158カオス 男と女の問題

 BOOKOFFへ出かけました。当然ながらたくさんの古本が陳列されています。どれも定価より安い。ありがたい。


 BOOKOFFで本を買ったことはありますか。本を売ったことはありますか。


 わたしは買いますし、売りもしますが最近は買うことが多いですかね。なんせ定価より安いので。「古本でいいから読みたいな」という本はBOOKOFFでいいです。著者さんに印税が入らないのは、少し心苦しいですが、わたしの懐状況も苦しいので、すべての本を新刊で買うわけにはいきません。


 持っている本を売るときは、ただのような値段に買い叩かれて「二度と売るか!」と思ってしまうBOOKOFFですが、古本を買うときは、ときに掘り出し物に出会うことがあるから馬鹿にできません。


『とりかえばや物語 少年少女古典文学館 第八巻』(田辺聖子訳 講談社)


 110円でした。

 新品同様のきれいなハードカバーが110円。講談社にとっては侮辱のような値付け。講談社と田辺聖子さんに申し訳ないと思いつつ買いました。


「とりかへばや物語」は、ずっと知らなかったんですが、2017年のイグ・ノーベル賞をトリカヘチャタテという虫の生殖行動の研究が受賞したのをきっかけに知りまして、「どんなお話なんだろう」と不思議に思ってました。


 トリカヘチャタテという虫は、雌にペニスのような器官があって、雄の体内にこれを挿入、精子と栄養を受け取るという、雌雄逆転の生殖行動をとる珍しい昆虫。名前は、主人公の性別が男女逆転している「とりかへばや物語」からとっているんですね〜。


 どんな物語か気になりますよね。

 ただ古典文学はどうしても、古語の敷居が高くて読みづらいと敬遠していたのですが、田辺聖子さんが中高生向けに現代語訳した本が、なんと110円。買わないわけにはいかんでしょう(笑)


 読みました。


 かなりヤバい本です。


 主人公は、貴族の姫君ですが生まれつき活発で男装してます。男として元服し、朝廷に出仕すると、どんどん栄達していきます。


 この姫君(見かけは男)が、女なのに妻を娶ったり、その妻を友人(男)に寝取られ(!)たうえ孕まされたり、あろうことか姫君(見かけは男)自身が、その友人(男)に関係を強いられて妊娠したり(!!)、友人とその間に生まれた子を捨てて、女に戻ったり……。筋立てを書くとめちゃくちゃですね。


 おまけに姫君には、兄がいてこれが男なのに女装してて、女官(じつは男)として宮中に出仕。仕えるべき主人である女東宮おんなひがしのみや(次代の天皇(皇太子)とされる女性)と関係して、子どもを生ませてしまうという(!)という無軌道ぶり。


 結局、兄は恋人である女皇太子と別れて男に戻り、女に戻った主人公である姫君を、子どもの父親である友人と引き離します。そこでようやく、きょうだいがあるべき男女の役割を入れ替えて、ふたたびふたりは朝廷に出仕。兄は位人身を極め、姫君は天皇の寵愛を受けて次代の天皇の母となる……というぶっとんだお話でした。――わたしの書いたあらすじわかります?


 平安王朝を舞台にした王朝文学(?)ですが、怪しすぎる。特に男装の姫君が、友人である宰相中将から関係を強いられる場面は、絵を想像するとかなりヤバい。少年少女がこれ読んで大丈夫かと思いました。


 ジェンダーがどうの、LGBTがこうのという意見や議論が交わされる現代でこそ読んでもOKな古典ですが、「戦前は読めなかった」と田辺聖子さんがあとがきに書いてるのも肯けます。アブノーマル!(最近は、ノーマルって定義は難しく、アブノーマルって言葉も使いませんね)


 ただ、物語を読むと、基本的にこれは女性の目線から女性の人生のかなしさ、よるべなさ、むずかしさを男装の姫君の心情をとおして描いていて、読み応えはありました。なるほど! です。


 わたしは男ですが、これは女性のための(制作された当時は、貴族の女性を読者に想定した)物語に間違いありません。男と女が入れ替わっていることで起こるハプニングの数々にハラハラしながらも、女としての困難に突き当たる男装の姫君に感情移入し、「ああ、分かるわ〜。女って辛いよね。でも、なんとか幸せになってほしい」と読み進めていくと、結局、時の帝に見染められ、大団円を迎えるという最上級のカタルシスに気持ちがスッキリするというエンタメ小説なんでしょうね。


 勉強になりました。

 これが110円とは、掘り出し物でした。

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