても扇情的だ。
「ねぇ?このまま・・・・・・・・・スる?」
「シ、シェリーさん・・・・・・・・・・・・・・とっても嬉しいお誘いなんだけど今は未だ勤務中で。それに初めては高級な宿でって決めてるんで」
「あら?可愛いっ。隊長って
僕の胸にそう言って手を当てるとそっと離れていくシェリーさん。
名残惜しい。
正直『YES!』『はい』『シます』の三択だった筈なのに、さっきのお婆さんの顔が脳裏をちらついた。
口元を拭うと頭の中を切り替える。
「ジュエルと合流しましょう」
「――――そうね」
そう言って僕達はゆっくりと歩き出した。
―――――ちなみに走り出さないのは、僕がちょっとの間走れそうにないからだ。
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