198カオス 見えないゲーム
発達障害という言葉は魅力的だ。
誤解されることを承知で書くならば、発達障害という言葉をとても嫌なものと捉える人と、救われたと感じる人は同じくらいたくさんいるのでないかと思います。
わたしは「なるほど!」と膝をうち、救いになるかもしれないと考えたタイプの人でした。
「発達障害」がどういうものかというと――偏見を助長するといけないので藤光個人の捉え方と断っておきますが――程度はさまざまながら、なんらかの原因により、人間社会のなかでうまく立ち回ることができないでいる(自身が、あるいは親しい人たちをして『生きにくいなあ』と感じさせる)人たちを指していう言葉だと思うんです。
身近でいうとわたし自身がそうなんですけどね。
わたしのことをいうと、とにかく孤立する。学校のクラスでは孤立していたし、職場でも孤立している。ほかにも人がいるのに自分だけ孤立するってよくないじゃないですか、一般的にいって。正直、孤立していることは苦痛ではない(むしろ誇らしいくらいの気持ちでいる)のですが、「孤立してるのはおかしい」という一般の空気は苦痛ですね。
――なんやねんこの空気の嫌な感じは。おれのなにが悪いねん。
そんなわたしなので、うまく立ち回ることのできない指して発達障害という言葉があると知ったときは、そういう属性の人がいるのかとほっとしたのをよく覚えています。
同じ人間なのにうまく馴染めない変わった人と、じぶんのことを考えるより、元々別の種類の人なのだからじぶんは変わっていて当たり前と、考える方が気分的にとても楽になるのです。
発達障害と診断を受けたわけではありませんが「発達障害」という言葉をしって、気持ちが楽になったわたしと同じように感じている人は大勢いるのじゃないかと想像します。
また、うちの職場には典型的な発達障害の人がいます。
不注意が過ぎるところがあって、尋常では考えられないくらい仕事上のミスが多い。しかも、同じ失敗をなんども繰り返してしまいます。わたしなら気に病んで職場に顔を出せなくなるレベルの失敗を重ねてきましたが、この人はそのことをほとんど気に病むことがありません。そのときは謝りますが、あとはケロッとしてます。
その都度フォローに回らなければならない周囲の人は怒り心頭。周囲を振り回すタイプの発達障害の人なのです。
この人に対するときも、発達障害という言葉があってわたしは救われています。普通、何度注意しても改善がみられないと、腹が立ちますよね。
――なんやコイツ、何度同じ注意しても無視しやがって。おれのこと馬鹿にしてるのか。
と考えるわけですが、発達障害ならそれはその人の属性がそうさせているのであって、仕方がないと思えます。わたしがやきもきしたところで、この人の属性を変えることはできませんから。
発達障害という言葉が、職場でのわのストレスをどれだけ軽減しているか、計り知れないところがあります。ところが……
むかしは発達障害という言葉を知りませんでした。20年くらい前でしょうか、初めて知ったのは。
でも、いわゆる発達障害と呼ばれているような人は、ずっと以前から、この言葉が作られる前から存在したはずです。それこそ江戸時代だって、平安時代だって。
21世紀のいま。なぜ、発達障害は注目ワードとなったのか。わたしはそこに現代の見えにくい病を感じるのですが……。
1月のNHKEテレ『100分de名著』は、カール・マルクスの『資本論』を取り上げていました。例によって、わたしはテキストだけ買ってテレビ放送を見ていないのですが、これがなかなか興味深い本でした。
『資本論』って教科書に出てくるけれど、内容はしらない本のひとつじゃないですか。内容は、こんな感じ――
――労働者たち、オメーら知ってるか、資本主義っていうのは、世の中のすべてのものに値札をつけて、売り買いしようって考え方だ。資本家は、工場で作る製品だけじゃなくオメーらにも値札をつけて売り買いしてる。売り買いされるものを商品といい、すべての商品は資本家を儲けさせるための装置なんだ。資本家のいいなりに働くな。自分たちを貧しくし、資本家を儲けさせるだけだぞ!
