255カオス きれいだなと感じた文章

 この本の中では、

 生と死

 善と悪

 事実と虚構

 秩序と混沌

 過去と未来とが 重なり合うように描かれています。


 絵の具をいくつも混ぜていくにしたがって、その色が暗く沈んでいくように、言葉というものも、重ねていくにしたがい、濁って汚くなっていくものです。


 小川洋子さんの織り上げる小説は、いくつもの言葉が重なり合ってもその透明感が保たれていて美しいと思います。これが彼女の技術なのか、才能なのかわからないけれど、技術であるならいつか身に着けてみたいと思います。




 いま、小川洋子さんの『最果てアーケード』(講談社文庫)を読んでいます。最果てというくらいですから、時代に取り残され、街の中に埋もれていってしまいそうなアーケードをもった商店街を舞台とした連作短編集です。


 とても良いです。


 ただ、「どこがよいのですか?」と聞かれると困ってしまう。小川洋子さんの小説はどれも、わたしにはものばかりなのです。


 たとえば、「百科事典少女」というお話はこんな感じ。


 百科事典が好きで、先頭の項目から順に読でいた女の子が、突然事故で亡くなります。その後、女の子のお父さんが、女の子が百科事典を読んでいた商店街の休息所に現れ、百科事典を先頭からノートに書き写すようになります。やがて、お父さんはすべての項目をノートに書き写し、商店街を去っていきます。


 これだけです。

 説明するとこうなってしまう。

「だからなんなの?」

 ストーリーにドラマらしいドラマはありません。

「どこがおもしろいの?」

 だから、説明したってぜんぜんおもしろさは伝わらないのです(わたしの伝え方が下手だというのが、ほんとうの問題かもしれませんが……)。


 読んでもらいたい。

 でも、読んでもらっても、わたしの感じる「良さ」と同じものを感じる人と感じない人がいそうな気がして悩ましい。人に本を勧めるってむずかしい。


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る