287カオス 「いま」を追いかけなくていい

 わたしは小説家になりたいのですが、結構いい歳なわけ。

 世間の人気作家と呼ばれる人の中には、年下の方がかなりの割合でいる。いま勢いがあって、とても読まれている作家さんは、年下であることがほとんどだったりする。新奇性をありがたがるという人の習性は、古今東西変わることがないということだ。小説だって、これまでどこかで読んだことがあるような物語より、いままでだれも読んだことのないようなお話がもてはやされるのは当然。


 小説家を目指す者にとって歳を取っているというのは、ハンデ以外のなにものでもない。20歳が21歳になるのと、50歳が51歳のなるのとでは、同じ一年でも意味が違う。中高年の小説家志望は、「いつ自分は時代遅れになるのだろう。いや、すでに時代遅れの作品を書いていて、金輪際、作家として日の目を見ることはないのではないか」と恐れおののいていたりする。


 40代半ばからWebで書きはじめたわたしの小説修行は、スタート時点で20数年をロスしたような気分でいます。小説家デビューするなら、自分の子どもほどの年齢の小説家志望と競争しなくてはなりません。小説に対するセンスは20年古く、作家としての寿命は20年短いのです。合計40年のハンデです。


 ――時代遅れが、デビューの当てもなく、こんなことしてていいのだろうか。


 しょっちゅうそんな風に考えていました。





 一日遅れですが、オリンピックのスケートボード女子ストリートで金メダルをとった西矢椛選手が、試合後のインタビューで、競技中銅メダルを獲得した中山楓奈選手となにを話していたのか問われ、「ラスカルの話をしていました」と答えたことから、彼女らが話題にしていた「ラスカル」とはなんだ? と話題になっていましたね。


 ―― 「あらいぐまラスカル」だろ。

 ―― まさか。40年以上前のアニメを13歳の西矢選手が知るわけない。

 ―― ラッパーなんじゃないの。

 ―― なるほど~。


 結果は『あらいぐまラスカル』で、わたしたちアニメを見ていた世代のおじさん、おばさんが大喜びすることになったのですが、ふしぎですよね。『あらいぐまラスカル』は77年のアニメです。 13歳の西矢選手と16歳の中山選手が話題にするには古すぎます。


 中山選手がCS放送のキッズステーションで見たらしい。

 オープニングテーマを聴くとテンションが上がるらしい。


 なるほど。コンテンツがあることを知ってしまえば、ネットで検索して有料ときには無料で、むかしのアニメを見ることは簡単です。自分が生まれてもいない時代の映像にさかのぼって視聴することは全くふしぎではありません。ふしぎだと思った人は、「アニメはTV放送で見るものだ」と思い込んでいただけなのです。


 いまは、ネットを通して過去50年くらいなら、映像コンテンツをさかのぼることができる。ネットを介して視聴するなら、現在放送されているアニメと40年前のアニメとを、どちらも同じように見ることができる。ネット上では、いまのアニメも、むかしのアニメも同じ土俵で視聴者を分け合っているのです。どちらを選ぶかは、見る人の感性次第。


 ――良いコンテンツは古びないし、じっさい視聴してもらえる。


「ラスカル騒動」は、オリンピックという華やかな舞台でこれを可視化してくれた出来事でした。


 ネット上に、情報が蓄積されていって、いつでもだれでも、将来にわたってアクセスすることができるという環境では、過去が現在によって押し流されるということがないので、創作者が「いま」をおいかける必要はありません。腰を据えて、じぶんがいいと思うものを信じて作品をつくることができます。


 そういえば、新しいものと古いものとが対立する構図が、ネット空間では希薄な感じがしませんか。対等といえないまでも、古いものもそんなに悪くないんじゃないかと思わせてくれる。そんなオリンピック金メダルの話題でした。

 さて、ちょっと気分もよくなったし、おじさんも小説書こうかなっと。。。

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