モンテージ古書堂

 『モンテージ古書堂』

 それは王都の流通を一手に担うカルガレオン大通りを一本東側に入った路地、さらにそこから薄暗い迷路の様な小道を抜けた先にあった。

 開けた広場の中央にぽつんと建っていた。

 何て事の無い古ぼけた2階建ての古本屋だ。

 2階部分が住居となっているのか、正面の店舗入口は閉っているのに2階は空気の入れ換えでもしているのか、窓が開いてカーテンがはためいている。

 店はまだ開店していないし、周囲の住居も人がいる気配がまるで無い。


「何だか静かすぎて不気味ね~」

「と言ってもそこまで朝早い訳でも無いのに空いてないって、定休日なんですかね?」

「どうかな~?どっちかって言うと閉店してるんじゃないかいしら?」

「ともかく・・・・・尋ねてみますか?」

「そうね・・・・・ごめん下さーい」


 どんどんどんっ。


 シェリーさんが木製の引戸を軽く叩く。



 どんどんどんっ。


「ごめん下さーい」


 しーーーーーん。


「居ないのかな?」

「入ってみましょうか」


 シェリーさんは言うが早いか建付けの悪い扉を力任せに開くと、店の中は真っ暗で外の光が差し込む店内でふわりと埃が舞うのが見えた。

 雨戸も全て閉められている様で、暗い店内は人の気配がまるで無くなんだか薄気味悪い感じがした。


「誰もいない様ね・・・・・・」

「さっき2階窓空いていたませんでした?不用心だな」

「ごめんくださーい、どなたかいませんかーーー?」


 無理矢理押し入っていると思われてもあれ何で、一応声を掛けてみるが返事は無い。


「最近人が入ってないのかしら?それにしても埃っぽいわね~『光よライト』」


 シェリーさんが光のマナを息をする様に使う。

 指先に集まった光がふわりと宙を漂う。その光を光源にズカズカと奥へと入って行くシェリーさん。

 それにしても最初っから思ってたけどこの人デリカシーが欠落してるよな。

 まぁデリカシーなんて物が少しでもあれば人の入る予定の部屋であんな事・・・・・・・・・・・・。


 シェリーさんの服装は何時も際どい。

 緑色の長い髪と合わせているのか緑を基調とした服装なんだけど、上着は基本どれもノースリーブで胸元は大きく開いているしスカートは膝上よりかなり高い位置で丈が切れていてとても短い。そして何よりその短いスカートにサイドスリットまで入ってる。

 そこから覗く綺麗な足は雪のように白く男なら誰でもその先を妄想したくなる。

 僕は実際に行為の最中を目撃してしまったのでやっぱりあの艶やかな肢体を偶に思い出してしまう。

 ちらりと横目でシェリーさんをみると前屈みになったシェリーさんの丁度真後ろに僕が居て、要するに僕の今真ん前にシェリーさんがお尻を突き出している格好になっていて・・・・・・・・・。

 本屋だけにそこら中に本が並べられており、その中の一つをシェリーさんは物色している。

 そしてシェリーさんが喋る度に、そのお尻がぷるりと揺れて、店内の薄暗さも相俟って何だか変な気持ちになってくる。 


「何か雰囲気あるお店よね~・・・・・・・・あら?これ良いじゃ無い魔導書グリモワールよ」

「・・・・・・・・あっ、えっ・・・・・何です?その魔導書グリモワールって??」


 急に話しかけられたもんで僕は何だか少し慌てて返事してしまった。


「ん~~~~?何を慌ててるのかなぁ~~~、たいちょっ?ふふふふ・・・・・・それにしても魔導書グリモワール知らないの隊長?魔導書グリモワールってのはね簡単に言えば魔術を使えない人間に強制的に一つだけ使えるようにする書物ね。でも魔導書グリモワールを作成するのに多くの犠牲が必要で王国ではかなり昔に廃止になってるはずよ」

「じゃあ売るのもよく無いんじゃ・・・・・」

「そうねぇ~・・・・・禁書と言われる物じゃ無ければギリギリセーフだったんじゃないかしら?かなりの高額になるでしょうし、実際は貴族の子弟が使うのが殆どね。騎士見習いエクスワィヤなら知っておいてよ」

「あ、ははははは・・・・・・なるほど・・・・・・・・ふ、ふ~ん魔導書グリモワールねぇ~」


 僕は神妙な顔を造り取り敢えずシェリーさんおジト目を躱しておく。


「ん?」


 アレ?何だろう床に違和感が・・・・・。

 よく見ると、うっすら足跡がある。

 その足跡を追っていくと本棚に向かって消えているのだ。


「ねぇ、シェリーさん、これおかしくないかな?」

「ん?あら?ホントね・・・・・・凄いじゃ無い隊長、これきっと隠し扉よ、何処かにボタンか何かないかしら?」

「探して見ましょう」


 一通り怪しい本棚辺りを僕達は探ってみたのだがボタンやレバーと言った怪しげな物も無く、手で押しても引いてもビクともしない。

 どうも本棚は動きそうに無い。

 取り敢えずこう言うのはジュエルの得意分野であるから、後で合流したら調べて貰うとしよう。


「モンテージ古書堂に行けって言ったのに来てみたけど何も無いじゃ無いの。全くどうなってるの?」


 薄暗い店内を半刻ほど捜索していたが遂にシェリーさんの口から不満が出始めた。

 言われてみればそうなんだけど、詳しく聞けなかった僕達にも落ち度はある。

 本当ならもう少し何か情報を引き出しておきたかった。


「ともかく、あの男の言うとおりに僕達はモンテージ古書堂にやって来た。それなのに何も無いは流石無いだろう。あの男は多くを語りはしなかったけど嘘は言っていないと思うんだよ。それに確か、『俺も詳しくは知らねぇ。モンテージ古書堂・・・・・・そこに行け。婆が居る。そこで話教えてくれる・・・・・・・・だけどそこで引け』そう言ってたと思うんだ。だからお婆さんが居るはずなんだけど・・・・・・」

「良く覚えてたわね~流石隊長!取り敢えず2階に上がってみましょうか。」


 流石に2階は居住スペースだろうし勝手に上がるのはよく無いんじゃないの?

 そんな事を想いながら僕は既に階段を上がっているシェリーさんの後ろに着いて行った。


 勿論眼の前にはぷりぷりと良く揺れる桃がある。

 階段を上がっている僕はそれをじっと見てしまっていたのは内緒の話です。

 

 


 



 

 


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