産業革命によってもたらされた経済構造の変化とそれに伴う社会階層の分断を商品に着目して世の中に警告を発した本ですね。
商品には値段がつくのですが、資本主義はなににでも値段をつけます。お店に並ぶ商品はもちろん、動画をみる時間とか、二酸化炭素の排出権とか、子供を産む能力とか……そんなものにまで値段をつける? ってものにまで。
――スマイル0円
とか、
――恋人と過ごす時間、プライスレス
みたいなCMがありましたよね。
これは、なににでも値段をつける資本主義の特質を逆手にとったコマーシャルです。資本主義の自虐ネタですね。
値段をつける(数値化する)ということは、計算式に組み込んで計算することができるということです。
マクドナルドの営業スマイルを計算することはできませんが、値段のつくものはコンピュータ上の情報(データ)として記録し、処理し、出力することができるということです。なんのために? もちろん、商品をより効率よく生産し、売買して資本家がもっともっと儲けるためにです。
格差社会と言われるようになってだいぶん経ちますが、21世紀に入って以降、地球上の富の偏在は著しいといわれています。人口比でごくわずかな大金持ちたちが、地球上の富(ただし、値段のつくものに限られますが)の半分以上を所有しているそうですよ。
これは20世紀末から進行してきた産業のIT化とあきらかに相関関係にあります。コンピュータの活用(技術革新)が進むに連れて、富の量を増大している(ように見える)んです。資本主義の仕組みとして、労働者に渡る富より、資本家に流れる富が多くなることを防げないので、労働者と資本家とのあいだの富の格差が広がっているんですね。
富の格差については『資本論』のテキストを読んでみてください。新進の哲学者、斎藤幸平さんが舌鋒鋭く反資本主義をアジテーションしてます(笑)労働者なら必読です。マルクスって、こんなだったのねと目からウロコなこと間違いありません、
発達障害っていう「病」も、じつは資本主義が生み出したものなんですよ。
(ここからは藤光説)産業のIT化によって、21世紀の資本主義は加速したわけですが、これと時期を同じくして発達障害という言葉がメディアに現れるようになりました。このふたつに関係ないわけがない。
ここでいうIT化っていうのはオンラインで繋がれたコンピュータを使って情報処理を効率的に行うってことですが、これはなにもかも商品として数値化する(値段をつける)資本主義と極めて相性がいい。数値はコンピュータが扱う情報の本質ですからね。
コンピュータは数値化されていて、規格が決まっているものを処理する能力が極めて高いんです。考えてみてください。世の中、いろいろなものが規格化されているでしょう。いま見てるこの画面だって、規格でいっぱいです。画面のサイズ、表示色数、ドットピッチ、文字フォント、文字入力方法、基本OS……あげていくとキリがありません。コンピュータは規格化されたものばかり扱うのです。
逆にいうと、規格化(数値化)できないもの。アナログなものはコンピュータでは扱えず、効率的に富を増やしていくことを宿命づけられている資本主義のなかでは扱いづらいものとして疎外される運命にあるわけです。
コンピュータは人をも定量化します。
人間だって、IT社会ではみずからを規格化していくことが求められます。なぜなら、わたしたち労働者の労働力は、資本主義のなかで商品として扱われますから。効率的に働き、生産性を上げるためには、わたしたちは進んで規格化されていかなければならない――でないと、資本主義から疎外されてしまいます。
だから発達障害って、規格化になじまない人の特質を指していう言葉なんです。規格化された人を「普通」と呼ぶのなら、「普通でない」人たちが発達障害なのです。そこで規格化された人間って立派なのか、正しいのかと考えてみてほしい。それはこのIT化社会でただ単に、労働力として効率的でないと判断されただけの人なのではないか――最近、そう思うようになったんです。
わたしはここ10年くらい、いかに効率的に仕事を進めるかって、ずっと考えながら職場で仕事をしてきましたが、そのことで職場がよくなったとは思えないですね。仕事量が増えるばかりで、実入りは増えない(爆)
そろそろみんな気づいてきているんじゃないでしょうか。IT化を進め、効率的に仕事をこなしたところで、少しもわたしたちの自由になる時間は増えないし、給料も増えないことに。増えるのは一部のお金持ちのお金だけ!
――効率化なんてくそくらえ。
発達障害なんて言葉を使って、規格に合わない人を疎外している人たち。そして、発達障害という言葉に安心感を覚えてしまう人たち(わたしのことだ)も、資本主義的考え方になじみ過ぎて、それ以外のものを見失ってしまった残念な人たちなんですよ。
小説は数字で書けないでしょ。
小説を書くというのは、非効率で非資本主義的な行為なんです。小説を書いているからこそ、わたしはこんなことを考えているのでしょう。それに、カクヨムに小説を書いている時点で、ここで小説を公開している人たちは皆、資本主義から疎外されているのかもしれませんよ(リワード換金できないし 爆)それはそれで上等ですけどね。
資本主義というゲームを否定することはありませんが、一所懸命になるのはもうやめようと思っています。わたし自身が定量化されるなんてごめん被りたいでからね。このゲームから片足を下ろせば、少なくともわたしにとって発達障害という言葉は意味を持たなくなる。そんな気がするのです。
ながながとまとまりのないものを書いてしまった。悪文失礼しました。今回はこれで。
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