225カオス 書いてて難しいこと
平凡な人が好きである。
じぶんも平凡だから。
でも、平凡を描くのは難しい。
KACを書きながら考えたのですが、わたしは平凡であることを描くのが好きなようなんですね。特別な能力を持っていない人のことを書きたいと。
ただ、平凡を描くってむずかしい。そもそもエンタメ小説になりにくい。平凡な人が、異世界でチート能力を発揮する小説の方が、書きやすくておもしろい。でも、そんなのは書きたくないんだよなあ。
KACの最後の課題に、わたしは時代劇を書きました。剣豪の話なので、ぜんぜん平凡ではないのですが、ふと
司馬遼太郎に『人斬り以蔵』という小説があります。幕末、土佐藩出身の志士(尊王攘夷活動家)、岡田以蔵を描いた短編小説です。
「人斬り」とあるように、幕末の京都で、尊王攘夷思想に敵対する人たちを次々と殺害した人物として有名です。
卑しい出自。
貧しい家庭。
目上に対して卑屈。
かと思えば目下には傲岸。
下品な性向。
粗暴な振る舞い。
無教養。
取り柄は、無感動に人を殺すこと。
司馬遼太郎の描く以蔵の人物造形は、人として大切なものが大きく欠けていてる。
『人斬り以蔵』のなかで、岡田以蔵は、この欠落を埋めるため、
土佐といえば、幕末のヒーロー、坂本龍馬が特に有名ですが、龍馬が幕末の志士の光の部分を体現した人物であるように、以蔵はその闇の領域の人物です。
武市に心酔した以蔵は、武市の意を汲んで反対派の人たちを次々と暗殺していきます。
以蔵は、剣の師でもある武市を同じ志を共有する「同志」と信じているのですが、当の武市は、以蔵の出自をいやしみ、無教養を侮り、粗暴な性格を嫌っていて、彼を暗殺という汚れ仕事を処理する駒としか思っていないのです。
以蔵が可哀想だ……。
そして、破滅のときがやってきます。強盗を働いた以蔵は役人に捕まって、牢に入れられることになります。拷問にあった以蔵から、土佐勤王党の密謀が漏れることを恐れた武市は、口封じのため、牢に入れられている以蔵に毒を盛ります。(以蔵、可哀想過ぎる)
以蔵が毒を喰らうことはなかったのですが、毒を盛られたことにより、武市の本心に気づいた以蔵は、堰がきれたように土佐勤王党の同志の名を自白。それがきっかけとなって同志は次々と捕まり、勤王党は瓦解。以蔵も武市も処刑されるという悲劇に決着してゆきます。
『人斬り以蔵』めちゃネタバレです。すみません。
司馬遼太郎は、志がない、または志をはき違えた平凡な男の悲劇を描いたと思うんですね。
以蔵はなんにも悪くない。
悪いことがあるとすれば平凡に生まれついたことだけのような気がするのです。
人はみんな坂本龍馬みたいでありたいと思うじゃないですか。わたしなども心は龍馬ですが、やってることは以蔵です(苦笑)
以蔵は、その最期が最期だけに、「仲間を売った裏切り者」として、大変な汚名にさらされ続けてきた人物です。
でもね。平凡に生きるというのは、卑怯であり、姑息であることを甘受しながら生きていくっていうことと同じじゃないですかね。そういう意味で、人はみんな岡田以蔵なんですよ。
やっぱ、龍馬より以蔵だなあ。
大河ドラマ『龍馬伝』で、佐藤健さんが以蔵を演じたの覚えてます? 人物造形と以蔵の行動の解釈が『人斬り以蔵』とはちがうみたいですね。それと、とにかくイケメン過ぎるでしょ(笑)
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