191カオス BLと戦闘美少女
12月からカクヨムコンがはじまり、いろいろと小説を読ませていただいています。先日、大団円を迎えて完結した『地方公務員になってみたら、配属されたのは流刑地と呼ばれる音楽ホールでした』もそのひとつです。
https://kakuyomu.jp/works/1177354055009322552
作者の雪うさこさんにこのエッセイをフォローしていただいている縁から読ませていただいたのですが、ひとつ不安がありました。雪うさこさんのプロフィールに……
「主にBL創作専門です」
とあったからです。
BL……。
カクヨム界隈に出入りする人たちに説明の必要はないと思いますが、BLは「ビーエル」と読み、「ボーイズラブ」すなわち男性同士の性愛をテーマとした小説、マンガのジャンルを表す言葉です。(いまさら 笑)
男性同士の性愛とはいえ、BLはゲイの文化に属するものでなく(一部は重なるのかもしれませんが)、書き手も読み手も主に女性によって担われたジャンルです。わたしのイメージは「腐女子が読み書きするもの」です。おいそれと手をつけるわけにはいかないじゃないですか!
ま、『地方公務員になってみたら、配属されたのは流刑地と呼ばれる音楽ホールでした』は、そんな小説ではありませんでした。内容は、タイトルどおり閑職とされている音楽ホールに配属された新人職員の主人公が、そこで若い音楽家の友人と出会い、友情を育んでいく過程で共に成長してゆくというストーリーです。いかがわしい箇所はありません。男性同士の性愛? まったくなし非BL小説です。
でも、読んでわたし衝撃を受けまして(笑)
主人公の
ただ、これは……こんな男性同士の友情はないよね(笑)相手に対する気遣いとか、じゃれ合うような会話のノリとか、女子高生同士のやりとりに見えて仕方がない。そこでピーンときました。
――そういうことか!
――BLに萌える心性のなかには、男性に女性のような恋愛をさせて楽しむという要素があるんだ。
わかりにくいですが男って粗雑な生き物じゃないですか。繊細な気持ちのやりとりって苦手なんですよ。
『地方公務員になってみたら、配属されたのは流刑地と呼ばれる音楽ホールでした』のようなやりとりはあり得ません。これは女性から見た好ましい心情のやりとりであって、女性の友人同士ならありえるかもしれない。
リアリティがないことをディスっているのではありません。リアリティを排してエンタメに徹していると目からウロコが落ちたわけです。
そこで思い出したのが、BL萌えする女性と似たような心性を、男性は「たたかう美少女」に対して持っているという事実です。
マンガやアニメには「たたかう美少女」っていうテンプレがあります。露出度の高い(防御力のない)甲冑を身につけた女戦士や魔法使いが戦うファンタジーなんて掃いて捨てるほどある。男性はこういうの大好きじゃないですか(笑)
現実の女性は戦ったりしません。そういうのは男性の役割です。創作の中でも『仮面ライダー』とか『マジンガーZ』とかテレビで戦うのはもっぱら男性です。ただ、こういう70年代コンテンツを観て育った人たちが、そういう作品に飽きたら無くなって、もっとおもしろいものはないかと思いついたのが、男性の役割を女性に入れ替えたコンテンツ――「たたかう美少女」です。
80年代にOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)というスポンサーの意向に忖度せずに作品を作る環境が整ったときに、思い思いにアニメ作家たちが作ったアニメの中に「たたかう美少女」たちが現れます。たとえば、
『戦え‼︎イクサー1』
『プロジェクトA子』
『トップをねらえ!』
などといったアニメです。これらの作品は、作中、本来なら男性の演じる役割を女性が疑いなく演じていることに萌える――という人たちを明確なターゲットに作られています。「男のように女が戦う」ことに男性は萌えるということが発見されたのです。
これと同じ構造がBLにはあると思います。「女のように男が恋愛する」コンテンツが広い意味でのBLという考え方。男が女のように恋をする、しかもその相手は男であるという二重の転換がBLには込められています。ここでは「たたかう美少女」よりさらに手の込んだ思考遊戯が行われているといえるでしょう。この遊戯に女性が萌えている――というのがわたしの思いつきです。
キャラクター設定によくあるツンデレというのも、本来は男性によくある照れ隠し作法ですよね。女性は「女は愛嬌」といわれるように表裏なくにこにこしているのが美徳とされてますから「ツンデレ少女」というのは、男性のような心情表現をする女性ということになります。
こうした男女の転換が行われるのは、作品をよりおもしろくするためという、エンタメ至上主義からきていると思います。エンターテイメント性がより深まるとあるとき気づいた人がいたのでしょう。
「男女の役割を入れ替えればオタクが喜ぶ!」
と。
雪うさこさんの作品から、インスピレーションを得ていろいろと書いてしまいました。とってもいろいろと考えさせられました。至らぬ表現があったなら、それはわたしの筆が稚拙なためで作品がまずいわけでは決してありません。いいお話なので、興味を持たれたらぜひ読んでみてください。では、今回はこれで。
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