捜索開始

「次、右」


 今僕は――――走っている。

 それもジュエルの指示の元。


「次、右」


 何故走っているかと言うと――――――


「その先―――――右」


 終われているからである。


「了解って、ジュエル!!行き止まりじゃないか!」


 それも――――――


「はぁ、はぁ、はぁっ。よ、ようやく追い詰めたぞ、王都の平穏を脅かす、この無頼漢共め!この王立騎士団王都警邏隊第3小隊隊長、ラルバ・マルチネスが捕縛する!!!」


 ―――――同業者の騎士に。


「どうしてこうなった?」


 ■□■□■□■□■□


 時間が遡る事3刻半。

 事の始まりは、初めてギムと会った定食屋――――ミッシェルの定食屋――――で、朝食を食べていた時――――

 

「あんたらかい?イグウェム教会の事調べてる奴らって?」


 ――――顔に大きな古傷がある如何にもチンピラ然とした、見ず知らずの男のそんな言葉だった。


「――――だったら?」


 シェリーさんが目で合図をしてくる。


「ん」


 小さく頷く僕。

 釣れた。

 撒いた餌に魚が食いついた瞬間だった。


 男の名はイザムと言った。

 ここ数日、僕等は騎士団の名を伏せて、過去にイグウェム教会に縁が在った物からの依頼を受けた冒険者と言う体で聞き込みや調査をしていた。

 と言うのも僕達第9ノウェム小隊は発足はされているものの、正式にお披露目されておらず、それに仕事らしい仕事も未だ命令されていなかった。

 要は今僕等がやってることはタダの暇つぶしに過ぎない。

 よって第9ノウェム小隊の名も出さず、王立騎士団と判る装備も付けていない。

 悩んだ末に「冒険者パーティーとして動いたら良いじゃ無い」って言うシェリーさんの案に全乗っかりして皆が動き出した。

 本当の所は、シェリーさんが少し名の知れた冒険者だった様で、彼女自体そう言う伝を使うのにも冒険者として動いた方が動き易かったと言うのが大部分の理由なんだけども。


 イザムは元々イグウェム教会に食料を定期的に運んぶ仕事を受け持っていたらしい。

 それ自体事実で、僕も過去に何度かイザムを見た記憶があった。

 只、イザムに良い思い出は全くと言って良いほど無く、アーティ姉ちゃんをイヤらしい目で見ていた男と言う記憶しか無かった。

 そしてイザムはどうやら僕の事を覚えていなかったみたいだったので、僕も知らないフリをして話しを聞くことにした。

 イザムの話には大した情報は無かったがイグウェム教会最後の日、彼は教会に行き驚く事に神父と会ったと話していた。

 ひとしきりイザムの思い出話を聞いた所で―――――


「で、ここからが本題だ」


 ―――――イザムが身を乗り出し、小声でそう切り出してきた。


「なぁ、良いか?良く聞け。俺は教会の生き残りを知っている。ただソイツが誰かは明かせねぇ。俺もソイツも命が大事だからな。お前等が何の目的で、一体誰の差し金で教会の事を探っているのか知らねーが、今王国と聖教会はバッチバチの関係だ。その関係の元を辿ればイグウェム教会を王国が潰した事に起因する。それ位は分ってるよな?だから大手を振ってイグウェム教会関係者探してますとか此処では有り得ねーんだよ?死にてーのかって話だ?俺が今此処に来ているのは純然たる善意によるもんだ。ここらで手を引け。興味本位に首突っ込むと大やけどするぞ」


 何だか話が思ったより、きな臭くなってきた。

 ただそれも想定の範囲内ではあるんだけど。


 ここ数日、教会の事を調査したが全くと言って良いほど情報は出てこなかった。

 それどころか教会の跡地すらハッキリと知る者すら居ない程だった。

 流石に裏山だったと思われる丘陵地があったから僕は多分あの辺じゃないかなぐらいの目星はつけれるが、それでも普通ちょっと聞き込めば直ぐに皆の居所ぐらい掴めるんじゃ無いか?そんな風に楽観的に思っていたのは事実だ。

 蓋を開けてみればそんな優しい話じゃ無く、イザムが言う様な誰かの思惑が混じり合った、おどろおどろしい話になってきたのだ。

 だけど気付いた時には時すでに遅く、僕等はいつの間にか何だか良く分からない奴らに尾行されている様になっていた。


「僕は―――――」

「待って、私が・・・・・」


 だから僕達は直ぐに手を打った。

 実際に冒険者ギルドに依頼を出し、そしてそれを

 協力者サポーターに依頼し、まるで以前から在った依頼を受けていた様に。

 そして僕等はDランク冒険者パーティ『ナインボール』として今存在している。

 全ては僕等が造った偽の物語。

 それをこれからホンモノに変えて行く。


「私達の依頼者は――――この私よ」

「あぁん?森人エルフが聖教会にでも入信してたってか?」


 森人エルフは普通精霊を信仰する。

 だから神を信仰する宗教とは相容れない。

 誰でも知っている。


「そんな訳無いじゃ無いの。あの教会に古い友だちが居たの。久しぶり王都に帰って来てみれば私の慣れ親しんだ貧民街スラムは無く、知合いも誰も居ないじゃない?王都だし教会ぐらいはどっかに在るんじゃ無いのって探してみたらその教会すら無いじゃない?」

「本当か・・・・・・?その友だちの名前は?」


 イザムの発する言葉の節々に悪意が混じる。

 此方を信用していない証拠だ。

 それはそうだろう。

 ここまでシェリーさんは、嘘しかついていない。

 だから必要になるんだ。


「アーティーって言うんだけど、赤茶色い栗色の髪の毛をした女の子。歳の頃は・・・・・・多分今頃だと二十歳を過ぎたぐらいの筈だけど」


 ―――――真実が。


 アーティ姉ちゃんの名前が出たからか、ぴりついていた空気が少し和らいだ。

 イザム――――この男は一体何を知っているんだ。

 皆は一体どうなってしまったんだ。


「アーティーちゃんと知合いだったのか。あの子は俺みたいなのにも丁寧に挨拶してくれてな・・・・・・・・良い子だったな、他にもちっこいのが何人か居たんだけどな。皆俺を怖がってな・・・・・・こんな面だからな」


 にへらと笑ったイザムだったが直ぐに真顔になる。


「エルフの嬢ちゃん、アンタとアーティーちゃんがどんな関係だったか知らねー。だけどよ、ここから先は辞めときな。あんまり目立ちすぎると―――――巻き込まれるぞ」

「ねぇ?あの子は・・・・・・・・何処にいるの?ねぇ?一体何がどうなったの?」


 シェリーさんは、冷たい言葉で突き離そうとするイザムに、まるで追い縋る様に見つめ、声を詰まらせ、震える感情でその開いた距離を詰めていく。

 恐ろしいのはシェリーさん。

 イザムは見た目と違って、意外と良い人の可能性が高い。

 その性質を見抜き、即座に泣き落としに持って行く演技力。


「――――ちっ、俺も詳しくは知らねぇ。モンテージ古書堂・・・・・・そこに行け。婆が居る。そこで話教えてくれる・・・・・・・・だけどそこで引け」


 がたりと乱暴に椅子を引くとイザムは足早に立ち去った。

 去って行くイザムをジュエルが素知らぬ顔で追いかける。

 普段は派手目の服を好むジュエルだが、この日は流石に地味な服に真っ黒の帽子を目深に被り綺麗な銀髪を隠していた。

 ジュエル自身鼻がとても利く様でかなり遠くから個人を特定して追えると言う特技を持っているので中々尾行に気付かれる事は無いだろう。


 僕達はイザムの言葉に従いモンテージ古書堂に行く事にした。

 他に宛も無いので。


 ちなみにギムは自分の鍛冶小屋で剣を打っている筈だ。

 僕がショートソードしか持っていなかったので打ってくれるらしい。

 ギム自身調査とか苦手なので、これは所謂適材適所。

 決して隊長である僕の言う事を誰も聞いてくれないからほったらかしにしている訳じゃ無い。

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